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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第三章 隔絶された世界の行く末は何処にあるのか
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別れ、そして新たなる旅立ち


 ふと、目が醒める。先ほどまで見ていた白い世界は既に失せ、現実に引き戻される感覚と共に、自身がベッドの上に横たわっていることを改めて認識する。


「旦那、起きていますかい? 昼過ぎには出発が可能な見込みです」


 扉越しのザンクの声に完全に意識を覚醒させ、すぐさま応答をしてみせる。


「ありがとう、ガイゼルダナンともこれでお別れか。そう考えるとダルヴィード達と別れてもう三日経つ訳か……」


 『微睡の矛』の出立の為に私達が使用していた馬車や馬を与えた事で、ザンクが荷馬車と馬を新たに調達するのに二、三日必要とのこともあり、私達はアルバートと『微睡の矛』の出立を見送った後も、ガイゼルダナンに逗留する事となっていた。商工会議所経由でザンクによって荷物の準備を進めていたものが漸く準備が整ったということらしい。


「まあ、ここは交通の要所となる都市ですから、また訪れる機会もあると思いますがね……。『微睡の矛』の皆さんも無事に領地に辿り着けていると良いのですが」


「そうだね。アルバート様の体調もある程度回復したとは言え、万全とは言えない以上、道中なにもなければいいけれど、まあ大丈夫だろうよ」


 『微睡の矛』との別れはあっさりとしたもので、「世話になったな、俺達は引き続き『微睡の矛』としてアルバート様をお守りする。それが、俺達にとっての自由に生きるってことだからな」等とダルヴィードは我々にそれだけ言うと、ロッシデルト領へと向け『微睡の矛』とヴァリスの遺体、そしてアルバートを引き連れガイゼルダナンを後にした。


「そうですね、ヴァリス様亡き後とは言え、準上級冒険者の皆さまですからね……。私はこの後、ガイゼルダナンの商工会議所にも顔を出してきますので何か新しい情報があればお知らせしますね」


「うん、頼むよ。それじゃあまた後で」

 

 ザンクはそれを私に伝えると足早に宿を後にした。


 私は水差しからコップに水を注ぎ、一気に飲み干すとローブを纏い、支度を進める事とした。


 今にして思えばガイゼルダナン家と要請すればすぐ様諸々の用意をしてもらえる可能性はあったが、貴族はそう簡単に借りを作らないのが通例であるとアイゼンヒルは言っていたが、貴族とはそう言うものかと理解しつつ、複雑な貴族同士の関係性に若干辟易していた。


 今回のルーネリアが見せた二面性にしろ、ガイゼルダナン家との新たな関りの持ち方にせよ、関係性の複雑さが思いのほか厄介であっただけに、各勢力における力関係については常に目を光らせておく必要があるように感じられた。


(しかし、ルーネリアの思惑に乗ることでガイゼルダナン家との関係性を手に入れることが出来たのは僥倖と言えるか……一方で、ルーネリアが私の思考を読み取った上で入手している情報漏洩の可能性については気を張っておくべきだな。とは言え、目下の問題はタルガマリア領とゼントディール・サンデルス伯爵か……)


 ルーネリアとアルバートとの会談に合わせ、改めてシャルマ公爵と今後の方向性についてすり合わせることとなったが、タルガマリア領内に教皇派の者達が駐留している可能性にあった。元々、ルーネリアを狙っている彼等の直中に飛び込むことを考えると決して楽観視が出来る状況ではないのだろう。


(戦いの後にはまた戦い……その裏で暗躍する騎士団、魔法技術研究所が何を考えているのか。強力な力を持つもの達が何を求めるのか、争いの火種をばら撒く意味か……今は考えるだけ無駄か)


 悶々と思考を巡らせつつも、出ない答えに頭を悩ませるのを止め、昼まで再びガイゼルダナンを練り歩く事とした。



 通りを歩く中で、大小様々な劇場や、道端でおひねりを目的する鼓笛隊、大道芸等、ロシュタルトでは目にすることが出来なかった者達を眺めつつ私はガイゼルダナンひいてはスペリオーラ大陸における文化的な習熟度について考えを巡らせていた。


 ガイゼルダナンにおいて、音楽や劇と言った文化的な催しについて、これまでその中身まで確りと把握することは出来無かったが、そうした興行が行われる態度には安定した治世が行われているというのはトリポリ村で抱いていたスペリオーラ大陸の印象とは多少異なる様相であり、単純に私の興味を刺激するものであった。


 ガイゼルダナン家の館で得られた建築における様々な趣向については貴族趣味として一つ理解ができるものであったが、絵画や凝った調度品等はそれほど見受けられず少々物足りない思いを抱いていただけに、こうした街歩きで得られる情報は私にとって貴重なものであった。


『ラクロア様、そろそろご出発のお時間のようです』


 市街を歩く中で、不意に私に届いた念話はキリシアが寄越したものであった。私の魔力感知に干渉させることで、本来の距離以上に連絡を付ける事が出来るようであった。


(面白い使い方をするものだな)


 ロシュタルトで彼女と出会った際はその実力をひた隠しにしていたが、先の教皇派との戦いの中では一級魔術師としての力量を十分に発揮していたことも考えるとこうした一芸も造作なく行使可能なのだろう。


『ありがとう、直ぐに戻るよ』


 私はガイゼルダナンの街並みに後ろ髪を引かれる思いをしつつ、胸中でこの交易都市に別れを告げる事とした。


(さらばガイゼルダナン。次に訪れる時はこの街を堪能できる程度には身軽でありたいものだな)


 それは容易ではないであろうと分かっていながらも、私は自身の気を引き締める為に、一つの目標を胸に秘めつつキリシア達の待つ宿屋へと再び足を向けた。


いつも本作をご覧いただき誠にありがとうございます!


第三章ガイゼルダナン篇が終幕となり、次回から第四章が開始となります。

引き続き何卒宜しくお願い致します。


また、もし本作をお気に入って頂けましたら、ご評価及びブックマークをいただければ幸いです。


私が馬車馬の様に更新を続ける燃料となります!




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