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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第四章 停滞した世界は如何にして動きを止めたのか
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セトラーナを遊ぶ二人 その2


 セトラーナの街は薄っすらと雪が積もり始めており、木材と石材を組み合わせて建てられた多くの三角屋根の家々からは煙突を通して暖炉の煙が空へと流れていく様子が見えた。これまで見た街とは異なり、街の中心には一際荘厳な巨大な二つの尖塔を備える教会が建てられていた。細やかな技術によって切り出された石材と、そこに刻まれた彫刻の数々に幾度も目が奪われる。その美しさは街の象徴といっても過言では無い出来栄えであり、それを見るにつけて、サンデルス伯爵と国教会の強い繋がりを見て取れた。


「ラクロアは用事を済ませた後は何かしたい事があるの?」


 ルーネリアと館から馬車に揺られて街中を進んでいる間に、興味津々と言った顔で私に尋ねた。


「いや、こちらに来てからちゃんと街を眺めた事が無かったからね。先ずは冒険者管理組合で用事を済ませるとしよう」


「ラクロアはいつも先生の研究所に入り浸っていたものね。先生の言っている事は難しすぎてよく分からないのに、ラクロアは凄いわね!」


「確か、後二年もすればルーネリアも王立魔法学院に入学する予定だったよね。少しずつ彼女が言っている事も分かるようになるさ。と、着いたみたいだね」


 馬車が止まり、管理組合の中へと移動すると内装はロシュタルトの物さほど変わりは無い様子であった。但し、ロシュタルトで受けた歓待とは打って変わり、ガンダルヴァ討伐に向けて事務員含め忙しく動き回っているようであった。


「ほう、その年で中級冒険者か。魔術師なのか、あんた?」


 受付の側でパイプをふかしながら私達に声を掛けた男は私の胸元に光る中級冒険者の徽章に気付き声を掛けてきたようであった。


「ええ。中級冒険者の『白銀』と言います。ガンダルヴァの討伐に加わろうと思いまして。念のため現状の確認をしに来ました」


「そうかい、それは大助かりだな。今年のガンダルヴァの数は去年よりもかなり数が多いそうだ。少なくとも二百体以上はいると観測班から情報が上がってきている。今年の秋は気候も安定していたし、作物も豊作だったからな。恐らくは魔獣共の繁殖が上手く行ったのだろうが、こちとら迷惑な話だぜ。今は管理組合も大慌てでな。一応、支給品は受付で受け取れるぜ。俺も一服したら観察班に加わる予定だ、次会うときは狩場だな」


「情報ありがとうございます。それではまた狩場でお会いしましょう」


 男はじゃあな、と手を振って外へと消えていった。


 私は受付嬢を捕まえ、今回の討伐に参加する旨を告げ、支給品の詰まった麻袋を受け取る間にルーネリアは冒険者組合を興味深そうにそこかしこと眺めていたが、酒場で適度に食事をとるパーティーの姿を見てどこか羨ましそうにそれを眺めていた。


「仲の良いお友達と一緒に食事を囲むというのは羨ましいわね」


「ルーネリアは貴族の友達はいないのかい?」


「お茶会に御呼ばれして、お菓子をつまみながらお話をする機会はあったけれど、頻繁に会うお友達は結局できなかったわね。お父様もあまり良い顔をしなかったから余計にね」


 この年齢で同年代の友人が少ないというのは寂しさを感じるものなのだろう。そういった意味で常にパーティーを組んで動く冒険者の在り方は彼女にとって羨ましく映るのかもしれなかった。


「でも、今はラクロアがいるから寂しくは無いわ! ラクロアもアイゼンヒルのようにずっと家に居ればいいのに!」


「ははっ、ありがとう。けど友達か、ルーネリアはきっとこれから沢山の人に出会って、沢山の友達が出来ると思うよ。僕とは違って、君の活発さは周りの人を笑顔にする事が出来るからね」


 きょとんとするルーネリアは、私が言ったことを理解すると、徐々に頬を赤くして照れた様子を見せた。その仕草は年相応に可愛らしく、私は何となく妹を見ているかのような気分を覚えていた。


「そういう風に言われたのは初めてね。キリシアにはいつも淑女たれって怒られてばかりだもの!」


「はは、貴族と言うのは大変だね。しかし、そうだね、柵という物はいつの時代もどのような生き方をしていたとしても付いて回る物なのかもしれないね」


「うーん? ラクロアも良く怒られていたという事?」


 私の言葉の意味がよく分からないと、ルーネリアは首をかしげながら思案していた。出自、環境、人間が生きる上でどうしようもなく付き纏ってくる社会的要請。様々なものが渦巻き、一見して自由なようで人の生き方を縛り付けている。それの良し悪しを語るわけではなく、そうした生き方のような物が人の在り方と深く関わりがあると言いたかっただけであったが、少しルーネリアには早い話であったかもしれなかった。しかし、曲解した結果、私もルーネリアと同じように誰かに怒られながら過ごしていたと思い至るのは彼女ならではの発想と言え少々愉快であった。


「あっはっは、まあそういう事にしておこうかな。さて、それじゃあ時間が来るまでルーネリアに街の案内を任せようか。例えば観光場所とかあるのなら是非教えて欲しいな」


 私が話題を変えると、ルーネリアは特に気にした風でもなく、寧ろ小難しい話のことは忘れ、目を輝かせながら私についてきなさいと、胸を張っていた。


「ええ!私に任せて頂戴!」


 夕方になるまで私は、ルーネリアの案内に任せてセトラーナの街を歩き回る事となった。平和で、趣が有る、魔術協会、そして国教会とも共生している街は今は緊張感が漂うものの、それが無ければ活気のある光景が広がっていたに違いない。


 それを治めるサンデルス伯爵と、傍らにいるノエル・ラクタリス。彼等が何を企み、ルーネリアをどのように処遇しようとするのか、街が見せる豊かさとは裏腹に私は人の闇を除いているかのような一抹の淋しさを覚えていた。


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