02 最弱職業「農民」
何件かブックマークして下さり、有難うございます!
02は半分ほど説明会です。
この国、アルファテニク王国の国王であるそのジジイ、「チリンス・アルファテニク」さんの話をまとめよう。
まず、この世界がどの様なものなのかについてだ。
この世界には、世界がさらに別れた3つの世界があるという。少しややこしいから、この世界の人はそれを「次元界」と言い、3つの次元界をすべて合わせて「世界」と言う事にしたのだとか。
1つ目の次元界は「天界」。これは天使やら精霊やらが住んでいる次元界で、自然はなく一面不思議な光に包まれている。天使とは昔人間に肩入れをし魔物軍を撃退したとき「3次元界戦争」から、同盟により和解しているらしい。「天界」と「地界」との通行口はこちらの世界から開けないらしいが天界からは開くことができるため、数百年に一度ほど地界に干渉してくるのだ。
2つ目は「地界」。これは俺たちが今いる次元界のことだ。自然豊かで、大まかに分けて人間、亜人、魔物の3種類の種族が存在し、様々な大陸や大洋、国々があるらしい。
3つ目、最後は「魔界」。ここには魔人や魔王が封印されており、他の2つの世界との干渉は一切できないらしい。人間と魔人は犬猿の仲で、地界をめぐって大昔に人間と戦争をしたんだとか。それが3次元戦争である。その時に天使との連合軍にやられ、魔界へと封印されたのはなんとなく想像できるだろう。
次に、それぞれの種族についてだ。
まず天使と精霊。彼らは同じ種族と考えても良い。基本的にどちらとも精神体なため地界には長くの時間居ることができない。しかし攻撃力は最強そのものであり、昔、地界を人間と一緒に魔軍から守ったという伝承で知られている。
彼らが住む天界は地界からの自然エネルギーを元に構築されているらしく、魔人に制圧されて自然がなくなることを阻止するために人間軍に肩入れしたのだとか。
次は魔物と魔人についてだ。魔物と魔人はどのように違うのか。それは基本的に、知性があるか無いかで分けられる。
魔物は姿こそ恐ろしいものの、攻撃力的にはそれほどの物ではない。魔人を封印するのに手一杯だったため、魔物らは全て地界での生息を許してしまったらしい。そして魔人よりも遥かに弱い魔物にすら敗北する人間は、どれほど弱いんだって感じだよな。
魔人は魔物より遥かに強く、魔法を使うために必要な「魔力量」も桁を知れないのだとか。おまけに人間同様知能があり、集団で戦争を仕掛けてくる。昔の3次元戦争では天使が援護してくれたため人間の勝利に終わったが、魔人と一騎打ちだったら完全敗北していただろう。魔人にも種族があり、「ゴブリン」、「鬼人」などがいるらしい。
最後は亜人についてだ。亜人は様々な種族があり、「兎耳族」や「猫耳族」、「エルフ」に「ドワーフ」など、その種類は計り知れないほどいる。彼らは地界に住んでおり、人間との共存を目指している。最も、この国では奴隷として扱われるらしいがな。
人間について言うことはないだろう。1人1人が弱いため大群で攻める。そうして生き残ってきた種族だ。
最後は魔法について。
この世界には魔法があり、その強さは魔法を使うためのエネルギーである「魔力量」に左右される。
人間から魔人まですべての種族が「魔力」を持っており、一応誰でも魔法を使うことができるらしい。
しかし魔人は人間の100の魔力量を誇る。つまり、人間100人で魔人1体と同等の戦力になるわけだ。絶望的である。
そして最後は、1番大事なことについてだ。
俺たちが何をするために呼ばれたのかについて。
この世界は今、戦争の最中らしい。そしてその戦争とは、いきなり活発に活動してきた魔物との対戦。
俺たちを呼んだ目的は、その戦争でこの国アルファテニク王国の安全を守ると同時に、活発になりだした魔物を盗伐するというものだった。
異世界から召喚された者たちは、召喚された際に膨大な魔力を有するという。つまり、その者たちが戦ってくれさえすれば、人間が魔物に勝てないことなんて関係なくなるのだ。
そこでチリンス国王の話は終わった。
「つまり、俺たちには強くなってもらい、この世界を守る救世主になってくれってことか?」
「そういう事じゃ。一方的な事を言っているのは重々承知の上じゃ。だが、三食は勿論、身分の高いものとして優遇するし、救世主冒険者の特権も用意してある。そもそもとして君たちは全員膨大な魔力を持っている。最強として魔物どもを無双する楽しさ、知りたくないのか?」
エイ君が言った質問に、王様は正確に答えた。しかしそこには、俺たちがその話に了承したくなるような発想が混ぜられている。チリンス国王は、本気でこの国のために働いてほしいと思っているのだろう。
「わかった。少し話をまとめるから、少々の時間をくれ。」
エイ君はこういう場面では冷静だ。いきなり異世界へ召喚されたと言われたのに、何一つとして驚いていない。アニメやラノベの見すぎかもしれないが、それでもここまで冷静でいられてすごいと思う。
そしてその言葉に対し、
「よかろう。感謝する。では話を受けるかはさて置き、君たちの”天職”を調べるとしよう。」
とチリンス国王は答えた。
次の途端、国王の脇にいた大勢の騎士が俺たちの前へと動き出す。
そして彼らは1人が1人の召喚者につき、丁寧に”とあるカード”を渡したのだ。
そのカードには自分の名前が書かれており、大きさはクレジットカードと同じぐらい。他にも、何やら変な言葉がたくさん並んでいた。
そういえば、言葉は通用する。この文字も日本語と同じだ。召喚者のスキルで通訳のようなものがあるのか、はたまたこの世界は元から日本語が主流なのか、正直全く分からないが、今後重要にはならないだろう。気にしないでもよさそうだ。
そんな訳で、他の言葉も見る。カードには、次のことが書いてあった。
「
救世主用冒険者ギルドカード
【名前】梅津ヒロ
【職業】???
【魔力】???
【説明】説明機能をオンにするにはここをタップ
」
冒険者ギルドカードって言うのは、魔物を盗伐する冒険者の仲間入りをするためのギルドのカードってことだろう。それの救世主版、つまりこれを持っていれば何かが優遇されるのかもしれない。って、完全にエイ君が言っていた「考えるから時間をくれ」を無視しているじゃないか。
まぁいいや。
名前って言うのは、自分の名前だろう。これも普通に分かる。
職業、これは要するに先ほどチリンス国王が言っていた「天職」の事だ。一般的には「農民」や「鍛冶師」が多いらしいが、俺らは全員異世界から来た人。暗殺者や賢者など、数百人に1人しか生まれないレア職業を持った人が生まれることもあるのだという。というか、レア職業の人が生まれたことしかないらしい。これは期待できる!
魔力というのは、俺たちの魔力量だろう。これは先程説明したことだが、付け加えるならば一般的な人間の魔力量は2000という事だ。俺らがこれをどれほど大幅に超えるかが魔物対峙におけるカギになるのだ。
そして最後に...説明?説明というのは何だろうか。「ここをタップ」と書いてあるし、試しにタップしてみよう。
俺は少し怖い気持ちもあったが、恐る恐るタップという文字に手を触れさせた。
すると次の瞬間ーー
(説明機能サービスへようこそ。気になる事がございましたら、何でもお申し付けください。この世界のことで分かっている事は、全てお教えします。説明が不要になった際は、もう1度このボタンを押してください。)
脳内にいきなり、機械音のような声が響き渡った。
耳から響くのではなく、直接頭へ流し込まれるようなその声。いやな気分になった訳ではないが、とても新鮮だった。
そして言葉を聞き取る限り、この説明ボタンを1度押せばもう1度押すまで、この世界について説明してくれるという事になる。
恐らく、これがチリンス国王が話していた「特権」だろう。この世界で生まれた人が冒険者になるならまだしも、救世主は全員異世界から来たのだ。この世界については知らないことが沢山ありすぎる。
それを教えてくれる魔法はとてもありがたいという訳だ。どんな魔法使いがどんな魔法を使えばこのような魔法ができるのかは分からないが、実にありがたい機能である。
俺はせっかくなので、初めの方はこの機能をオンにしたままでいようと思った。
この時の俺は、この機能のお陰で成り上がることができたことをまだ知らない。
♦♦♦
「それでは君たち。その冒険者ギルドカード、略して「ボウカー」をこの巨大水晶へ当ててみるのじゃ。」
俺がこの世界について説明してくれる「サービス君(俺が勝手にそう呼んでいる)」から様々な話を聞いていると、突然王様が話し出した。最初に俺たちを呼んだのと同じ声で。
その手には1本の銀に輝く筒。どうやら、この筒が俺たちの世界で言うマイクスピーカーを表しているようだ。
そして国王の隣にはそれに力を注ぎ込んでいる布を腰に巻いたお兄さんがいる。あ、この人がスピーカーみたいになる魔法を注ぎ込んでいるんだな?お疲れ様です。
俺は思わずその人に一礼をした。相手も気づいたようで、お辞儀を返してくれる。どうやらこの世界にも礼儀や一般的なマナーは存在するようだ。
国王の大きな声を聴いた救世主は、全員黙り込んだ。まぁ当然だろう。ステンドガラスの扉を挟んで聞いても大きすぎたその声が、扉一枚挟まずに直で耳へと入ってくるのだから。国王も、もう少し加減をしてほしいものである。
俺はそんなことを考えながら、先ほどチリンス国王が言っていた通り、このカード、ボウカーを水晶へと触れさせた。ボウカーって、何気にかっこいい名前だよな。ジョーカーとボウガンを混ぜた感じ。
っと、ーー
ボウカーを水晶へ触れさせた瞬間、俺のカードが光出した。俺たちをこの世界へ運んだ魔法陣と同じ輝きである。と思ったのだが、その光は召喚されたときよりも遥かに煌めいた。
そして他人のボウカーの輝きと混ざり合い、とてつもなく綺麗な景色がそこには広がる。すべての色が紫なのに、虹色に輝いているようだった。
この光に見とれ、誰もがボウカーをその水晶から放そうとしない。すると国王が、
「ストップ!ストップじゃ!まぶしすぎる。もうボウカーは水晶から放しても良い。」
と慌てて筒を口に当てた。
それに「ハッ!」とし、俺たち救世主がボウカーを水晶から遠ざける。
「う”っう”う”ん...。さて、では自分のボウカーを見るのじゃ。君たちにあった職業がそこに書かれているぞ。」
絶対に目をやってしまったであろう王様が、目を手で覆いながら丁寧に説明してくれる。
どうやらこれで俺の天職が決まったみたいだ。天職というぐらいなのだから、天から授かった素晴らしいものだよな。
「わぁ!俺、「暗殺者」になってる!」
「私は「魔法使い」だって!!」
周りの人たちの声が響く。どうやら激レアの職業に皆なれたらしい。さて、俺の能力はどんな感じかなぁ~?
俺は期待を胸にワクワクウキウキ状態で自分のボウカーを眺めた。その瞬間俺が白目になり、倒れかけたのは誰にも言わないでほしい。
「
救世主用冒険者ギルドカード
【名前】梅津ヒロ
【職業】農民
【魔力】980
【説明】説明機能をオンにするにはここをタップ
」
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