09 サービス君の謎は深まるばかり
手鏡を見て死後硬直のようにピタッと固まってから少し経った頃。
「さて、俺の体は全く知らないものに変わってしまった訳だが……これって絶対、リンたちに刺された毒針のせいだよな。でも、もしもそうだとして、なんで俺の顔は少し細まっているんだ?目つきも前より良くなっているし、濃青で群青のようなその目は自分でも見惚れてしまいそうだ。」
俺は今の自分の姿をいったん整理すべく、ぶつぶつと御経のように声を出し始めていた。
髪色は毒針と同じになっただけだし、毒が髪を変色させたのだとわかるが、何故、目の色までもが変わってしまったのだろう。それも全く関係のない群青色に。
俺は自分の頼りない脳みそをフル回転にし、その答えを導こうとする。
しかし、流石は全教科オール2の通信簿の持ち主。全くもって理解不能だった。ていうか、オール5の天才にだって理解できないだろう。手がかりが少なすぎるからな。
けれどもここで、俺は自分にある(居る)知識の持ち主の存在を思い出す。
(なぁサービス君、俺の目が群青になっているのって、なんか理由があったりするのかな?)
俺は心の中で、自分にこの世界の分からない知識を教えてくれるサービス君に話しかけた。
そう、サービス君だ。彼……いや彼女?そもそも性別があるのかも不明だが、俺にこの世界のことを教えてくれる存在ならば、この事も説明できる可能性がある。
そう期待をしたのだ。
そして肝心の結果は――
(今はわかりません。しかし、この後の将来、理解する機会が備わっております。)
だ。
何だ、分からないのかよ。
けれど俺は、それよりも今言った別の言葉について疑問に思ったことがある。
(サービス君。俺は今、そのうちわかるからって言われた気がするんだけど……サービス君って未来が見える天職だったりするの?)
サービス君は、王宮側が救世主側のために用意してくれた、いわばお助けロボットのようなもの。
それなのにこのお助けさんが、未来の情報を知っている?そんなことはあり得るのだろうか。
もしかすると、サービス君たちお助けロボットにも意思はあり、それぞれ人間のように天職が与えられている可能性もある。
(いえ、そのような能力はありません。それにサービス魔法である自分には、天職など与えられないのです。……もうこの話はやめにしましょう。)
(あらそう……?)
サービス君は未来が分かる能力を持っていないし、そのような天職を授かっているわけでもないらしい。
って言うかサービス君、今完全に話をそらしたよね?
だって、「もうこの話はやめにしましょう。」なんて、そんなストレートな断り方普通はしない。この断り方では誰だって気付いてしまう。
普通、「それより、あなた様の天職である”農民”はそのままなんですか?ステータスが上がっていたりなどはしていませんか?」など、天職関連から上手に話を逸らすだろう。そうすれば誰にも気づかれず、自然に話の展開をそらすことができるはずだからな。
って言うか、俺の天職の”農民”も進化している可能性がある!……天職が進化するなんてことがありうるのかはさて置き、一日たたずに死んでしまうような毒針を刺され、おまけに長時間水につかってしまっていたのだ。
それに耐えたことによって、毒のエネルギーを魔力に変換したとかありそうじゃないか!?異世界でのお約束的な?
俺はそんなことを思い、今着ている学校の制服の胸ポケットからボウカーを取り出す。
そして、薄々感づいては居たけれど、これでまた俺は落ち込んだのだ。
「
救世主用冒険者ギルドカード
【名前】梅津ヒロ
【職業】農民
【魔力】980
【耐性】毒無効・水性攻撃耐性
」
俺の魔力……、ちっとも上昇していないじゃんかよ!!980って、平均2000からすれば本当にただの最弱だ。
しかしここで、俺はボウカーの異変について気付く。
「なんだ?【耐性】って。一昨日に王宮で見たときにはこんなのなかったぞ?」
そう、新しい項目が追加されているのだ。そしてその中には毒無効に水性攻撃耐性がある。
なんだ?……これ。そして何故、毒と水性攻撃なんだ?そもそもいつ付いた?
何かこの2つには関係性があったのか?だから毒と水の耐性を獲得できた?だとしたら、何かが…きっと。
そして俺は、とある1つの答えを導き出す。
自分が長く触れたものに対して、体がその物に触れたときに負けないよう、ある程度慣らしておくと言うものだ。
これならば毒無効も水性攻撃耐性も説明することができる。おまけに、何故毒が”無効”で水性攻撃が”耐性”なのかも。
俺は弓から発射された毒針を、脚にもろ食らってしまった。そしてそれからは、夜から朝まで毒によるマヒ状態を味わったのだ。
毒無効とは、その中で体が毒に対抗するために頑張って作り上げた、毒に対する一種の拒否反応なのかもしれない。
水性攻撃も同様、ベネレン大河を俺が下っていく際、あまりにも長い間水に触れてしまった為、体が俺によこした拒否反応のせいがある。
ではなぜ、毒は”無効”で水性攻撃は”耐性”なのか。それは、体へかかってしまった負担の大きさが関係すると考えられる。
毒は体に入った瞬間に猛烈な苦しみを与え、体へダメージを多く与える。そのため、耐性を作る際に強烈な毒にも耐えられるもの、すなわち”無効”を作り上げるのだ。
一方で水性攻撃は、そもそも俺は攻撃をされていた訳ではなく水につかっていただけ。おまけに水は、体へのダメージを多くは与えない為、普通の”耐性”という形に作り上げたのだ。
俺は、この意見に自信を持てる。だって、筋が通っているし、サービス君が言う事にそっくりだろう?
(な、サービス君。)
(はい。その通りです。この世界では、その物から強烈なダメージを受け続けた結果、耐性を獲得する者も居るんです。)
ほら見ろ。言った通りだった。と言うか、「者も居る」ってことは、耐性を獲得できない人もいるってことか。なんかそう考えると、俺は農民でも良かったのかもしれないな。
(……何とも言えません。)
(おい!こら。そんな現実的な考え方しないの。もっとポジティブに考えよう?俺だって、仲間に見捨てられたけど、「許さない」「絶対に復讐してやる」「エイをぶっ殺す」としか思ってないもん。)
(笑顔でそんなこと考えていたんですね。それに、それはポジティブではないと思いますよ?どちらかと言えばネガティブ側ですし、そもそもネガティブではなくただの復讐心だと思います。)
(まぁ固いことは気にしないの。って言うか、あれ?)
俺はふと王宮でのことを思い返した。
王宮での出来事。
それは、ボウカーの最終欄。王宮ではあった、【説明】が消えているのだ。
この”説明”とは、サービス君の事。そこをタップした際にサービス君が俺の脳内に現れて、この世界について様々なことを教えてくれたのだが、その説明が消えているのである。
確か必要なくなった場合は、もう一度タップするとサービス君が消えるって言っていたはず。
これではサービス君が消えないではないか。
いや……今のところは消えてほしいと一度も思っていないんだけどね。
でもさ、もしも彼女とかできたらさ、寝る時とか…なんかいないでほしいじゃん?ね?彼女ができるかもわからないんだけどね?
(ねぇサービス君、なんで俺のボウカーから【説明】の欄が消えている訳?)
(そっ……それは。)
サービス君は感情がある訳ない……はずなのに動揺し俺に話す言葉を考えているようだ。
という事は、やはり何か隠して――――――
(サービスくn……)
俺がもう一息で押し切れそうなサービス君に話そうとしたその時――
「ねぇヒロ。あなた、鏡を持ちながら何考えてるの?自分がかっこいいとでも思ってる訳?表情が落ち込んだりにやけたりして……ちょっと気持ち悪いわよ?」
サービス君は自分の中に居る。つまり、自分とずっと会話しているようなものだったのだ。
って俺、ただの変態じゃぁ無いか!!
そんな訳でサービス君を攻めるのは後回しにし、俺はルイの所へ戻っていくのだった。
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