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二本差し

 

 △  ???視点  △



「——ったく、おめーらはほんと使えねぇな!」


 俺は【凶姫】と坊主を取り逃がした部下たちに叱責する。


「そういうお頭だって、ガキにしてやられてんじゃないですかー」


 部下の一人が文句を言い、それに他の部下がそうだそうだと賛同する。


「うるせー! 俺は訳分からねーやつにやられたんだから仕方ねーの! ただ逃がしたおめーらと違うってんだよ!」


 と反論するも、部下たちは不貞腐れて聞いちゃいない。

 ま、俺も隊長にあの坊主が奇妙な術を使うから気を付けろと言われていたっけ。


(こりゃ、雁首揃えて皆でに謝るしかねーか……)


 今朝方の件では、部下が6人帰って来なかった。多分【凶姫】にやられたんだろう。

 そのせいで、隊長はちと神経質になっておられた。謝って許して貰えるかどうかは五分と言った所か。


「ま、こればかりはしゃあねぇな」


 そう結論付け、愛刀で肩を叩いていると、向こうから人影が表れる。

 多分、坊主の相手をしていた部下だろう。


「ったく! おめーは、坊主相手にやられてんじゃねーよ。もしかして、おめーも坊主のおかしな術にやられ」


 そこまで言って、愛刀を構える。

 他の部下は気付いていないのか、味方相手に刀を向けた俺に皆ぎょっとした顔をしていた。

 人影がはっきりしてくるにつれ、何かを引き摺る音が聞こえる。

 その雰囲気に周りの部下たちはやっと異様な事に気付き、それぞれが得物を構える。


「……誰だぃ?」


 俺は人影に向かって誰何する。だが何も答えない。そして、姿を現した。黒い頭巾に全身黒の着物を身に纏う二本差し。

 それが、おれの部下を引き摺りながら現れた。

 身の丈は六尺ほどは有るだろう。多分男だ。

 その男が、引き摺ってきた部下を片手でひょいっと俺たちの方へと放り投げる。

 背後の部下の何人かが、引き摺られた部下を受け止める。受け止めた部下の顔を見ると首を縦に振った。どうやら死んではいないようだ。


「もう一人、向こうで転がっている。多分死んでは居ない筈だ」


 黒ずくめの二本差しはそう言うと、道の奥を指差した。


「そいつはご丁寧にどうも。丁寧ついでにお前さんの事を教えてはくれないか?」


 俺はお道化た感じで言ってみたが、何も答えない。


「……じゃあな」


 自分の用事は済んだと言わんばかりにこの場を後にする二本差し。


「おっと、待ってくんな。俺の部下が世話になってこのまま、はいさようなら、ってのは無しだぜ!」


 俺はそう言って、二本差しを遮るようにして前に立つ。

 その際、部下に目配せをして、奥に倒れているらしい部下の回収を指示する。


「もうお前達に用は無いんだがな」

「そんなつれない事をいうもんじゃねぇ、ぜ!」


 そう言って小太刀を水平に構え、突進する。

 二本差しが太刀を抜き、構える頃には俺の得意な間合いになっていた。

 突進の勢いそのままに、突きを相手の胸目掛けて繰り出すも、二本差しは太刀でそれを防ぐ。

 そのまま得意の間合いから、小太刀による剣戟を二本差しに繰り出していく。


「部下の分もしっかりとお礼しなきゃな!」

「……」

「お頭ぁ!」

「良いから、お前達はさっさと行け!」


 周りにいた部下たちには、この二本差しが連れて来た部下と、奥に倒れているらしい部下を連れて屋敷に戻れと指示を出し、俺はこの二本差しとの斬り合いに集中する。

 先程から防戦一方の二本差し相手に、俺はさらに手数を増やしていく。


(だが、そろそろ俺も退散しねぇと、町の警備隊が駆け付けかねねぇしな)


 先程までの【凶姫】と坊主との闘いで結構派手にやっちまったから、警備の奴らも襲撃に気付きかねない。


(隊長からはひそかにやれって言われてたんだがな。まぁ、俺の性に合わなかったわ)


 今朝方の件で帰ってこなかった部下の中には、俺よりも隠密に長けていた奴が居たのだが。


(さて、俺まで捕まっちまったら笑えねぇ。そろそろ潮時かね)


 ここまでは俺が押している。こいつが敵か味方かは判らねぇが、部下の一人を倒した所を見ると敵と判断した方が良いだろう。ならここで殺しておいた方が後々良い。


「そろそろ俺もお暇しなきゃなんねえ。だからそろそろ終わりにするぜ!」


 俺はさらに手数を増やし、二本差しを追い詰めていく。

 だが、


「……なるほど……」


 二本差しがポツリと呟く。


「何でぇ、そんなに俺とやり合いたかったのかぃ? だが、生憎とこちらも時間に追われてんだわ。 続きはまたあの世でな!」


 俺が得意の突きを相手の太もも目掛け放つ。俺の得意の技だ。胴体への攻撃を集中させたからの、下方向への鋭い突き。

 幾ら腕の立つ侍でも、この突きの対処は難しい筈、だった。

 だが、目の前の二本差しは、この初見の突きをいとも簡単に弾く。


「くっ!?」


 思った以上に重いその衝撃に、俺は顔を顰める。


「得物の小太刀。それにその技。お前、もしかして——」

「おい、そこで何やってる!」


 そこに町の警備を担当している侍が駆け付けてきた。

 このオンボロ長屋の住人が、報せに行ったのだろう。


「邪魔が入った。この続きは後で必ずな!」


 俺は、小太刀を肩に担ぐと、一目散に走り出した。


(それにしても、あの二本差しの野郎。俺の正体に気付きやがったのか!?)


 警備が来る前に二本差しが呟いた言葉が、俺の脳裏に浮かぶ。


「面倒事が増えちまったなぁ。こりゃあ、隊長に報告したらどやされちまうな」


 その時の事が容易に想像出来た俺は、酷く億劫な気持ちのまま屋敷まで戻るのだった。









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