03 エイの心情
(なぁサービス君...農民って言うのは、そのぉ...実はめっちゃレアだったりーー
(しません。)
俺はボウカーを見た後、まだ少しでも期待していたことに後悔した。理由はわかるだろう。
何故か俺だけレア職業でないのだ。しかも希望を捨てずにサービス君へ聞いたのにそれを即答されてしまった。とてつもなく悲しい結果である。
いや、それでも俺は可能性を信じる。
(サービス君、職業のことはもう諦めるとして...、この魔力量はバグかな?実は9800だったりーー
(バグではありません。)
またもやサービス君の即答。俺の心は完全に折れてしまった。
確か平民の魔力量が2000と言っていたはずなのに、俺の魔力量は980。普通、何らかのバグとしか思えないだろう?
召喚されて魔力量が膨大になったはずの人間が、平民の平均よりも低い魔力しか持っていないだなんて。最悪である。
そしてさらに、俺の心へと追い打ちをかけるものが現れる。
「なぁヒロ、お前の職業は何だった?」
「私は狙撃手だったの!」
「私は賢者だった~」
いつも学校終わりに聞く声。そう、エイ君とリンちゃん、ナツミちゃんである。
うわぁっ、なんで2人は良い天職なんだよ。俺だけ農民って...。
でも、エイ君の職業をまだ聞いていない。ひょっとしたら、エイ君も俺同様で農民のような職業なのかも。
「えっエイ君の職業は何だったの?」
俺はまだ諦めたくなかった。なので、エイ君に一応聞いてみる。しかし結果はもうわかっているのだ。お約束と言えば良いのだろうか?この空気、この流れ、100%俺だけが雑魚職業というのはすでに決定付けられていた。
そしてエイ君が口を開く。俺は、その唇が動き言葉を発しようとするのを抑えたくなる衝動に襲われた。
タダの変態だと思ったそこのあなた、黙っていなさい。
「え?俺の職業?ふふん...「勇者」だよ!勇者!」
エイ君は軽い口調で腰に手を当て、お尻フリフリしそうな勢いで答えた。それと同時に、俺の心は完全に砕け散ったのである。
エイ君はレアな職業だった。いや、後になってサービス君に聞いたのだが、超激レアの職業だったのだ。なんかアプリゲーのガチャみたいな言い方だが、本当に超激レアだったのである。
勇者。それは、剣の腕は勿論、魔法全般や近接格闘術も学べば学ぶほど成長する職業であった。最後にこの職業の人が現れたのは、例の3次元戦争の時。勇者の職業を持った人が、3次元戦争では大活躍したらしい。
ってことは、エイ君がこの魔物対峙で大活躍するってこと!?
俺はその格差に驚き、完全に直立不動で何もかも考えるのをやめていた。
「おーい!ヒロ。お前は何だったんだよ!」
そんな俺の気持ちも考えず、俺の職業について聞きたがるエイ君。
あーあぁぁ!!もう答えるしかないのか...。
「えっと...農民だけど。」
俺は意を決して答えた。もう...笑いたければ笑ってくれ。ここで笑われて役立たずになるのが俺の運命なんだ。
「......。」
しかしエイ君たちは笑わなかった。なぜ笑わなかったのかは分からない。
が、後になって、俺を陥れるための計画をこの時に作っていたのだとはっきりわかった。いや、すでに陥れられていたのかもしれないがな。
♦♦♦
エイはヒロの天職を聞いた後、どのような反応をすればよいのか困っていた。
ただ、それは優しい友達としてではない。これからはどうやって彼をパシリにすれば良いのか分からないでいたからだ。
異世界へ召喚される前、エイがずっと金欠であったというのは嘘である。というか、普通に考えてそうだろう。エイは普通にバイトをし、普通にお金を稼いでいた。
しかしそのお金を友達と遊ぶのに使うのは勿体ないと思ったのが、ヒロへ仕掛けようと思った最初のきっかけである。
彼は学校で、顔が良いことからかなりモテる陽キャだった。頭もそこそこ良い。しかし無駄に破産する癖があったのだ。
どうにかお金を使わないで自分が良い思いになれないだろうか。そんなことを思ううちに、その賢い頭を使ってとある計画を思いつく。
学校に、いつもボッチでいる梅津ヒロという男がいた。授業中はいつも寝ており、お昼になると1人でご飯を食べる人だ。
THE陰キャという見た目で友達は全くいなかったが、ラブコメの主人公によくありそうなシチュエーションにエイは少し腹を立てていた。
そこで、自分第一である帝国主義な考えを実行したのである。
まずはヒロに軽く会話を持ちかける。するとそれだけで、相手は(友達になった!)と勘違いをすると考えた。ボッチとは、少し話すだけで簡単に落とせる生き物なのだ。
そしてエイは、その計画を実行した。ある日の授業終わり、気楽にヒロへ話しかけたのだ。
その時の目を輝かせていたヒロの顔を、エイは今でも忘れていない。実に見事なまでの騙されっぷりだった。
こうしてエイの思う通りにその作戦は成功し、ヒロはエイのことを友達だと思い込んだ。エイからは一度も友達だなんて言っていない、相手が勝手に思い込んだだけの出来事である。
次に、エイはヒロに自分が毎日金欠なのだと嘘をついた。
ボッチは新しくできた友達が嘘をついているとは思わない。これは科学的にも証明されていることである。もちろん例外はあるが、残念ながらヒロは例外ではなかったのだ。
ヒロは、
「じゃぁ俺が今日の学校帰りにご飯おごってあげるよ!」
と自ら言った。言ってしまったのである。
それは、本人が意思しないまま取ってしまった行動。新しくできた友達に嫌われないように無意識にとったものである。
しかしエイは、この事を逆手に取り利用したのだ。
ここまで来たらもう騙す必要などない。あとは相手が勝手に溝へはまっていくだけなのだから。
さらに、リンやナツミのような女の子も混ぜ、お金を勝手に払ってくれるATM付きのハーレム関係が完成した。
ヒロは、俺たちのために一生懸命土日のバイトを頑張ったのだという。実に哀れな少年だ。
それはまるで、自分の子供ではなくカッコウを育てていると知らないどこぞの母鳥みたいだった。
しかし今、ヒロの職業が「農民」だと聞いて、エイは2つの選択で迷っていた。
その迷っている事とは、今後のヒロの対処法である。
農民はこの世界で最弱職。そしてこの世界は、バイトを頑張ればお金をもらえる世界ではないのだ。
つまり、エイはヒロに頼らず自らお金を稼ぐ必要があった。
まぁ正直、お金を稼ぐことについては問題ない。自分の天職は勇者、つまり確実に魔物を倒してお金を稼げるからだ。
しかしそこで一番問題になってくるのは、何もできない役立たずのヒロをどう扱うか。
ここで出てくる2つの案について悩んだ為、エイはヒロの「農民」というカミングアウトを無言で聞いてしまったのだ。
1つ目は、希望を持ったままヒロを放置をし、付きまとってきても無視する。
これは、いざヒロが一発逆転でお金を儲けられるようになった時用の保険手段である。
もしもヒロがお金持ちになったら、また集ればよい。ボッチはお人好しな為、またすぐに騙させるだろう。
万が一「嫌だ」と言われても、また悲しくて哀れに思えるような理由をテキトーに考えるだけで騙すことができる。
しかし農民がお金持ちになるなんてこと、まず考えられないのであった。
2つ目は、最初にもらうであろう資金をヒロからすべて奪い、何らかの形で殺す案だ。
友達でも何でもないただの植民地が消えたところで、エイには何の悔いもない。
逆に言えば、この世でいらない人間を間引けるという意味で最高なのだ。
今後どのようにして魔物と戦うように命じられるのかは全く分からないが、恐らく資金はもらえるだろう。それさえもらえば、もうヒロには用済みだよ!という考えであった。
そしてエイは、資金がどうなのかについて国王へ聞きに行ったのである。
多分明日は投稿できません。ごめんなさい。
でも恐らく、これからは無断で投稿をお休みする日が
出てくると思うので、ご了承くださいっ!
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