良薬、キズに痛し
△ ユウ視点 △
「まぁ、何があったのですか!?」
夜もすっかり明けた頃、僕達は橘邸に戻ってきた。
まだ朝早いというのにユキネさんが出迎えてくれた。きっと心配で寝れなかったんじゃないか。
「取り合えず傷の手当を!」
いつの間にか、通常の黒い髪に戻ったアカリにおんぶされる格好で戻って来た僕。あちこちから血を流した後があり、服もボロボロである。
それを見てユキネさんが治療の為、医者を手配しようをするが、
「待ってください。 それよりもお殿様に至急会いたいと知らせてもらえますか?」
「でも、その傷では!?」
「ユウの手当は私がするわ。 それより今は時間が無いの! 姉様、お願い」
「……訳が有るのね。解りました。アカリさん、ユウさんをお願いしますね!」
そう言って、城に知らせを届ける為、女中さんに文の用意をする様に指示を出すユキネさん。
僕はそのまま屋敷内へと運ばれる。そして、僕の部屋として用意されていた客間の、女中さんが敷いてくれたであろう布団の上に降ろされると付き添ってくれた女中さんに服を脱がされる。
「じ、自分で出来ますから!」
「いえ、怪我人は大人しくしていて下さい」
問答無用で服を脱がされ、パンツ一丁になった僕。
恥ずかしがったが、冷静になって改めて自分の体を見ると、血の気が引いた。
特に酷いのが追っ手に刺された腕と太ももだ。
血は止まっているのが不思議な位に傷が深い。こんな傷で良く走れたものだと我ながら感心してしまった。
しかも見てしまったせいなのか、凄い勢いで痛みが襲ってきた。
「~~~~っ!」
余りの痛みに声も出せず悶絶していると、アカリが何やら箱を持って部屋へと入ってくる。
そして徐に箱を開けてると、中から包帯を取り出す。どうやら薬箱のようだ。
「早く横になって!」
そう言って無理やり横にされると、薬箱から何かを取り出し、傷口に塗り始める。
「~~~~~~~~っっ!!」
「少し染みるけど我慢しなさい! 橘家伝統の傷薬よ。私も道場で怪我をした時、良く姉様が塗ってくれたわ」
そう言って、傷と言う傷にその薬を塗りこんでいく。そして包帯でグルグル巻きにされた。
「よし、ひとまずこれで大丈夫ね! って、なんであなたは裸なのよ!?」
と、ついさっきまで太ももとかを触ってきた女の子が怒り出す。
が、こっちは傷の手当の痛みに疲れ果ててしまったので、何か言葉を返す気力も無い。
「ま、まぁ、良いわ! 何か着る物を持ってこさせましょう。 誰か——」
「いえ、私が持って参ります」
アカリと一緒に手当をしてくれた女中さんが、着替えを持ってくる為、部屋から出る。
「……アカリ、手当ありがとな」
アカリにお礼を言うと、アカリは真っ赤になった顔を背け、
「ふん、相棒に死なれちゃ困るからよ。——それより大丈夫なの?」
と一転、心配そうに見つめてくる。
近くで見る相変わらずの可愛い顔に、僕は少し慌てながら、
「だ、大丈夫だって。それよりこれからなんだけど」
と、話を変えた。
アカリも心配そうな顔をしたまま、頷く。
「えぇ。ユウには悪いけど姉様がお父様への文を書き次第、お城に行きましょう」
「……なんで、アカリだと駄目なんだい?」
僕は前から気になっていた事を聞いた。
同じ娘なら、アカリは書いても問題無い筈である。むしろ直接行っても大丈夫ではないのか。
しかし、その質問にアカリは首を振りながら、
「私じゃ駄目なのよ。ユウと行動を共にしているのが知られちゃっているから」
「あ……」
「それに、この国の仕来りで、幾ら娘でもいきなり行って会ってもらうなんて出来ないのよ」
「何でさ?」
「今よりもずっと昔にね、今の仕来りが無い時代に、色々有ったらしいの」
「……そうなのか」
この国の歴史は長いらしい。その長い歴史の中で、例えば親戚や肉親に刃を向けられる、昔にそういった事が有っても何ら不思議では無い。
国を治める家系には、後継問題というのはついて回る事だろう。
「だから、姉様が文を書き終えるまでは休んでいて」
「あぁ、分かった……——」
塗られた薬の効能なのか、急に眠気が襲ってくる。
傷だらけ、疲労困憊の僕はやってきた眠気に早々に白旗を振り、意識を手放した。