示された道
父であるロイ王の放つ大いなる威厳の中、ケンウッドは緊張の中で思い口を開いた。
「父上…、僕は…、ヨシーナ王女を救うために…、多くの兵を…、犠牲にしてしまいました…。そんな僕に…、これからもヨシーナ王女を…、守れだなんて無理です…。」
「わしはジジョッタと共に守れと申した筈だが。」
「あの時…、ヨシーナ王女を救えたのは…、まぐれだったと…、僕は思うんです。そのまぐれが…、何度も続くとは…、思えません。」
「そのまぐれを、まぐれではないようにするのだよ。」
「父上ならば…、どうするのですか…?」
「わしにもわからぬ。ただ一つだけ言える事は、『二人だけで彼女を守れ』とは申しておらぬという事だ。」
「という事は…、他に人が必要という事ですか?」
「いかにも。多くの人やカムイ等と出逢い、彼らと手を携えるのだ。いつか、お前の生涯の友となる者も現れよう。」
「父上、カムイとは一体どんな存在なのでしょうか?今朝の捕虜を解放する際に、ヨシーナ王女がカムイに例えられていましたが…。」
ケンウッドは『カムイ』という言葉の意味が気になった。
「カムイか…、自然界の物質を魄とする神秘の存在だ。美しい女性の姿だったり、動物の姿だったり…と様々な姿をしておる。このミドルガルドを離れ、カムイと絆を深めつつ、『英雄』としての研鑽を積む事がお前の今後の道標となるだろう。それから、お前は明日からトラスティア第一王子『ケンウッド=フォン=トラスティア』ではなくなるのだ。第二の名前を考えておくが良い。」
「はい。それで、僕らが向かうべき場所はどこになるのでしょうか?」
「このグリーン地方の森に続く道の奥に緑の世界・『グルンガルド』がある。そこの『四つ葉の騎士団』に行くが良い。」
「父上、グルンガルドとはどんな場所でしょうか?それから、四つ葉の騎士団とは?」
ケンウッドはあまり馴染みのない言葉に食いついてきた。
「『グルンガルド』は緑に囲まれた世界だ。我々『ニュートラル』以外にも様々な種族が生活しておる。『四つ葉の騎士団』は空高くそびえる大樹を拠点とする国境なき騎士団だ。自分達のガルドの秩序を守るのは勿論、英雄の育成もやっておるぞ。」
「はい、それから僕らがニュートラルとは一体?」
ケンウッドは自分たちがニュートラルと呼ばれている事について気になった。
「『ニュートラル』はミドルガルド全人口の九割以上を占める種族だ。他のガルドだとニュートラル以外の種族とも出逢う機会が増える。種族の垣根を越えて彼らと手を携えると様々な事ができるようになるはずだ。カムイと絆を深める事と同じくらい重要だぞ。」
「わかりました、父上。」
「うむ、話は以上だ。わしは明日の準備をしておく。お前もゆっくり休むが良い。」
「父上、色々ありがとうございます。それではお休みなさい。」
ケンウッドは父に一礼し、自分の部屋に戻って寝床に就いた。
そして一夜明け、七の月の九の日…遂に出発の刻を迎えた。