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作戦開始 

 

 △ ユウ視点  △



「じゃあ、手筈通りに頼む」


 アカリにそう声を掛け、僕は草むらに身を隠す。


 ここは、アカリがカズヤと会う約束をした、町から離れたお店だ。茶屋と言うらしく、主に旅人にお茶やちょっとした食べ物を提供するお店らしい。その寂れ具合から、今はやっていないこのお店でカズヤと会う約束をした場所だ。街中では、どうしても人目に付く。追われている身の僕としてはそれは避けたい。なので、この場所にしたんだけど。


「——ほんとに誰も来ないな……」


 主要な街道筋から離れているらしく、誰も来ない。ま、その方が都合が良いんだけど。

 そんな廃れた場所のこの茶屋には、僕とアカリしか来ていない。

 ユキネさんも来たがったが、皆で来て、万が一全員捕まってしまうと、こちらは手詰まりになってしまう。

 なので、屋敷にユキネさんを残し、僕達が時間までに戻らなければ城に救援をしてもらう手筈になっていた。


「そろそろかな」


 本条の屋敷から、二人で会うことを了解した旨の便りが来たのがお昼過ぎ。そこには会う時間と場所が指定されていた。

 カズヤの事だから罠とか張ってそうだなと、アカリに言ったら、


『罠ごとぶち破ってやるわよ!』


 と、男らしい返答。

 いやいや、罠だったら危ないだろ!?と言ったら、


『だって会わなかったら、ユウの考えた作戦が無駄になってしまうでしょ』


 と、返されて僕は何も言えなかった。

 そんな事を言われたら、心配している僕がなんだか間違っている様な気がしたから。

 そこまで信用してくれているのがとても嬉しかったから。

 だから、罠であろうがアカリだけは守らなくちゃと、自分でも笑っちゃう位単純に思ってしまった。


 そんなやり取りを思い出していると、視線を向けていた茶屋に影がゆらりと近付いているのが見えた。

 今はカズヤが指定した時間である深夜。

 この国の時刻表記は独特で僕は全く分からないけれど、アカリが言うには丑の刻というらしい。


 茶屋に近付く影に、もう一つの影が近付いていく。その背丈から多分アカリだと思う。が、深夜だから、当然その姿ははっきりしない。

 空に輝く、月が発する明かりでぼんやりと周りが見える程度だ。

 自分の手すらはっきりと見えないこんな状況だ。もしカズヤが一人じゃなく、他の、例えば前に襲ってきた黒装束の連中を前もって配していたとしても、全く気付かない。

 〈ライティング〉で周りを照らしても良いんだけど、そうすると僕の存在がバレてしまう。

 そうすれば、作戦通りカズヤが謀反の事を口にする事は無いだろう。作戦失敗である。

 茶屋の二つの影は向かい合う形で止まった。おそらくアカリとカズヤが話しているんだろう。


(頼むぞ、アカリ)


 僕は心の中で相棒を叱咤激励すると共に、


「〈世界に命じる。魔力を示せ。サーチ〉」


 作戦通り、魔力探知の魔法を使った。



 △ アカリ視点  △



「まったく、こんな暗闇で女の子を待たせるなんて、何を考えているのかしら?」


 私は近付いてきた影にそう悪態を付く。

 ここはカズヤが指定してきた、町の西外れにある古びた茶屋。だが今はやっていないのだろう、外に出しっぱなしになっている縁台も朽ちていた。


「アカリ様と二人で会う事に緊張して、準備に時間が掛かってしまいました」


 お許しくださいと、上っ面だけの謝罪をする近付いた影、改めカズヤ。

 その態度がすごく気持ち悪くて、私は身震いした。やっぱりコイツだけは合わない。生理的に受け付けない。


「……そ。じゃあ、さっさと用件を済ませましょ」


(こんな奴といつまでも一緒に居たくないわ)


 ユウの作戦とはいえ、出来れば一生会いたくない。

 手早く済ませてとっとと帰りたかった私は、早速話を切り出した。


「——そんな連れない事言わないでください。せっかく会えたというのに」


 しかしそんな私の考えをよそに、カズヤは話を続けようとする。

(なんなのよ、こいつは!)


 私は心のなかで悪態をつきながらも、


「いえ、今の私とあなたの立場を考えたら、早く話を済ませた方が良いのは分かるでしょ」


 努めて冷静に、話を始めようとした。


「……そうですか。——それで、お話というのは?」


 やれやれと肩を竦めながら、カズヤは先を促す。

(はぁ、やっとか……)

 話す前から疲れてしまった私は、短く溜息を吐く。さて、どうしようかしら……。

 カズヤから謀反の言質を取る方法は、私に一任されていた。

 ユウ曰く、


『アカリのやり易い様にした方が自然だから、カズヤも油断すると思うんだ』


 との判断からだった。

 私もその方がやり易いと思ったから了承したんだけど、どうしよう、話す切っ掛けが無い。

 いきなり切り出すのも不自然だし、どうしようかと悩んでいると、


「——例の男の件ですか?」


 と、睨む様な目を私に向けて、カズヤが問う。


「……例の男?」

「ほら、あのユウとかいう、お尋ね者ですよ」

「? 何でユウがそこで出てくるのかしら?」


 さっぱり分からない。カズヤは一体、ユウの何を聞きたいのか?

 しかし、そんな私の態度で納得したのか、カズヤは一目で判る位に機嫌が良くなり、


「いえいえ、私の勘違いでございました。……と言う事は——」

「えぇ、あなたの反逆についてよ」


 単刀直入に話を切り出した。カズヤはどう出るか?

 しかし、緊迫した私とは対照的に、カズヤは顎に手をやり、薄ら笑いを浮かべる。


「——あぁ、そちらでしたか」

「私は初めからその件の話を聞きにきたのよ」


 そこで一旦話を区切り、私はある準備をする。

 それは、私が忌避してきたもの、でも確かに私の中に存在するもの……。

【忌み子】

 その力を、今の私はまだ完全には制御出来ていない。だけど、自分の意志で【忌み子】へと移行する事は出来る様になっていた。


(ユウ、お願い!)


 私は意識を【忌み子】へと向けていった。


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