表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第四章 停滞した世界は如何にして動きを止めたのか
121/191

三人の戦士 その2 『匂い立つ蠢く者達』


 私が待つ後方では、魔術師が必至に魔法詠唱をしては第二波を食い止める為に魔法構築を急いでいた。私は未だ前線でガンダルヴァを食い止める冒険者や衛兵の様子を見ながら、防衛線が未だ突破されていない事に感心していた。


 何よりも三人の動きが依然と比べ凄まじく洗練されている事に目を見張る。私と共に集落を出てから延々と訓練を続けてきた彼等の成長は目覚ましく、元々の潜在魔力の高さと相まって飛躍的にその能力に磨きが掛かっていた。


 しかし、多勢に無勢、第一陣で終わると思って居たガンダルヴァの群れが更に数を増やさんと差し迫っていた。


「まずいな、第二波が到達すると流石に防衛線が破られる可能性が高いぞ……」


 隣で魔術師の人頭指揮を執る衛兵のぼやきを聞きながら、私もそれには同意見であった、いくら三人が魔獣を食い止められるとしても縦横無尽に広がる四百匹以上のガンダルヴァを止めるのは無理があるだろう。それであれば、防衛線を抜け出すガンダルヴァの駆除を行う為に私も動かざるを得ない。


 魔力感知の範囲を広げ、第二波のガンダルヴァの正確な数を把握すると、総数は四百二十三体と、第一波の二百体余りと比べても明らかに数が多い。第二波は第一波と同じ進路を取り、こちらを気にする様子はなく、一直線に防衛線目掛けて直進を進めていた。


「くそ、何で今年はこんなにあいつ等は粘るんだ? 無駄に数も多い!!」


 焦りを感じる声を上げる魔術協会所属の魔術師の声を聞きつつ、再度魔獣の動きを観察する。その中でガンダルヴァの動きは単純な移動というよりも、統率の取れない逃走、それこそ何かに追われるかのような挙動を見せているように思え、私はそこに対して何等かの裏があることを察知した。


 私は更に魔力検知の範囲を広げ、周囲に何か原因となるものが無いかを捜索する。すると、第二波の更に後方に一際高い濃度の魔力が感知された。一つは強力な魔獣、もう一つは魔術師と思われる人族のものであった。


(人為的な動きが見て取れるか……。さて、どうしたものかな?)


 私は現状に対して防衛線が突破されない限り手出しをしないと三人に約束をした以上、気づかれないように裏で処理するのも吝かではないが、それはそれで不義理という物だろう。


『三人共、聞こえているかな。第二波がそちらに到着するまでに残り十分もかからないだろう。残念な事に残存する魔獣を合わせると五百体を優に超す数になる。君たちの奮戦で戦線は維持されているが絶対数の差から戦線が突破される可能性が高い。その上、更に第二波の後方で魔獣の動きを操る者の動きが見える、敵は魔術師と大型の魔獣、それを止めれば恐らくガンダルヴァの動きも変わる可能性が高い。その上で聞こう。君達はどうしたい?』


 要するに、全てを単独で解決する事が叶わない中で、どのように役割分担をどうするかという問いであり、今回について私は彼等の考えに従うつもりであった。


『……それであれば、私たちがやる事は一つですね。魔術師と魔獣を倒すのが先決でしょう』


『ちっ、仕方ねえな。旦那には悪いがこいつら任せますぜ』


『承知した、スオウとミチクサの面倒は俺が見る。ラクロア様は魔獣の足止めをお願い致します』


 三人はそれぞれ、メインを担当する事を自ら望んで見せた。今の彼等であれば、私としても安心して送り出せる、それだけの力を三人共が証明してみせている。


『はは、腹は決まったね。そしたら君たちを彼等の側に送るよ。それじゃまた後で』


 私は遠距離移動魔法の術式を三人に行使し、目的通り、瞬時に三人を空間移動させる事に成功した。以前であれば空間移動に多量のオド消費をしていたが、癪な事にノエラ・ラクタリスとの魔法研究の過程でオドの効率的な使用が身に着いたようで身体的、精神的負担は極めて軽度であった。オドとマナで使用する法魔法構築方法を変える事でそれぞれに適した、最大効率での魔力稼働を行う事が出来る事に気づいてからというものあらゆる魔法構築の速度、効率が上がり続けている。


 魔翼を使用した上で魔法行使をした場合にどれほどの威力となるのか……更にその先の可能性すらも検討の土台に上がっていた。オドとマナ、同じ魔力でありながら相反する性質を持つ魔力の存在を私は気づき始めていたが、それはこの場で検討するようなものではない。


「まあいいさ。相手の思惑がなんであれ、今やるべきことを全うするとしよう」


 私は三人が抜けた穴を縫うようにして防衛線を抜け出したガンダルヴァを次々と魔力感知に捉え、多連装の魔法術式構築を始めた。


 下位魔法も数を揃えればそれなりの威力を持つ事は先日のアイゼンヒルとの手合わせで十分に確認が取れた。魔獣程度を一掃するのであれば、上位魔法を使用するまでもない。


『重要なことは如何にして目的を最適解にて達成するのか、それが効率な魔術師の在り方だ』とノエラ・ラクタリスは宣っていたが、確かに感じ入る部分はあった。


 私は指に嵌めた触媒を中心に魔力を紡ぎ始め、おもむろに前面へと手を翳した。そして、魔力感知によるガンダルヴァの完全な捕捉を行い照準を定め、そして確実に必中必殺を行う為、魔術師に与えられた力を、言霊を以て具象化し始める。


「極光の槍を御手に持ちて、連なる魔を撃つ撃滅の時を告げる。千装の矢となり敵を穿つがいい」


 魔術師は本来、守られることが前提で魔法術式を構築する。それ故に口頭詠唱による魔法術式の構築は、近距離戦や一対一の戦闘であれば致命的なラグとなり得る。


『魔術師の本来の運用方法は遠、中距離戦における強力無比な魔法術式行使による場の支配さね。お前はノクタスによる戦闘訓練によってその点の認識が甘い。近づく前に殲滅する、それが魔術師と言うものよな』


 魔法詠唱を加える事で、多連型の魔法術式構築を安定させ、標的に対する誤差を修正し、確実に一撃一撃が敵を射るように魔力を編み込み続ける。


 敵を屠るのに十分な威力、十分な精度、十分な数、それが揃ったのであれば、負ける道理も、手こずる道理もない。


『フォトニック・ランス』


 魔法術式名を告げると共に、魔力がエーテルへと干渉し、私の上方に、数百の光の束が一斉に展開され、時を待たずして超高速で射出されると共に各々が意志を持ったかのように軌道を取り始める。


 風を切り、空間を歪ませ、目標へ向けて直進し、燐光を軌跡として残しながら魔獣の群れに雨のように光の槍が殺到し、容赦なくその身に穴を穿ち、ただ一撃の下、魔獣の生命を奪い去り続ける。


 ノエラ・ラクタリスにより授けられた効率的なオド運用による魔法術式の発動、それは魔術師とは後衛にあってこそ最大限の効果を発揮するという思想に基づいた、固定砲台的な魔術師の用い方であった。


 魔力感知によって、戦場に残された冒険者、衛兵、魔術師、魔獣、それぞれの動きが私の魔法術式発動の為に、その場に釘付けとなる様が見て取れる。


 数秒の後に残されたのは、正確無比に魔力核を撃ち抜かれ、薄く雪の残る大地に縫い留められるようにして絶命した、数百匹のガンダルヴァの死骸と、それを呆然と見遣る者達の姿であった。


「なんだあの威力と精度は……新種の魔法術式なのか!?」


「けど詠唱はフォトニック・ランスって……。あれは下位の攻撃魔法よ?」


「なんなんだあんたは一体……」


 周囲の魔術師が唖然とした様子で私を見つめているのを横目でみた後、それに応えるように、にやりと笑って見せると、彼等は少し恐怖を覚えたように後ずさりを見せた。


「恐らくは伯爵側のちょっかいと言ったところか、まあいいさ。後はじっくりと三人の成長を観戦するとしようかな」


 私が魔力感知によって三人の状況を改めて確認しようと動き出した瞬間、不意に脳裏に声が響いた。


『誰か……助けて……』


 私はその消え入るような声に、どこか聞き覚えがあるような気がし、目を細めて次の声を待ったが、その後の反応は見られなかった。


(……これは、夢に見た声、か?)


 私は、声が聞こえたような気がした方に目を向け、ふと気が付いた。その方角にはルーネリアの父が待つ、タルガマリア城があることを。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ