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女心

 

 △ユウ視点 △



「——……う、ん……?」


 顔に当たる陽の光が眩しくて、目を覚ます。


(けっこうグッスリ寝ちゃったな)


 アクビをかみ殺しながら、体を伸ばす。

 傷はまだ痛むが、動きに支障が出るほどじゃない位だ。さすが橘家伝統の傷薬という所か。


「って、その橘家のお姫様が居ないな」


 部屋を見渡すが、アカリの姿はどこにもない。

 そんな中、


「あら、ユウさん。お目覚めになられましたか」


 手に手紙を持ったユキネさんが、耳に掛かる髪を掬い上げながら、寝ている僕に声を掛けてきた。


「はい、すっかり寝てしまいました。ですが、お陰で体もだいぶ良くなりました」

「そうですか、それは良かったです」


 そう言ってユキネさんが部屋に入ってくるので、布団から起き上がる。

 寝る前はボロボロの服だったけれど、今は紺色の着物を着ている。寝ている間に女中さんが着替えさせてくれたのだろう。

 僕のサイズに合っているけど、いつ測ったのかな?


「着物、お似合いですね」

「あ、有り難う御座います」


 僕の着物姿を誉めてくれたユキネさんは少し嬉しそうだ。


「今、何時位ですか?」

「今は丁度巳の時間位かしら」


 僕たちがこの屋敷に来て、治療をしてもらったのが辰の時間位だから、そんなには経っていないみたいだ。


「それで、アカリはどこに?」

「えぇ、また庭で剣を振っているわ。何かある度にアカリさんは庭で剣を振るのよね」


 何か有ったのかしらね?と、可愛く首を傾げるユキネさん。


「それで、その手に持っているのは?」

「あ、そうそう、お父上への文を書き終えたから持ってきたのだけれど」

「分かりました。僕からアカリに渡します」

「お願い出来るかしら?」

「はい」


 と、ユキネさんから文を受け取ってアカリの元に向かう。と、


「ユウさん」

「はい?」


 ユキネさんの呼び止めに振り向くと、深々と頭を下げていた。


「ユ、ユキネさん?!」

「アカリさんを宜しくお願い致します」

「……はい」


 それは何に対してかは解らない。だけど、何に対してだったとしても、僕の答えは変わらない。


「行ってらっしゃい」


 僕の返事に満足げに、ユキネさんは満足気に微笑んだ。



  ☆



 庭に向かうと、ユキネさんの言っていた様に、アカリが一心不乱に木刀を振っている所だった。


「アカリ」


 ビクッ!?


 体をびくつかせ、わたわたと振っていた木刀を取り落としそうになっている。


(ん、どうしたんだ?)


 僕は縁側に用意されていた下駄と呼ばれる履き物を履いて庭へ降り、見るからに狼狽えているアカリの元に向かう。


「アカリ?」


 呼び掛けてもこちらを見ようともしない。

 それどころか、振る木刀の剣筋もバラバラであからさまに動揺しているのが分かる。


「おい、聞いているのか?」


 僕はアカリの正面に回り込もうとしたが、


 クルッ


 首を反らす。


「おい」


 クルッ


「……おいアカリ、いい加減にしろよ」


 ガシッのアカリの肩を掴んでこちらを向かせる。

 すると、アカリは僕に顔を見られたくないのか俯きながら小さく震えている。

 垂れる前髪の隙間から見える顔はとても真っ赤で、小さく「う~~っ」と唸っている。


(犬か、こいつは)


 肩を押さえているが、アカリの方が力が強い為、本当に嫌なら逃げられるはずなのだが、アカリは動こうともしない。


(あ、さては……)


「アカリ、もしかして」


 ビクッ!


 アカリの震えが大きくなる。


 やはりな——。


「目に隈でも出来たんだろ?」


 俺に見られて笑われたくない一心で顔を合わせないのだろう。

 徹夜しているんだから目の隈位出来てても笑わないのに。僕も見下されたものだ。


 ピタッ


 予想が当たったのか、アカリの震えが止まる。


 しかし、次の瞬間、


 ゴゴゴッ!


 と、何処からともなく地響きがしたかと思うと、


「この馬鹿~!!」


 バキッ!


「ぐふっ!?」


 強烈過ぎるパンチを鳩尾に食らい、そのまましゃがみ込んでしまった。


「な、なにをっ!?」


 何故殴られたのか解らない僕は、仁王立ちでこちらを睨みつけているアカリに訴えかける。

 だが、


「知らない! ユウの馬鹿!」


 フンッとアカリは庭から立ち去っていく。


「一体、僕が何を……?」


 後には鳩尾の痛みと、アカリの考えが解らない事に対して苦しむ僕だけが残った。


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