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シズエ

 

 △ フミヒコ・橘 視点 △



「―――今、何と申した?」



 タカノリが発した言葉が耳に、頭に入って来なかった。そして、無意識の内に立ち上がっていた。それほどに衝撃的であった。

 タカノリはワシの顔をじっと見つめ、訴える。


「殿、数ある首の一つが西ノ宮家当主、タカミチ殿の首でございました。」

「……見間違い、という事は無さそうじゃの」

「……はい、殿に西夷将軍の任を賜ってからというもの、西ノ宮殿や西宮の最重要人物の容姿に関しては、全て記憶しておりますゆえ、見間違えるという事はございません」

「そうか……」


 まさに吃驚仰天の出来事に言葉を失う。

 床几に腰を落とし、気持ちを落ち着かせる為に脇にある高台の肘掛けに寄り掛かり、頬杖をつく。


(——では、今我々が戦っている相手は誰なのだ、西ノ宮の家紋を配した陣幕に囲まれたあの相手本陣に居るのは誰なのだ——)


 旅人や行商人、斥候などから西宮の動静に関しての情報が入るが、特段変わった様子は無いとじぃから報告を受けている。

 西宮の当主であるタカミチ殿が暗殺されれば、まさに国家の一大事。それにも関わらず何も情報が入ってこないのは、あからさまに不自然である。

 考えられるものとして、徹底的な箝口令が挙げられるが、西宮の住民ならともかく、行商人などが相手ならその効果は疑わしい。人の口に戸は立てられない。必ずといって良いほど漏れ出てくるものである。

 それが全く無いというのは……。


(———いや、かなり前の合議で西宮で何やら粛清が行われたと報告が有ったな。

 だが、じぃと他の家臣と協議し追加調査を行った結果、特に大した事は無いものとして対処を見送ったと記憶しておる。謀反の可能性を示唆した家臣も、追加報告でタカミチ殿も確認出来たと言っておったしのぅ。すると、その首はやはり別人か? いや、それならばわざわざ首を晒す意味は無い。市井の民はタカミチ殿を知らない? いや、それは無いな。タカミチ殿は私事で、良く街中を散策するという。それが、西宮では公然の秘密となっていると聞いた。そして、タカミチ殿は庶民派で、市民の目線で物事を考える事から、大衆の受けが良いと聞く。だが、その事で華族と相対する事も多いと、合議にて報告を受けたな)


 タカミチ殿と会った事は無いが、報告によると、その性格は柔和で温厚なのだそうだ。そして、華族よりも市民側の政策を尊重する傾向にあるらしく、しばしば華族や元老と対立する事があるらしい。


(——と、なると、タカミチ殿に不満を持った何者かが政変でも起こしたと考えるのが道理。だが、タカミチ殿を亡き者とし、その首を晒すとなると、大衆からの反感は凄まじいものになる。タカミチ殿を慕う過信達が黙っている筈も無い。それこそ国賊として確実に討たれる。そんな愚を犯すとは思えんし、そんな事をする利が見つからん。だが、実際にタカミチ殿は殺害されている。にも関わらず、市民はその事を騒ぎ立てていない。……まさか——! いや、確証が無いの……)


 考えれば考える程、その謎が解けない。


(これ以上はワシの頭だけでは無理か)


 頭を抱えそうになるのを堪えていると、陣幕内に誰かが入ってきた。


「む? おお、じぃ! 良い所に」


 斥候や伝令達への指示出しを終えたのだろう、じぃはワシ達の方へ歩いてくると、そのままタカノリの横で跪く。


「殿、西宮側への対応、指示を完了致しました」

「うむ。ところでじぃよ、良いところに来たの」

「何でございましょう?」


 顔を上げたじぃに、今までのタカノリの報告の件を話す。

 最初は大人しく聴いていたじぃであったが、話が進むにつれ、その表情は険しくなっていった。


「———という訳である」


 話をし終え、途中から顔を伏せていたじぃを見ると、何故か小刻みに震えていた。

 そして、(おもむろ)に立ち上げるとタカノリに向かって、


「この、馬鹿もんがぁ~!!」


 と、戦場で鳴り響く合図太鼓の音に引けを取らない程の声で叱り飛ばす。

 我が国は、御門であるワシを頂点とし、その直属として、宰相であるじぃと東夷将軍であるシンイチ、西夷将軍であるタカノリが居る。組織上、この三人は同格である。

 だが、シンイチやタカノリが各将軍になる前、それこそ侍見習いの頃から、じぃは既に宰相として、ワシを補佐してきた。

 故に、幾ら同格であるからといえ、シンイチもタカノリもじぃには頭が上がらないし、じぃは遠慮無しに二人をこうやって怒鳴りつける。

 それは、至らない息子たちを叱る父親の様な心持ちなのかも知れん。……その大きな声だけはワシでも慣れぬが。


「何故、そんな大切な事をわしはおろか、殿にも報告せんなんだ!」

「事が事だけに、完全な裏が取れるまではと、報告出来ずにおりました」


 タカノリはじぃと顔を合わせる事無く、報告しなかった理由を説明する。


「だからといって、何も報告をせんとは何事か!? お主、それでも西夷将軍を務める者か!?」

「……」


 じぃの怒りは収まる気配を見せない。たしかにじぃが腹を立てるのも仕方が無い。だが、このままでは、何も先には進まない。


「まぁ、じぃ。タカノリも反省している事であるし、その辺で良いだろ、な?」


 ワシが助け船を出す形でじぃのお説教を終わらせようとしたのだが、じぃはタカノリに向けていた矛先を今度はワシに向けて、


「殿! それでは余りにも手緩過ぎますぞ! 良いですか、こやつがした事、しなかった事のせいで———」

「うむ、解る!解るから、続きはこの戦が終わってからにせんか? な?」


 と、迫るじぃに両手を向けて、落ち着く様に促すと、ようやくじぃもその怒気を収める。

 殿も後で教育が必要ですな、などと物騒な事をブツブツ言ってはいたが、聞かなかった事とした。

(というか、じぃを苦手としているのはワシも同じじゃのう)


 二人の事は言えんなと、心の中で苦笑いを浮かべる。

 ふぅーと深く息を吐いたじぃは、タカノリに質問した。


「で、何か裏は取れたのか?」

「……いえ、発狂した女を落ち着かせるに一旦街から離れ、女を近くの村に残した後に再び街に入りましたが、その時は既に首は有りませんでした。そこで、街の飯屋や居酒屋にそれとなく、あの時の首について聞いたのですが」

「うむ」

「あの首は、西ノ宮家当主への背信や謀叛を企てた者たちだと。そして……」

「そして、何だ?」

「———そして、その首を晒す様に命じたのが、紛れもない、西宮家当主のタカミチ殿だったと」

「「なっ!?」」


 ワシとじぃは驚きの余り、放心してしまう。

 一足早く我に返ったじぃが、タカノリに詰め寄る。


「それは本当なのか!?」

「確かです」


 と言って、懐から何かを取り出し、じぃに手渡す。


「これは? む、西宮の瓦版か」

「はい」


 じぃはタカノリから瓦版を受け取り、読み進める。


「……確かに、これは……」


 読み終わったじぃは、ワシに瓦版をワシに渡してきた。

 受け取った瓦版に目を通す。

 そこには晒し首の刑に処された者の名前と、犯した罪が書かれていた。

 そして、最後には刑の執行を命じた者の名前が記されていた。


「——西ノ宮家当主、西ノ宮タカミチ——と」


 死んだ人間が刑を指示するなど出来る筈も無い。従ってこれはタカミチ殿が存命している確かな証拠。

 ワシは瓦版をじぃに渡す。


「これは確実な情報では無いのか?」

「ですが、自分の目でタカミチ殿を確認した訳では御座いませんので。不確かなままご報告すると要らぬ混乱を招くと判断致しました」

「……そうか。してタカノリ。その後はどうしたのだ?」

「はい。その後も裏を取る為に聞き込みを行いましたが、私の行動を不審に思った何者かが奉行所に連絡したのでしょう。街の官憲が多くなっており、これ以上はと街を離れた次第でございます。その後も内密に調査して参りましたが、有用な情報は得られませんでした」


 タカノリは無念そうな顔を浮かべている。タカノリが掛けたかなりの時間や労力に結果が見合わなかった事に対するものか。


「じぃ、どう思う?」


 タカノリの報告を聞き終えたワシは、じぃに意見を聞く。

 じぃは難しい顔をして黙していたが、やがて考えが纏まったのか顔を上げ、


「……おそらくは、影武者でしょう」

「……やはり……か」


 タカミチ殿に影武者が居るという情報は受けていた。我が国は違うが、一般的に国を治める君主は、影武者を用いるものである。

 ただ、当たり前であるが、西宮は表向きではその存在を否定している。

 報告によれば、これも当たり前であるがその影武者はタカミチ殿と瓜二つで、見分けを付けるのは困難な程であるらしい。一説にはその影武者は、タカミチ殿の双子の兄弟であるという。


「推察でしかありませんが、西宮で政変を起こした何者かが、影武者をタカミチ殿本人である様に担ぎ上げ西宮の実権を掌握したものと考えられます」

「……うむ、余もそう思う」


 ワシは遠くに備える西宮の本陣に目を向ける。

 タカミチ殿の影武者と、それを操る何者かがあの場所に居るのだろう。


「ただ———」


 じぃが先ほどよりも深い皺をその眉間に刻む。


「なぜ、今になって日之出に戦を仕掛けてきたのかが分かりません。仮に政変が成った場合、国の統治、現状把握、組織の再編等にかなりの年月が掛かる筈。とても戦、しかも東夷、西夷両将軍を備え、軍力で圧倒的に勝る日之出に戦をしよう等とは考えない」

「そう、そこなのだ」


 ワシの思う疑念、じぃも同じく感じたらしい。

 例え、政変による犠牲が少なかったとしても、全てが上手く行っているとは考えにくい。

 政変時に味方に付かなかった者への粛清に始まり、その後の背反や造反の対応、協力者への配慮など、とても戦が出来る状態では無いと思うのだ。


「だが、実際にこうして西宮は戦を仕掛けてきた。それは、西宮に戦という判断に至る何らかの契機が揃い、時宜が整ったと考えるのが妥当かと」


 じぃの進言。ワシも考えていた疑問点への回答。仮に西宮の戦に至る契機が判明すれば、この戦を早く終わらせられる事が出来るかもしれん。

 そうすれば、戦の度に発生する少なくない人的損失や、兵糧や戦死した兵たちの遺族に払う見舞い金などの経済損失は抑えられ、戦による損害が少なく済むというものだ。


「うむ、それらについて、陣奉行とも話し合え。この戦を楽に、そして早く終わらせられるかが掛かっておる」

「御意!」


 陣幕の外に居るのであろう陣奉行の元へと向かうじぃ。陣奉行達が外に居るのは、おそらくワシとタカノリの話を邪魔しない様にと配慮をしたのだろう。


(これで西宮の狙いが分かれば、今後、西宮に対する対応にも良い効果が出るというものじゃ)


 西宮が契機として考えた事。それは逆を言えば我が日之出の弱点と言えるものである。

 その弱点を排除、ないしは削減する事が出来れば、今後、西宮を含め、他国との交易関係に於いて、大きな成果が見込める筈である。

 そんな事を考えていた時だ。


「殿……」

「む、タカノリよ。まだ何かあるのか?」


 今は、西宮の契機が何なのかが判らない状態。それを一刻も解明する為、タカノリにはまた前線に出て、相手の動静を探って欲しいのだが。


「まだ、お話の途中でして」

「何、まだ続きがあるのか? 待て、今じぃを呼び——」

「いえ、それには及びません」


 じぃを呼び戻そうとするワシを、タカノリは何故か止める。


「———良いのか、またじぃに叱られるぞ?」

「……大丈夫で、御座います」

「……そうか、ならば話してみよ」


 どことなく、いつものタカノリとは違う雰囲気を感じながらも、話の続きを促した。


「有難う御座います。……西宮を離れる事になった私は、村に残した女に今後どうするかを聞いた所、他に身よりも無いと私に言い、ならばと日乃出へ連れ帰ったのです。その後、その女、シズエと一緒になり、妻となりました」

「……そうだったのか」


 タカノリの女房殿は、元々西宮の人間だという事だが、特段な事では無い。

 アカリの母も東雲の者だし、己の伴侶が違う国元であるというのも珍しい事では無い。


「そのシズエですが、元々虚弱で御座いましたが、西宮から日之出の強行が追い打ちを掛けたのでしょう。体を壊す事が多くなり、そして半年前に帰らぬ者となりました」

「……タカノリ、最愛の女房殿が亡くなって辛かろうが、此度の戦の行方はお主に掛かっておる。済まぬが、今一時はその事を忘れてはくれまいか。この戦が終わったらシズエ殿の弔いを大典として執り行おう———」

「殿」

「……何じゃ?」


 相変わらず跪いているタカノリは、意を決した様に勢いよく顔を上げる。


「————恐れながら申し上げます。 此度の戦、このまま退いて頂きたく思います……」

「……何故じゃ?」


 ワシは自分で言うのもなんだが、部下の意見を尊重している方である。それは己のみの考えでは限界があると考えているからだ。なので、じぃはもちろんの事、両将軍や大名、挙句は一侍の意見を聞き入れる事もある。ワシは狭量では無いのだ。

 だが、今回のタカノリの意見は、聞くのも堪えないものだ。自然、声に怒気が含まれる。 

 そんなワシの圧を感じながらも、そこはさすが西夷将軍のタカノリ、控えてはいるが、恐れてはいない様子で、


「……殿、兵を、軍を退けては頂けないでしょうか。このタカノリ、生涯のお願いで御座います」

「……自分が何を言っているのか解っていての申し立てか?」

「……はい」

「……そうか、残念だ」

「———殿!」

「ええぃ、黙れ!!」


 座っていた床几を弾き飛ばすようにして立ち上がると、タカノリに詰め寄り叱咤する。


「この戦で何人が死んだ!? この戦で何人が傷付いた!? その者達に、お前は何と言うのだ!? この戦は向こうが仕掛けたものだ!? 向こうがだぞ! 何故にこちらが退く!? 負けているのか!? いや、勝っておる! 勝っておるのだぞ!」


 そこまで一気に怒鳴ると、ハァハァと肩で息をする。

 そこで一息付いたのか、多少怒りが収まったワシは少し冷静になった。

 と、同時に、


「殿! 何事ですか!?」


 陣幕内に再びじぃが入ってくる。ワシの怒声が聞こえたのだろう。

 だが、じぃに意識を向ける事無く、ワシはタカノリをきつく睨む。


「……何があった?」

「……」


 少し冷静になったワシは、タカノリに何故そんな事を言い出したのかを問う。

 西夷将軍を十五年以上務めているタカノリだ。今、己が発言した事がどういったものか判断出来るはずである。

 なのに、発言した。これは明らかに特別な事情があるのだろう。


「どうした? 何も言わんのか? お前がこんな事を言うのだ、何かあるのだろう」

「……殿……」

「……言うてみよ」


 タカノリに理由(わけ)を話す様促す。じぃはいつの間にかワシの横に控える様に立つ。


「……はい」


 タカノリのその返事は幾分くぐもっていた。


「——シズエの、家内の家族については先ほどお話したかと思います」

「うむ。家族はタカミチ殿と共に、全員処刑されたと」

「はい。しかし、実際は違ったのです」

「……何?」

「——実は、家内には両親の他に弟が居り、西宮での政変時に両親を共に処刑されたと思っておりました。家内は両親の首を見ただけで、家族全員が処刑されたと勘違いしていたのです。それも仕方ありません。普通の女なら、両親の首を見ただけでも狂乱してしまうのは当然の事。そんな状態で弟殿の首を確認など出来る筈もありません」

「うむ、そうじゃの」

「私も家内には弟殿はすでにこの世に居ないと言われておりました。しかし、違ったのです。家内の弟殿は生きていたのです」

「……いつ知ったのだ?」

「家内が亡くなった後でございます。家内の四十九日が終わった後、遺品を整理していた所、家内が使用していた箪笥の奥にこれが——」


 そう言って、タカノリは一通の書状をワシに渡す。

 それを開くと、西宮の都で弟は生きている事、しかし、こちらの手の内にあって、いつでも命が奪える事、それを止めて欲しくば、こちらの命令に従う事、従う場合は繋ぎをつけるから、判りやすい合図を用意する事などが書かれていた。差出人は——、


(いん)……?」

「恐らくは通り名かと」 じぃが答える。


「家内がいつ、その書状を受け取ったのかは判りません。自分には書状を受け取った事も、弟殿が生きていた事も黙っておりました。心配を掛けたくなかったのだと思います」


 そう話すタカノリの声色は、ある日のシズエ殿を思い出しているのか、湿り気を帯びていた。


「そんなシズエを不憫に思った私は、屋敷の女中に手紙に書いてある通りに合図を用意し、その引と名乗る者の繋ぎと接触させました。 シズエの弟なら自分にとっても義弟(おとうと)、やはり救ってやりたいと思っていたのです。そこには亡くなったシズエと、また縁を結ぶ様な想いもあったのかも知れません。そして、その引なる者の繋ぎから渡された便りには、弟殿の解放条件として此度の戦の事についても書かれていました」

「……それが今、お主が言った兵を退けという言葉か……」

「……はい」


 ワシの言葉にじぃは驚き、タカノリはその長い睫毛を伏せる。


 もし仮に、兵を退いたとしても、その引と名乗る者がシズエの弟を解放するという保証は無い。タカノリもそれを分かっているのだろう。だが、結果はどうであれ、己の言葉に対してその責を取り、自ら命を絶つ。その位の覚悟を持ってして、タカノリはワシに兵を退いて欲しいと訴えたのだ。


「——じぃ」

「はい」

「——退くぞ」

「「!? 殿!?」」


 じぃとタカノリが驚愕の余り、目を見開く。


「少し、国境の町の後ろに下がるだけだ。 なに、殿(しんがり)はそこの馬鹿たれが務めてくれるだろうよ」

「……殿、本気ですか?」


 じぃが憤る。無理も無いが。


「———あぁ、本気じゃ。西宮のやつらに国境の町の一つ位くれてやれ」

「殿!!」

「……じぃ、町一つと、心から信の置ける部下、どちらがより大切かと問われれば、余は迷うことなく後者を選択する」

「——殿!?」

「己惚れるなよ、タカノリ。今回はお主の長年の手柄に報いるというだけだ。が、これで全てが無くなった。よって、これからは、今まで以上の偉勲を期待しておるぞ」


 暗に死ぬことは許さない、とタカノリに伝える。


「……はい」

「分かったのなら、さっさと己の部隊に戻って、退却戦の準備に取り掛かれ。さきほど言った様にお主が殿を務めよ。部下に文句を言われたら、ちゃんと自分のせいだと述べるのだぞ」

「御意!」

「うむ、では行け」


 話は済んだとばかりにタカノリに背を向ける。

 側に控えるじぃが、まだ恐い顔をしてこちらを睨んでいるのが見えたが、見なかった事にしたい。


(じぃと大名達にはしっかり説明せねばならんの)


 タカノリが立ち上がり、陣幕から出ていこうとする気配を背中で感じていたその時、


「———おっと、戻られると困るんだよ」

「ぐわっ!?」


 ドスの利いた聞き慣れない声と、側に居たじぃの悲鳴が陣幕内に響いた。


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