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アカリとの共闘

 

「——アカリ!」


 アカリは少し離れた所で、禿頭の男と剣を交えていた。

 黒頭巾の人と同じ様に、禿頭の男の小太刀をアカリの太刀が防いでいる。

 ただ、禿頭の男が眼帯の男よりも強いのか、はたまたアカリが黒頭巾の人より腕が劣るのか解らないが、終始アカリが押されている。


「——くっ!」

「おらおら、どしたー!? それが【凶姫】の実力かぁ!?」


 小太刀の手数に苦戦しているのか、アカリの顔に苦悶の表情が浮かんでいる。


「そんなんじゃ、【凶姫】の名が泣くぜぇ?」

「ぐぅ!?」


 ガラァン!


 禿頭の、小太刀とは思えない威力の横薙ぎが、アカリを吹っ飛ばした。

 ただでさえ壊れかけていた桶などが、アカリがぶつかった衝撃で砕け散る。


「んだよ、手応えねぇなぁ」

 禿頭の男が、小太刀で肩をポンポン叩きながら、アカリが飛んで行った方を見る。


「アカリ!?」

「ん? 坊主、何でそこに居やがんだ? さてはあいつ、しくじったか?」


 禿頭の男が僕を見て首を捻った。


「まぁ、いいや。俺が()っちまえば良いんだしな」


 そう言うと、禿頭の男は僕の方を向き、殺気を放ってきた。


「ひっ!?」


 相変わらず、小太刀を肩に乗せながらゆっくり近づいてくる。僕に長く恐怖を与えるかの様に。

 だが、あの時の村の惨劇、とりわけ村を襲った魔物達のボスだったザファングの殺気を味わった僕は、持っていた杖を構え何とか迎え撃つ体裁を整える。


「お? それなりに男の子ってわけか。 こりゃ予想外に楽しめるか、な!」


 僕の予想外の行動が気に入ったのか、禿頭の男が滑る様な足取りで間合いを詰めてきた。

 その速さは先ほどまで対峙していた眼帯の男とは比べられない程早く、あっという間に間合いが無くなった。

 その勢いそのままに、禿頭の男は持っている小太刀を横薙ぎに振るう。


「ぐっ!」


 僕は何とか、小太刀と体の間に杖を入れるが、


「遅ぇ!」


 バキッ!


「うぐっ!」


 禿頭の男は、横薙ぎに繰り出した小太刀を引くと同時に独楽の様に回転、僕のお腹に蹴りを入れる。

 まさか蹴りを出すとは思っていなかった僕は、まともに食らってしまい、その場に蹲る。

 込み上げる吐き気、しかしこのまま蹲っている訳には行かず、四つん這いになりながら必死にその場から逃げる。だが、


「おいおい、どこに行くんだい?」


 ガスッ!


「ぐわっ!」


 四つん這いになっていた僕のお腹に、禿頭の男が再び蹴りを放つ。


「うげぇぇ」


 堪らず吐いてしまう。


「あーあ、汚ねぇなぁ」


 吐いて苦しんでいる僕を見下ろしながら、禿頭の男は愉快そうに言う。


「がはっ! げぇっ!」

「そんなに苦しいか、坊主? そんなら今、楽にしてやっからよ!」


 禿頭の男が持っていた小太刀を下に向ける。


「——じゃあな!」


 そして突き刺す様に下ろすが、


 ガキィン!


「む?」

「させないわ!」


 アカリが刀で小太刀を叩く。そのお陰で、小太刀の軌道がずれる。


「まだよ!」


 アカリはそのまま刀を小太刀に沿う様に滑らし、禿頭の男の腕を斬り付ける。


「おっと!?」


 だが、アカリのその変則的な攻撃に、小太刀ごと無理やり体を引く禿頭の男。

 しかし、無理な動きだったのか、体をよろめかせた。


「ユウ、今の内に!」


 そのよろめいた隙にアカリが僕を抱き支える様にして、禿頭の男と距離を取る。

 ようやく、吐き気が収まった僕はアカリに礼を述べた。


「ありがとうアカリ、お陰で助かった」

「礼は良いわ。それよりあいつ、かなりの手練れよ」


 アカリが禿頭の男を見る。

 禿頭の男は、先程の無理な動きの影響を調べる様に、体のあちこちを回し動かしていた。


「どうする? 【忌み子】化するか?」


 幾らあいつが強いといっても、アカリが【忌み子】化すれば勝てない相手では無いだろうと思う。だが、


「……いえ、まだ昼前で人目がある中で、【忌み子】にはなりたくないわ」


 アカリが頭を振る。アカリから【忌み子】に対して過去に何があったのかを聞かされていた僕は、そう判断したアカリに何も言えない。


「じゃあ、どうするか?」

「ユウ、あなた魔法はどの位使える?」

「んー、さっき少し寝たからある程度なら」

「そう。なら私があいつを引き付けている間に、何かあいつを足止め出来る?」

「足止め?」

「ええ。別にあいつを倒す必要なんて無いわ。あいつを足止めしてる間にここから出て、大通りを行きましょう。大通りならあいつらも襲っては来ないわ」

「目立たないか?」

「また裏道に入って襲われるよりマシでしょ?」

「確かに」


「作戦会議は終わったか?」


 サッ!


 体の確認を終えたのか、禿頭の男が肩に小太刀を乗せて問うてくる。肩に小太刀を乗せるのは癖なのかもしれない。

 そんな他愛も無い事を考えていると、


「じゃあ、頼んだわよ!」


 アカリが一人、禿頭の男目掛け走り出す。


「んだよ、二対一でも俺は良かったんだぜ?」

「あんたなんて私一人で充分よ!」

「……へぇ、そうかよっ!」


 キィン


 アカリが再び、禿頭の男と打ち合う。

 僕はアカリに言われた通り、禿頭の男を足止めする為の魔法を使う為に、魔力を練り始める。


(さて、どうするか?)


 足止めするなら、パッと光って目潰しになる〈ライティング〉が良いのだが、あいにくと今は昼間。その効果は見込めない。


(他に何か……。 あっ!?)


 良いのが有ったのを思い出して、僕は魔力を練るのに集中する。


 少し離れたところで、アカリが禿頭の繰り出す剣戟を捌いていた。

 だが、やはり少しずつアカリが押され始めてくる。


「ふっ!」

「きっ! このっ!」

「おっと。それなら!」

「きゃっ!?」


 禿頭の男の放った鋭い突きに、太刀を横にして受け止めたアカリ。しかし、後ろに撥ね飛ばされる。


 それを見て一瞬助けに行こうかとしたが、今は魔法の方が大事だと思い直す。

 そして、程なくして魔力が練り上がった。


「貰った!」

「くぅぅ!」


 禿頭の男が裂帛と共にアカリに無数の突きを繰り出す。

 顔に冷や汗を浮かべながら、アカリは必死に何とか弾き返す。

 そして、堪らずといった感じで後ろに大きく飛び退いた。


「後ろに飛ぶとは愚行なり!」


 禿頭の男が大きく前に出て、小太刀を上段に構えた。

 空中で体を動かす事は出来ない。それを狙った禿頭の斬撃。だが、


「〈世界に命ずる〉」


 僕は禿頭の男の横に回りこみ、杖を向け、


「〈風よ吹け! ウインド〉!!」


 魔法を発動した。


 瞬間、杖の先から生まれた風の塊が禿頭の男を吹き飛ばす。

 生活魔法の一つである〈ウインド〉。元は洗濯物とかを早く乾かせる様にと考案された風を生み出す魔法らしい。だけど、〈ライティング〉の様にその効果を瞬間的にすれば、今の様に突風を生み出す事も出来る。

 攻撃魔法の様に相手を切り飛ばす程の威力は無く、主に護身として使う事が多い。


「おわっ!? 何だぁ!!?」


 バギィィン!


 飛ばされた禿頭の男はそのままボロ屋へと突っ込んでいく。


「今だ、アカリ!」

「うん!」


 無事に着地したアカリと共に、駆け出す。

 地理に疎い僕は、アカリの後ろに回りながら、吹き飛ばした禿頭の男の様子を見る。

 禿頭の男は、崩れたボロ屋の中から、出てくると首を振っている。そして、


「——ったく! あの坊主、一体何しやがったっ!!」


 そう文句を言うと、空に向かって、


「おう、オメーら! あいつらを逃がすんじゃねぇぞ!」


 そう叫ぶと、町のゴロツキの様な風体をした男が、六人現れる。

 見ると、禿頭の男や眼帯の男が持っていた様な小太刀を、六人全員が持っている。


「!? マズい、相手が増えた!」

「このまま大通りまで出ましょう!」


 僕達は必死になって大通りを目指す。だけど、ただでさえボコボコな道。それにあちこちに桶などの障害物が転がっていて、走る速度が上がらない。

 新たに増えた襲撃者?はボロ屋を屋根伝いに追ってきていた。


「アカリ、あいつら、すぐ後ろに!」

「大丈夫! すぐそこが大通りよ! 後ろなんて気にせず走りなさい!」


 前を見れば、すぐそこに大通りが見えた。人の歩く姿も。

 そして、


「よしっ!」「やった!」


 僕達は何とか大通りに辿り着く。

 そのまま後ろを振り向くと、襲撃者たちは思い思いに舌打ちをすると、引き返していく。


「まだ安心するのは早いわ。このままお城まで走りましょう」


 言ってアカリが走り出す。もう人目を気にしようという考えはこれっぽっちも無い。


「待って、アカリ!」


 僕もアカリに付いて行こうと走りだすが、


「きゃっ!?」

「あ、済みません!」


 目の前に女の人がいて、ぶつかってしまった。


「大丈夫ですか? お怪我は?」

「いえ、驚いただけですので、お気になさらずに」

「でも」

「ちょっとユウ、何してんのよ?! 置いて行くわよっ!」


 アカリが後ろを振り向き、不機嫌そうに怒鳴る。


「お連れの方もああ言ってますので、どうか。 私は大丈夫ですから」

「いや、でも」

「早くしないと、あいつら追って来るわよっ!」

「・・・済みません、僕達これからお城に行くので、もし何かありましたらお城まで来てください」

「これはご親切に。分かりました。その時は伺わせてもらいます」

「はい、では」


 ぶつかった女性に頭を下げ、アカリの元に行く。


「全く、ユウは鈍臭いんだから」

「アカリが急に走り出すからだろ」


 そして再びお城に向けて走り出す僕たち。


「そういえば聞きたかったんだけど、あなたはあの男を倒したの?」


 アカリが聞いて来た。あの男とは眼帯をした男の事だろう。


「いや、実は……」


 僕は黒頭巾の人の事をアカリに話す。


「誰か判らないけど、敵って事は無さそうね」


 アカリも僕と同じ意見の様だった。


「もしかすると私達以外にも、カズヤの事を止めようをしている人達が居るのかも知れないわね」

「例えば誰が?」

「それは判らないわ。私、自慢じゃないけど、あまり(まつりごと)の表に出なかったから」


 ぷいっとそっぽを向くアカリ。人通りが多くて前を見ないと危ないのだが。


「だけど、もしそんな人達がお城に居てくれたら、これからする事がもっと簡単になるのにな」

「そうだけど、あまり期待しすぎない方が良いわね。期待した分裏切られると辛いもの」

「それもそうか」


 そんな会話をしながら走ると、お城が見えてきた。


「色々あったけど、お城まで行けばもう誰にも邪魔されないわ」

「ああ、そうだね」

「早く行きましょう!」


 アカリが走る速度を上げる。

 僕もアカリに遅れまいと速度を上げると、まるでお城が向こうから向かってきている様に感じた。


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