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魔族的宥和政策が人族の目から如何に映るのか僕達は未だ何も知らない  作者: 緑青ケンジ
第三章 隔絶された世界の行く末は何処にあるのか
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魔術師とルーネリア


 この白い場所に来るのは何度目だろう。


 何も無く、吸い込まれるような白い世界。深淵を覗き込むような虚無と、それでいて何故か安心を覚える矛盾した感情の起伏……これは夢で見る幻の類、そのように考えていた。


 しかし、こうして覚醒した意識下において確かに私はこの場所を見慣れた白い空間として認識している。この場所に来れば来るほどに、その存在を明確に認識するようになり始めていた。


 そして、今日は()はおらず、この場にいるのはルーネリアと私のみであった。


『ラクロア様、お話がございます』


 凛とした声、冷ややかささえ感じる声音に私は彼女が本人格のルーネリアであることを認識する。


「魔力の使い過ぎで、意識の表層に僅かな時間しか出てこれない状況、そう言う認識でいいね?」


 ルーネリアは少し躊躇いがちに自分の状況について情報を開示し始めた。


『はい、シャルマ閣下との会談時も僅かばかり回復した魔力を再び消費してしまいました』


 二週間に渡って回復に努めていたものの、結局シャルマ公爵との駆け引きの合間に能力を用いた事でそのなけなしの魔力を使い切ってしまった、という事らしい。


「先読みは良いけれど代償が大き過ぎるのが欠点かな。一杯食わせてやろうと気概を感じたまでは良かったけれど、正直なところ、あれは少しやり過ぎたね。僕も思わず笑ってしまったよ――それで、話とは何かな?」


 私は思い出し笑いをした後に、神妙な面持ちのルーネリアへとこうして私の夢枕に立った理由を尋ねた。


『私の父、ゼントディール・サンデルス・タルガマリアについてです。父は教皇派と繋がり、国王の弑逆を目論んでいます。しかし、それは叶う事の無い幻想。その幻想に溺れさす者達が暗躍していることを今回のアルバート様の救出で理解していただけたかと存じます』


「国立騎士団、そして国立魔法技術研究所この両者だね?」


『はい。父の情念を燃やす者達であり、()()()()です』


 ルーネリアは明確に自らに敵であると宣言を放つ。しかし、それはルーネリアにとっては間違い無くとも、果たして私にとってはどうか、という問題が残る。


「私達とは、それは僕も入っているという事かな?」


『その通りです。彼等は王国を護る者達であり、魔族を殺す為に全てを捧げてきた者達。それであれば自ずと貴方は彼等と対峙せざるを得なくなるでしょう』


 ルーネリアは騎士団や、魔法技術研究所の者達が魔族を敵と認識する以上、私もまた彼等と相対せねばならないと言う。しかし、事の本質はそこにはない。


「それは少しばかり暴論と言うものだね。『魔翼』を持つ事と、彼等と僕が戦う事はイコールでは結びつかない。ルーネリア、君は未だ何か隠しているね? 神のお告げの如く、意味有り気な言葉で気を惹くのは結構。しかし、そうしなければ君の目的が全て達成する事は出来ないのではないのかい?」


『……』


「君に未来視の能力がある事を前提に考えた推論でしかないのだけれどね。まず第一に君は僕とエルアゴールの邂逅を望んでいた。勿論、そうしなければあの場で全滅は免れなかったのも事実。けれど、僕はあの段階で『魔翼』を持つ事を公とせざるを得なかった、これは僕にとっては大きな痛手だったよ、僕が何者であるかを少し考えれば、その真偽はともかく、魔族との繋がりがある様に見えてしまう。その一方で聖堂国教会の内紛において政局を憂慮するガイゼルダナン家との繋がりを僕にちらつかせてきたわけだ。僕にとってこれは渡りに船だったと言わざるを得ない。シャルマ公爵との伝手はサンデルス伯爵家の伝手よりも魅力的に映るのは目に見えているし、サンデルス家から支援者を鞍替えした行動であったが、君はそれも君の能力によって読み切っていたね? それを理解したのは先日の会談時に見せた、シャルマ公爵への釘刺しだよ――やり過ぎた、と言ったのは、君は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実を露呈させたことに対してだよ。違うかい?」


 ルーネリアは黙したままであったが、それはこの場では肯定と同義であった。


「僕を掌で動かし、戦力として保持しつつ君が何をしたいのか……辺境騎士、魔術師以上の実力を持つ、近衛騎士と魔術師との戦い、これは確かに有り得るね。そして七大聖天と名乗る者達も同様だ。少なくとも残り六人はあれクラスの怪物がいると考えるべきだろうからね。そして僕は考えなければならない、君の目的が本当にそうした怪物たちを打ち斃すことに向けられているのか、ということだ」


 私は一息置いて、更に言葉を続けた。


「僕は聖堂国教会の内紛を治めることに対しては特に異議はない。正当性はどう見ても穏健派が持ち合わせている。君が人柱となることを選ぶ事も特に止める事はしない、それ以上の選択肢が見当たらないからね。そう、君が聖女となる道を選び、穏健派に就くと表明した時点でこの内紛の終着点は見えているんだ。相手がまともであれば、尚の事これ以上ことを荒立てるようなことはしないと思うけれどね……つまり、それでは収まらないと君は思っているわけだ」


『そこまでが推察ですか……ラクロア様こそ、人の思考が読めるのではないのですか? おっしゃるとおり、私には未だラクロア様へお伝えしていない真実がございます。けれど、それは言葉では伝わらないものなのです。それ故にノエラ・ラクタリスにお会い下さい。そこに貴方の出生の在処がございます』


「全く、痛いところを抉るものだね。確かにそれは、僕にとって興味を惹く物ではあるか……いいでしょう、もう暫くはルーネリア、君の駒として動くことするよ」


『ありがとうございます。ラクロア様無しでは辿り着けない場所があると、それだはお伝えしておきます』


「タルガマリア領までの道のりはそれなりに時間が掛かる筈、暫くは安心して休むといい」


『ご配慮感謝いたします。この先に訪れる幾つもの困難、無事に潜り抜けられる事を祈願しております』


「はは、本当に君は聖女のような事を言うね」


『ふふ、それが私の在り方ですから』

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