04 パーティと傲慢男
もう少しで第0章終わりです。何もない平凡な話しかなくてすみません。
エイ君は俺のカミングアウトを聞いた後、チリンス国王の元へてくてくと歩いて行った。無言で数秒黙った後に。
それは物凄くシュールで、ある意味俺を馬鹿にしているようにとらえることができるほど。なんだよ。結局は行動で俺を馬鹿にしているじゃないか!!
まぁそんなことは置いておこう。問題は、俺が農民なのを知り大声で笑っているリンちゃんとナツミちゃんにどのような反応を返せばよいのかだ。手をたたきながら片足を重心にし大きな口を開けるリンちゃん、それを指さしながら片手で口を押えて笑うナツミちゃん。リンちゃんはともかく、ナツミちゃんは口を押えているにも関わらず声が駄々洩れている。たまにいる、校長先生の禿げ頭で笑ってしまい、それを必死に堪えようとする生徒みたいだ。
これが雑魚職業と知った後の一般的な反応なのだろうが、分かっていても腹立たしくなってきた。
でも友達に向かって強く「何からかっているんだよ!」などということはできない。元が陰キャだということもあると思うけど...普通に考えて友達にそんな事言わないよね??
そんな訳で今更ながら言葉選びに迷っているのだ。
「雑魚職業だったけど仲良くしてね。」とか...?いや、なんかなれなれしすぎるよな。しかしこれよりも少し堅苦しくて確実に自分の思いを伝えられる案がない。一体どうするべきなのか?
そんな俺の脳内で行われた馬鹿らしいほどに少しの演算の結果回答例がなかった件も、国王が開いた口によりすべてが無駄へと化す。
エイ君が国王へ何かを話に行った後、王様と何やら会話をしているのが聞こえてきた。誰かさんら2人が大声で笑っているせいで聞き取ることができなかったが、機密事項を話しているようなゲスイ顔でいることから重要な話だというのはなんとなくわかる。
誰かさんら2人のせいで聞こえなかったんだけどね。いやぁー、誰だろーなー。俺には全く分からないやー。
すると直後、チリンス国王が先ほどの説明に追加する内容を話し出したのである。
要約するとこうだ。
様々なレア職業になったであろう救世主(俺はなっていないのだが)の人は、1~5人のパーティを組み、この国の至る場所を「冒険者」の仲間として冒険してもらう。
冒険者というのは、「冒険者ギルド」に所属し様々な依頼、この荷物をここに届けてくれだとかこの魔物を盗伐してくれというのをこなし、それに見合うお金をもらうことで生計を立てる人たちのことだ。リスクもあるが、その分魔物討伐は報奨金が大きいらしい。冒険者ギルドがこの世界で一番早く魔物情報を集められる為、救世主の仕事はこのように決定したのだとか。
そして救世主にはこの国の支部であるアルファテニク冒険者ギルドに所属してもらい、様々な問題をいち早く解決してもらうことを要求するそうだ。
しかし、これでは一般の冒険者と何ら変わりはなくなってしまう。国王が先ほど話していた「特権」がサービス君以外ないのだ。強い救世主には他にも何らかの特権がなければいけない。
そんな訳であのボウカーが作られたのである。俺は救世主用しか見たことがないからわからないが、救世主用の物は特別らしい。まぁカードの名前が「”救世主用”冒険者ギルドカード」になっている時点でなんとなく気になってはいたけど...。
主な特権内容は
・同じ依頼を受けたい者が何パーティもある場合優先される。
・報奨金が上がる依頼がある。
・救世主以外の他の冒険者パーティへ命令をできる権限を持つ。
・悪い行動(※盗みやセクハラ、パワハラ)をした冒険者を自己判断で罰することができる。死刑は含まれない。
だ。もちろんその特権を持つ代わりに早急な依頼の達成が必要なのは言うまでもない。けれど、ここまでの特権をくれるなんて...案外異世界の救世主も楽かもしれない。って、農民の俺が言うセリフではないか。
そして資金が1人100万G与えられる。Gと言うのはこの世界の通貨で、全ての国で共通して使えるらしい。物価は日本と同じで、1G=1円だ。つまり100万Gは100万円ということになる。
......って、100万G!?1人100万G送られるってことは、ここにいる全員の救世主への金額を計算すると1億Gってことになる。この国家、とてつもない大金を持っているなぁ。全く関係ない場所から来た人達に1億Gあげられるって、もう完璧な国家が成立しているんじゃないか?税金のシステムとかがあってもおかしくない。
まぁそんな話は置いておこう。
これが国王の話の全てだ。つまりここから、俺たちの冒険が始まるのである!
♦♦♦
場所は変わり、パーティ会場。
正確に言えば、俺たちが召喚された最初の部屋である。
俺たちは皆、何事もなく100万Gを受け取り現在この部屋で集まっている。
その場所には円状の机が幾つか置かれており、白いテーブルクロスが掛けられていた。机の上にはおいしそうな御馳走がたくさん置かれている。THE貴族のパーティといった雰囲気だ。
俺たちが今ここで何を行っているのかというと、冒険者パーティ結成のための交流会である。
国王の言う通りなら2~5人でパーティを組むということになるが、召喚された人たちは皆繋がりが浅い。というか、ほぼ初対面なのと同じである。ショッピングモールからいきなり召喚されたため無理はないがな。
そんな訳で、パーティを組むために交流を深めているのである。この会場はチリンス国王が用意してくれたため、高級料理が食べ放題!いやぁ...実に最高!
しかし主催してくれた国王はどこかへ行っている。まぁそんなことどうでも良いよな!
「って、まずはエイ君たちを探さないと。」
俺はエイ君たちを探し出した。
え?一緒に行動していなかったのかって?一緒に行動していたさ。ただ俺がトイレに行っている間に逸れてしまっただけのこと。うん。王宮のトイレまでの道のりが巨大迷宮だったんだもの。仕方ないよね?
そんなことを考えながら、早歩きで歩く。
するとーー、
ーーゴンッーー
俺とすれ違った人に肩を当ててしまった。当たったと言うよりはぶつかった...かな。その人も俺と同じ救世主冒険者のようだった。周りには数名の美人女子たちが群がっていて...ずるい。
それにしても何とも傲慢な人だ事。その上から目線の目は、まるで俺を見下しているかのような冷たさがあった。見た目も金髪ヤンキーイキりだし、ちょっと苦手なタイプかも。って、陰キャが何好き嫌いなタイプを語ってるんだって話だよな!
そしてなんかバールのようなものを持っている。ヤンキーのカッコつけなのだろうが、どこから持ってきたのだろう。国王に頼んだのかもしれないな。
って、あ、ネット通じるか確認したり写真撮ってたりしていたスマホ大好きガールも傲慢男の女性群れの中にいるのね。俺、この子結構タイプだったから少し悲しいなぁ。そしてこの傲慢男、こんなに可愛い子たちを何人も。許せない!!
俺の中で傲慢男の評価が3段下がり、スマホガールへの愛が3段上がった。
「おい!ぶつかったらまずは謝るだろうが!」
するといきなり、傲慢男が俺に怒鳴ってきた。
俺はつい、「何言ってるんだよ!悪いのはお前だろ!!」と言いかけて息を止める。
理由は明白。これって、どう考えても俺が悪いよな。何お約束の逆切れ男だと思い込んだんだよ。危ないところだった。これで口を止められなかったら、完全にフルボッコだっただろうな。
「ごめんなさい!今度からは注意します。」
俺はそう謝り、深い姿勢で礼をした。しかしこの男、見た目通り遥かに最低な男であった。
「おい!お前本当は悪いって思って得ないだろ!誠意は金で表せ!金で!」
なんとその男は、自分が悪いと思っているなら金を払えと言ってきたのだ。
いや...、手にワインを持っていてそれをこぼしちゃったならまだわかるよ?ううんごめん、ヤンキーみたいな安っぽい服だしそれだけで金払えとかちょっとわからないかも。
けれど相手は迫力のある顔で俺を睨んだまま。その睨み顔が面白かったりするのだけど。
ちょっとここで「そんな、お金なんて払いません。」なんて言ったら怒られそうだ。一応俺が気になったこともあるし、優しい目で聞くとしよう。
「あのぉ...ちなみにおいくらですか?」
気になったこと、それは値段である。だってこれでいきなり10万Gとか言ってきたらたまったものじゃないもんね。そんなの払わないといけないなら1発殴られた方がましだ。
しかし相手はヤンキー。10万Gなんて甘かった。相手はいきなりぶっ飛んだ値段を言ってきたのだ。
・
・
・
その値段はなんと!50万G。うん、ふざけているよね。自分の手持ちの半分もあげられるわけないじゃん!
俺は値段を聞くと、率直に「いやです。」と答えた。
♦♦♦
数分後。
俺は全身痣だらけになり、その場で1人倒れていた。傲慢男はもういない。
途中で50万Gを差し出したから暴力はこのぐらいで終わったけれど、いつまでも出さないでいたら恐らく殺されていただろう。結局50万Gをあげてしまったのだ。はぁ、こうなるなら最初からあげておけばせめて怪我はしないで済んだのに。俺は後から後悔した。
本当にヤンキーは嫌いである。元の世界では学校でいじめられ、こちらに来たら死ぬほどの暴力を仕掛けてくる。この世からヤンキーがいなくなれば良いのに。俺はそう思った。
普通の暴力だけならばまだ良かったかもしれないが、傲慢男はそれ以上に半端なかった。
周りを見ると、皆ちょくちょく自分の職業を使いこなしているのが分かる。今のところは魔法系職業の人が手から少しの光を出して喜びながらワチャワチャしている所しか見れないが、恐らく武道系や格闘系の職業も実践をしないと確認できないだけで、その効果は出始めているだろう。
何より、傲慢男がそれを証明してくれたのだ。
彼、傲慢男の職業は「剣王」。その名の通り剣の達人である。召喚されたばかりでまだ剣は持っていなかったが、その攻撃は剣のようなもので放てば威力が一段と強くなるのだ。例えばバールとか...。
もうお判りいただけただろう。俺は、傲慢男のバールによってあっという間にボロボロにされたのである。普通の鉄バールでも威力は十分だったろうに、それを剣王で叩かれた。ほんと、ヤンキーは最悪だよっ!
俺は自分の「農民」と言う何もできなかった職業に怒り、それと同時にヤンキーからは逃げよう。そう思ったのである。
そんなとき、
「おーい!ヒロ。ここにいたのか。」
誰かの声が聞こえてきた。そう、俺が探し求めていた友人、エイ君である。
次話、第0章最終話!!(※予定)小説タイトルの最初の文を回収するのに5話もかかってしまった...。
まぁ次話含めた計5話から伏線(?)が出るので、許してください。
明日は恐らく書けません。
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追記:明後日も書けない可能性「大」になってしまいました。
すいません。その代わり...?土日は書きます!!