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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第五章 世界の成り立ちを僕たちは未だ何も知らない
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騎士を名乗る者達


 夢を見ていた。果てない夢を。


 誰かを守ること、それが全てだと信じていたあの頃。


 しかしそれは呪いでもあった。


 魂の盟約。


 それは七英雄が敗北を受け入れると共に魔族と交わした人類の枷。魔王が人族に課した罰であった。


 人類に魔翼を持つ者が生まれた時、魔族は人族を魔族として受け入れる。


 それは魔族による宥和政策の一環であり、人族に対してあくまでも魔族が優先されることを明確に示したものでしかなかった。


 しかし魔族は何故か、盟約をもう一つ付け加えた。それはただの魔王の気まぐれか、それとも何か意図が存在するのか……今となっては誰も分からないが、その盟約は確かに我々を深淵へと誘った。


 七英雄を()()()()()()()()()()を討ち倒すことが出来れば、その時もまた魔族は人族を人族として受け入れると約束を結んだ。


 この盟約を知るのは七英雄に連なる者達、そして近衛騎士と近衛魔術師に限られる。


 敗北者となった人族には、魔族が提示した盟約を呑む以外に選択肢は無かった。だが、当時の誰もが思った筈だった、どうして魔翼を持つ者などを待つ事ができるのかと。魔族を超える為に、途方も無い力が必要であると。


 それ故に、七英雄は人族に対して、力を積みあげる事を課す為に盟約を果たす為の誓約を一つ加えた。


 魔族に挑む為に、魔族の持つ力を知る、人の世を管理する者を倒すだけの力を育めと。


 それは七英雄の力を写し持つラクタリスを名乗る者が受け持った役割であった。ラクタリスを超えずしてどうして魔族に勝てると言うのかと、七英雄は我々に一つの方向性を示した。


 しかし、七英雄が子孫に遺した誓約は人族に重く圧し掛かった。ラクタリスはただ七英雄の力を受け継いだだけではなく、その身もまた成長を遂げ続けた。そしてそれ故にラクタリスは自身を人類の管理者たらしめ、そして我々にとっての強大な壁として未だ立ちはだかっている。


 過去四度、国王軍と騎士団、そして魔法技術研究所に属する者達が当時ラクタリスを名乗る者に挑み、そして敗れてきた。


 定命の我々が壁を越える為には、技術を磨き子々孫々に渡りその技術を磨き続ける必要があった。研鑽は研鑽呼び、紡がれた技術は淘汰され、気がつけば騎士を象る在り方が決まり、それ以上の変化もなく停滞が続いてきた。


 それであれば、この在り方を変える為に何を変えなければならないのか。それは人間として、生物としての限界を超えることに他ならない。


『私達は今、何処まで至ったのか。それを知る必要がある』


 腰に携えた魔剣を見遣り思う、魔法技術と剣術の融合による肉体の超越、それに騎士は道を見出した。


『我々の刃は、魔族へと敵うのか否か』


 魔法技術研究所は肉体の超越を魂に求めた。それは肉体を捨て、魂を基に構成された存在をこの世に呼び出した。


『ただの人が魔族を超える事が出来るのか否か』


 特別な力を持たない者達は一人では届かない高いを目指し、その数を頼りにすることを積み重ねてきた。しかし、それは形骸化し既に先を目指すことを辞め、今では地を這いながら我々を見上げている。


『そしてまた、始まりを司る者達は何を求めるのか』


 天族、それは七大聖天と呼ばれた七英雄の魂の残滓が作り出した魂の集合体。魂の回廊を超え、彼等もまた、ラクタリスの呪縛を打ち砕くことを存在理由とする者達であった。


『あらゆる派閥、人族にとっての目的は同じ。人でありながらにして魔族を超える。そう、超越者を産み出し、生きとし生ける全ての人の世界を拓くことでしかないのだ』


 その為に私は騎士団の長としてこの身を捧げている。



「ザラツストラ様、失礼致します」


 シュタインズグラード王国、その中央政務区の一画に騎士団の本部としての大規模な建造物が構えられていた。魔法技術研究所とは異なり、地下室は存在せず地上に全ての機能が集約されている。


 近衛騎士の為の宿舎、訓練場といった設備的な機能だけではなく、貴族の動向、国民の生活水準、魔獣の討伐、生息調査、冒険者管理組合に対する管理状況等、あらゆる情報の集積場としても機能していた。


 そんな中、私の部屋を訪れたのは王都、それも聖堂国教会の権力が著しく高い西部地区を受け持つ者であり、近衛騎士の中でもその上澄みである僅か七名にのみ与えられる『剣聖』に位置付けられたブランドン・アークボルトであった。近衛騎士の中でも剣聖を名乗る者達はその下に近衛騎士を部下とし、更に地方に散らばる辺境騎士を取りまとめており、近衛騎士においても剣聖のみが政治に介入し意思決定を行う者達であった。


「準備が整ったか」


 ブランドン・アークボルト、彼のその見た目は騎士としては珍しい、肩まで伸びる、やや癖掛かった髪が特徴の男である。しかし、彼はその物静かさとは裏腹に、剣技の冴えは剣聖の中でも群を抜く逸脱した天凛を持つ、言葉通り剣に愛された男と言えた。


「はい。魔法技術研究所での召喚魔法術式の調整が漸く完了したようです。西部地区ではいつでもアルヴィダルド・イクティノスが術式起動への準備を開始できる状況です」


 それは、聖堂国教会の掃討と共に、召喚魔法術式の発動開始を意味していた。


 そして同時に、人を護る為に、そして人の世を拡げる為に人を殺すという矛盾した行為を決定したことを意味していた。


「アルヴィダルドも良くやるものだな……流石は剣聖に次ぐ者であっただけのことはあるか」


 最盛期を過ぎた者達はいつの世もその定命からの解放を求め、天族の下で己の限界を超えることを求めてきた。力を求め、力に狂い、それでも尚、人であろうとする狂気が根底に存在していることを近衛騎士であれば誰もが知ることであった。


 それ故に、汚れ役を引き受けるのはそうした騎士団を除隊した者達の末路であり、誰もそれに疑念を抱かずにいる。


「いいだろう。それであれば我々は召喚魔法術式の警護に当たることとなるな……。王都に残る剣聖にも伝達をしておけ。時は来た、とな」


 私の言葉をブランドンは無言で頷き肯定した。そして、灰色の瞳を向けながら私に質問を投げかけた。


「ザラツストラ様。我々は、当代のラクタリスを超えるに値する力を得たのでしょうか?」


 ブランドンの射抜く様な視線を正面から受け止めながら、私は気づけば笑みを浮かべていた。それは、余裕や安心を示すものではない。心の底から漏れた歓喜の欠片であった。


「それを証明する為に、我々は戦うのだ。我々は七英雄を超えたことを証明する。それが人族の悲願であればこそ、ノエラ・ラクタリスを我々は必ず討ち斃さなければならない」


 ブランドンは自嘲気味な表情を浮べ「その通りですね」と言うと、踵を返し部屋を後にした。


 そうだとも。我々が力を持つ事を示さなければ、人の手で魔族を超えること等、出来る筈がないのだ。


 

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