王子の初陣
討伐軍を編成したロイ王は賊の根城があるコルホ山の麓に本陣を設け、軍議を開いた。軍議には剣を携え、甲冑で武装したケンウッドも立ち会っていたが、父であるロイ王は息子に輪をかけて極めて物々しい甲冑に身を包んでいた。ロイ王が事前にコルホ山に放っていた密偵が本陣に入ってきた。
「陛下、コルホ山より只今戻って参りました。」
「うむ、では調査結果を聞こうか。」
「賊の根城には入口が二つあります。一つ目は正門らしき大きめの門で、もう一つは裏口らしき小さめの門です。」
「わかった。倅よ、お前の隊には裏口の方を任せる。そこの先に例の要人が囚われている筈だ。その要人を救出せよ。良いな!」
「はい、父上。必ず救出してみせます!」
ケンウッドは快諾した。
「他の者はわしと共に正門を攻める!何としても正門への注意をそらすのだ!」
「はっ!」
そして討伐軍は作戦を開始した。
一方、コルホ山に建つ賊の根城では野蛮な男達が宴の場で夜な夜な酒を酌み交わしていた。
「へっへっへっ…あの姐ちゃんを例の旦那に差し出せば…、俺たちゃ大金持ちよ!」
「さっすが、ダッグ親分!大金持ちになったら俺達子分も鼻が高いですぜ!」
「さあ、明日は出発だ!おめえらも飲め飲め!」
「かんぱーい!」
男達は一気に酒を飲み干した。飲み干した男達の中にはすぐに酔いつぶれた者もいた。次の瞬間、見張りの男が宴の場にやって来た。
「親分、大変ですぜ!!門に火が…」
「何だとォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
厳つい風貌のダッグは外で火の手が挙がっているのを見て思わず絶叫した。
「やい、てめぇら!起きやがれ!!火遊びしてる奴らをまとめてブッ殺すんだよ!!」
ダッグは子分を一人一人蹴り起そうとするも、なかなか起きない者もいた。
「クソッ…、よりによってこんな時に…!!」
ダッグは起きてる子分だけを集めて斧を携えて迎撃にあたった。
一方根城の薄暗い牢獄では、金髪の白装束にて、憂いを帯びた高貴な女性が囚われていた。
(お父様…、わたし…、ヨシーナは…、明日…、あなたを…、亡き者に…、した…、スパイデルの…、元に…、連れ…、戻され…、ます…。ごめん…、なさい…、お父様…、アスティアを…、心ある…、者に…、託すと…、いう…、遺言を…、守れなくて…。ジジョッタ…、どうか…、あなた…、だけは…、無事に…、モルガナに…、着いて…。あなた…、だけが…、わたしの…、唯一の…、希望…、なの…。)
ヨシーナが心で嘆いていると、外の方で騒ぎが起きていた。
(何…!?一体…、何が…、どうなって…、いるの…!?)
ヨシーナははっとした。彼女が後に自分の生涯捧げるべき存在となる事をケンウッドは未だ知る由もなかった。