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カズヤの過去

 

 △ ユウ視点  △



 (——!? 来た!)


 三回目の〈サーチ〉の魔法、そこにアカリからの合図が来る。アカリには事前に、謀反の話を始めたら合図をくれる様に頼んでいた。

 いつカズヤの口から謀反の話が出てくるか分からない。話合いの行われる場所の近くに居たら見つかってしまう危険性が高い。もし見つかってしまったら、この作戦は失敗してしまう。

 だからと言って遠くに居れば、今度は〈レコーディング〉の範囲外になってしまう。

 〈レコーディング〉は元々、自分の声を録音する目的で造られた魔法だ。なので、その範囲はとても狭い。大体1メートル位か。幾ら生活魔法で使用する魔力は多くないといっても、〈サーチ〉も〈レコーディング〉も無駄使い出来ない。この後、何が起こるのかは分からないのだし。温存しておくに越した事はないと思う。


 アカリの合図で、僕はアカリ達に近付く為、隠れていた茂みから出る。そして、なるべく音を立てない様にアカリ達に近付きながら、新たに魔力を練り上げる。

 かなりの集中力を使った為、息が上がってしまったが、なんとかカズヤに見つかる事無く、アカリ達に近付く事が出来た。

 木の陰に身を隠し、息を整えながら練り上げた魔力を開放する。


(〈世界に命じる。時を記録せよ!レコーディング!〉)


 すると、魔力で出来た膜が自分を中心に周囲を覆う。その大きさはおよそ50メートル程。

 本来ならこんなに大きく膜を張る事は無い。

 だが、少し離れた場所にいる二人の声を録音するには、今回の様にその周囲にこうして膜を張る必要があった。

 膜が大きい分、消費魔力も大きくなる。魔力量が決して多くない僕にとってはかなりの魔力を消費する事になる。

 ちなみに、この膜は魔力を通した目で無いと見えない為、カズヤには見えない。

 だからカズヤに、魔法がバレる事は無いから安心だ。


(早く話してくれよ!)


 そう願いながら、僕は魔力を練り続けた。



 △アカリ視点 △



 作戦通り【忌み子】になり、離れた場所に居るユウに合図を送る。そしてもう一つ・・・。

【忌み子】である今の私の髪の色は紅くなっているはずだが、今は深夜。暗闇のお陰で目の前のカズヤは全く気付いていない。

 ユウがこちらに来るまでもう少し時間が掛かるはずだ。それまでどうするか——。


「……ぃ……ぅ……」

「……どうかしましたか?」

「……いえ、何でも無いわ。話を続けましょう。あなたの企てのね」

「——アカリ様は私が謀反を考えていると、いまだにお思いなのですか?」

「どういう意味かしら?」

「そのままの意味ですよ。私が謀反なんてする訳ないでしょう?」


 頑なに謀反の企てを認めないカズヤ。


「……嘘を付かないで。私は確かにこの耳で、そなたが謀反を計画していると聞いたのだぞ」


 私がカズヤ邸の地下牢に監禁されていた時、カズヤ本人から謀反を起こすと何度も聞かされていたのだ。それだけで無く、謀反に私も参加しろ、協力しろと言われたのだ。

 あんな屈辱的な事、忘れられる訳が無い。


「幻覚でも見たのでは? もしかすると、あのユウとかいう怪しい男に幻術でも掛けられてしまったのでは?」


 暗闇だからカズヤの表情は良く見えない。が、カズヤが今、いかにも人を馬鹿にした様な気持ちの悪い笑みを浮かべていると簡単に想像出来た。

 対して私は、気持ち悪さと悔しさで自分が震えているのが分かった。


 そんな時、不意に周囲に違和感。見えない何かに包まれた様な感覚。

 私は目に意識を集中させる。すると、黄みがかった薄い膜が私とカズヤの周囲を包んでいるのが見える。

 物陰に隠れて見えないが、この膜の中心にユウが居るのだろう。

 すると、この膜が例の……。


「どうしましたか、アカリさん?」


 カズヤがおちょくった声を出す。

 私が悔しさで黙ってしまったと思っているのだろう。ただ、ユウの魔法を確認していただけなのだが。


 しかし、このままでは、埒が明かない。こんな押し問答をしていてもカズヤの口から謀反の事は聞き出せないだろう。それではこの作戦が失敗に終わってしまう。この国に危機が訪れてしまう。

 私に任せろとユウに大口を叩いた手前、このままではいけない。ならばどうする?


「——ふむ、アカリさんがこのまま何もお話しになられないのであれば、私はこのまま失礼させてもらいますが?」


 やれやれと、カズヤを踵を返す。

 そして、この場から離れようを歩き出してしまった。


(いけない!? このままでは作戦が、この国が!)


 私は意を決して、こちらに背を向けているカズヤに声を掛けた。


「……謀反はマキ様の為?」


 ぴくっ。

 カズヤの歩が止まる。


 マキ様とは、カズヤの母親の名前だ。

 あの日。……私が【忌み子】になった日。

 私と母様、そしてマキ様が乗っていた馬車が襲われ母様とマキ様は殺された。

 朧げな記憶では、カズヤはマキ様をすごく慕っていた。ベッタリだったと思う。

 そのマキ様が殺されて、カズヤの心境はいかほどのものだったのだろうか。


(マキ様、済みません)


 ……正直、マキ様の名前は出したくなかった。死者を利用するみたいだったから。だけど、国の為には致し方ない事。きっとマキ様も分かってくださる。それにこれは、カズヤを謀反という馬鹿な考えから救う為でもあるのだから。


「マキ様はこんな事、望んでないわ」

「……れ——」

「マキ様はこの国を愛しておられたもの」

「——まれよ」

「きっと、マキ様は悲しんでおられるわ」

「黙れって言ってんだよ!!」


 カズヤは叫び、こちらに向き直ると、一歩一歩と近づいて来る。


「お前に母様の何が分かる!」


 そう、呟きながら。

 そして、私の目の前に立つと、隠そうともしない殺気を私に叩きつけながら睨む。

 その目は酷く血走っている様に見えた。



「母様はこの国のせいで殺されたんだ! この国が馬鹿だったからだ!」


 肩をわなわなと震わせながら、カズヤは喚き叫ぶ。


「あの愚かな国にちゃんと止めを刺していれば、母様は殺されなかったんだ!」


 私の乗った馬車が襲われ、母様とマキ様が殺された事件。その後、すぐさま調査が行われた結果、現場に残された凶器が東の国で使われている暗器に酷似している事から、東の国の犯行だと断定された。

 事件の数年前、東の国と小競り合いが頻発していて、殿様であるお父様は小競り合いから東端の町を救う為、戦に向けた準備をしていた。

 東の国も出兵し、戦になると思われたが、それは起こらなかった。

 それどころかお父様と東の国の元首である国家将軍との間で停戦協定が結ばれるに至ったのである。

 これには、東夷将軍であるシンイチ様が関わったらしいが定かではない。

 結果、戦は無くなり、東の国とは暫くは争い事は無くなった。

 しかし、先の事件が発生。再び戦争かという事態、それを阻止したのがマキ様の夫で、宰相様だった。

 当時幼かった私は詳しく知らないのだが、停戦協定を結んだばかりなのにすぐさま開戦となれば、国の威厳に関わるとかなんとか。

 だが、カズヤはそれでは納得出来なかったのだろう。愛すべき母親を殺されたのだ。すぐさま東の国を滅ぼしたかったに違いない。


「——それが、謀反に繋がったの?」

「あぁ。そうさ! 母様を殺したあの国に何の裁きも下せないなら、いっそこんな国なんて無くなってしまえばいいんだ!!」


 きっとカズヤは許せなかったのだ。何もしなかったこの国を。お父様を。宰相様を。


「こんな弱腰な国、国民が悲しむだけだ。だから僕がこの国の上に立つ。その方がずっと良いんだ」

「戦争をした方がこの国の民が苦しむ。悲しむ。戦争をしなかった判断は正しかった!」

「そんなことは無い! 東の国なぞ潰してしまえば良かったのだ! そうすれば母様は死なずに済んだのだ!」

「戦争になればもっと多くの人が死ぬのよ!?」

「有象無象が幾ら死のうが関係あるかっ!」


 さっき国民が悲しむとか言っていたのに、同じ口で今は死んでも構わないと言う。

 おそらくカズヤは自分が何を言っているのか分かっていないのだろう。それほどまでに東の国を憎み、この国を憎んでいるのだ。


(……カズヤの謀反の証言はもう充分取れたわね……)


 証言はこれ以上必要無いだろう。今までの話で充分カズヤは裁かれる。

 私はそっと、【忌み子】化を解こうとした。それが、ユウへの合図にもなっている。

 しかし、


「この国を壊す! そして作り変えるんだ! それこそが母様が喜ぶ唯一無二! その為に僕はあいつらを利用しているんだから!」


(あいつら?)


 カズヤが意味深な事を言う。あいつらって一体!?

 しかし、周りを覆っていた膜が徐々に消えていく。ユウに何かあったのかも知れない。


(今の話は録れていたのかしら? いえ、まずはユウと合流しましょう)


 今の話は見過ごせない。だがユウの安否も気になる私は、カズヤとの話を切り上げる事にした。


「……お互い、平行線のままね。——これまでにしましょう」


 まだブツブツ何かを言っているカズヤにそう言って、私はこの場を離れようとした。

 だが、


「——待ってくださいよ、アカリ様。こちらにはまだ話は終わっておりませんよ」

「……いえ、もう終わりましょう。あと一刻ほどで夜も明けてくるでしょう。そうなる前に屋敷に戻りたいのよ」


 分かるでしょ?と言葉にせず、表情で伝える。しかし、


「酷いなぁ。自分の用事を済ませたらはい、終わり。ですか」

「……他に何か?」

「えぇ。すぐ終わりますよ。 それに夜明けなんて心配しなくても平気です。何故なら……」

「何故なら?」

「屋敷には帰れないからですよ、アカリ様!」


 そういうと、カズヤは右手を高々と上げる。何かの合図なのだろう。


「カズヤ、あなた!?」

「一人でのこのこ来る訳無いでしょう。罠かも知れないのに」


 そうこうしている内に、気配が私の周りを囲む。——かなりの手練れだ。その数六人……。

 だが、今の私は【忌み子】状態だ。この状態だと身体能力が上がる。ただ単に逃げるだけならなんとかなるかも知れない。だがユウが心配だ。前に私の初撃に対応した事から簡単にはやられないと思うが、それでも複数人に襲われてしまうと危ない。

 焦る気持ちを抑えながら、ユウが居るであろう方へと走り出す。


「お前達、アカリ様を逃がすなよ! 攫って利用するんだからな!」


 カズヤの檄が飛ぶ。その檄に答えるように背後に迫る影達。早い!


 シッ!


 背後からの一撃。何とか体を横にずらして避ける。

 そしてそのまま、茂みへと駆け込む。

 ユウはこの茂みの先に居るはずだ。


(——待ってて、ユウ!)


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