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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第四章 停滞した世界は如何にして動きを止めたのか
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三人の戦士 その1 『ガンダルヴァ討伐』


 ラクロア様の許可をいただき、私達三人はすぐに準備を整え刻限と共に屋敷を出て衛兵及び、冒険者との合流地点へと向かう事となった。拠点防衛の意味合いが強い今回の討伐は打ち漏らしたとしても街に被害が出なければ良く、多くの場合は群れの中で三十体程度が倒されると街を避けた迂回ルートをガンダルヴァは取るのが通例との事であり、今回も例に漏れずそのように手筈が為されている。


 ガンダルヴァは鳥類に似た羽を持つ魔獣であったが、その実行動の殆どは地上で行い飛行能力については滑空程度しか出来ないとの事であった。春から秋にかけて繁殖を繰り返し冬になると山間から標高の低い平地へと降りてくる習性があるとの事であり、多くの場合は雪の積もらない地域へと向かうようだが、その間にも空腹を満たす為に平野の獲物を捕食する事が多く、家畜だけでなく人間もその標的になる事が挙げられていた。その為、セトラーナでは毎年こうして討伐隊を組んで街にガンダルヴァを入れないようにしているようであった。


「しかし討伐ランクB-の魔物の群れを撃退するのは骨が折れる気がしますけれどね」


 私は嘗てエルドノックスと戦った時の苦い思い出がよみがえり、眉を顰めた。ミチクサ、ザイも同様の意見であったらしく、周りの冒険者や衛兵を見ながら彼らがそれほどの実力者であるのかやや疑問を抱いているようであった。


「何、実際にガンダルヴァと戦ってみればわかるって事よ、俺達は俺達に出来る事をするだけだぜ」


「ああ、ミチクサの言う通りだな。スオウ、俺達はこの数ヶ月に渡って訓練を積んできた、無様に負けるような事は無いさ」


 二人は自信をのぞかせるように不敵に笑っていた。私としてもロシュタルトを離れてからの地獄のような鍛錬の日々を思い返す旅、十分な実力が備わってきたようにも感じていたが、慢心をすると、それこそアルヴィダルドとの戦いのように足元を掬われかねない事を理解もしていた。


「何事も先ずは慎重になって損はしないでしょう。私達はそういう経験を積んできたわけですから」


「慎重さは時に臆病に、勇猛さは時に無謀になるという事か……確かにスオウの言う事も一理あるな」


「はは、何れにしてももうすぐ頃合いだ。いつも通りやれば何とかなるさ」


 ザイの冷静さとミチクサの楽観さ、そして私の慎重さ。タオウラカルで狩りをする時もそんな三人だからか、が合わず個々で魔獣狩りをする事が多かった。


 その三人が今ではこうしてパーティーを組んで一つの事に当たるとは当時は思いもしなかったが、それもこれも、私達を外の世界に連れ出したラクロア様のお陰であった。


 しかし、外を知れば知るほどに多様な人と環境に呑み込まれそうになる感覚と、これまで味わった事の無かった挫折感を幾度も味わってきた。それが私達を強くしているのか、それとも矮小な物にしているのかは未だ答えが出ない。しかし、今は冒険者として、ラクロア様の従者として強くなる必要が有るのは間違いなかった。


 私が物思いに耽っている間に、遠くから劈くような高音が耳に響いた。それがガンダルヴァが放つものであるということは、周囲で緊張感を高める冒険者の様子を見るに間違い無いように映る。


「スオウ、ザイ、出番だぜ。久しぶりの実戦だ、鬱憤を晴らすとしようじゃねえか」


「ええ、やるだけやりましょう」


「お前達の背中は俺が守ってやる。存分に暴れると良い」


 三人共に潜在魔力を体内に巡らせすぐさま臨戦態勢を取った。瞬時に武器の先に迄、確りと巡らされた魔力、その速度、強度は以前とは明らかに異なる力強さを漲らせている。


 迫るガンダルヴァの群れを塹壕で待ち伏せをしている冒険者と衛兵の中で魔術師が先行して魔法を詠唱し、群れ目掛けて各々が発動可能な遠距離魔法を見舞った。


 百メートル程度先で巻き上がる噴煙と共に冒険者が一斉に駆け出し、動転するガンダルヴァの群れに殺到した。その流れに合わせ、私達も同様にガンダルヴァの群れへと駆け出し、容赦なくガンダルヴァの喉元目掛け刃を振るった。


 鋭く一枚一枚が鋼鉄の刃と化しているガンダルヴァの羽を私の魔力が籠った双剣が一切の抵抗を感じる事無く易々と引き裂き、そのまま喉元を深々と抉ると鮮血が周囲に飛び散った。


 私の横で大剣を振るったミチクサも同様にガンダルヴァを脳天から大剣の一刀の下に切り裂き、私と同じように確かな手ごたえを感じているようであった。


 一方で乱戦となる事を予期していたザイは私達の背後から援護の射撃を縦横無尽に行い、ガンダルヴァの急所を寸分たがわずに射抜いて行く。


 しかし、初撃の魔法ではガンダルヴァの数は余り削れなかったようで、その数は未だに多く、体勢を立て直されるとこちらにも損害が有る程度出かねない程であった。


「ミチクサ、想像以上に数が多い。可能な限りここで排除しますよ」


「おうよ、旦那もどこかで見ているはずだからな。一匹も通さねえぜ!」


 ミチクサは気合と共に雄叫びを上げると、身体の魔力強化を高め、目にもとまらぬ速度で周囲の魔獣を屠り始めた。私もそれに続くように、容赦なく、可能な限り迅速に未だ混乱状態のガンダルヴァの群れへと突貫を始めた。


 一匹、二匹とガンダルヴァを引き裂き、更に続く標的を切り刻む。魔力によって強化された検知能力によって魔獣の動きは緩やかに見え、身体操作と魔力が合わさり的確に、効率的に斬撃を見舞い反撃を許さずに一方的に蹂躙する。他の冒険者達は思いのほか手こずりを見せており、私とミチクサで既に数十の屍を積み上げていたが討伐数はさほど増えているようには見えなかった。


 その状況に加えて私は突如として『セントワード』で共有された芳しくない情報を知る事となった。


『討伐隊、傾注!! 観測班より追加の報告在り、元々のガンダルヴァに加え更に倍近くの数が山からこちらに向かっているとの事!! 第二波に注意されたし!!』


「ミチクサ聞きましたか? 第二派がこちらに迫ってきているようです。元々聞いていた情報ではある程度討伐すれば撤退して行くとの話ですが、依然としてガンダルヴァはこの場に残っています。長期戦も覚悟する必要がありそうです」


「はんっ、いずれにせよやる事は変わりねえ! ザイ!! ありったけの矢を打ち込んで援護を頼むぜ!!」


 ザイからの応答は言葉の代わりに、ミチクサを襲おうとしたガンダルヴァを一矢で絶命させる事でその答えとしていた。それを見たミチクサはにやりと笑みを浮かべ、眼前に迫る魔獣を次々と横薙ぎに切り伏せて見せた。


 先ほどの情報共有の通り、遠目に迫る新たな魔獣の群れが視認出来た。後方では魔術師達が第二波目掛けて遠距離魔法の詠唱を始めており、先ほどと同様に足止め工作を行う腹積もりであるようであった。


 当初の想定を超えたガンダルヴァの数であったが、私達は未だ十全に戦闘継続が可能であることを実感していた。それは間違いなく、これまでに積みあげた『微睡の矛』やアイゼンヒルとの訓練の成果が如実に出ているに違いない。


 そうした意味でも、この戦いを通してラクロア様に無様な姿を見せる訳にはいかない。三人共が全く同じ思いを抱いているのは言うまでもないことであった。


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