カズヤ邸にて 二
△ カズヤ視点 △
「橘邸から使いだと?」
屋敷の使用人から、橘邸からの言伝だという紙を受け取る。
「はい、確かに橘様からの使いと……」
「……そうか、下がってよい」
使用人が一例して部屋から出て行くのを確認し、僕は急いで言伝を読む。
「——二人で会おうとは、な」
……一体、何を考えている?向こうに二人で会う事への利点は無い様に思えるが……。
「——橘邸から言伝が来たという事ですが?」
一人で思案していると、参謀殿が部屋へと入ってきた。
「ああ」
そう言って、言伝を参謀殿に渡す。
「……ふむ」
言伝を読んだ参謀殿が顎に手を当てる。
「——どう見る?」
「……おそらく罠でしょう。向こう側に二人で会う利点は有りませんし、この言伝にしてもわざわざ我々に、アカリ様の無事を知らせる利点も無い。ならば——」
「罠の可能性が高いと」
「はい」
確かに参謀殿が言う様に、十中八九罠だろう。
あのユウと言う男が追われる身である今、このまま放っておけばいずれ捕まるだろう。それに、【忌み子】が無事と分かった今、当初の計画通りに事が進めらる。
向こうと同じ様に、こちらにも二人で会う利点は無いのだ。
「ならばこの話、断るとするか」
そう結論付けて、言伝を破ろうとする。が、
「——お待ちください」
参謀殿がその手を止める。
「……何故止める? お前も罠と言っていたであろう?」
「はい。まず間違いなく罠です」
「では?」
「ですが、向こうの手が読めない以上、ただ単に罠と決めつけるのは少々危険な気が致しまして。もしかすると、あの時の襲撃に我々が関与しているという何らかの証拠を掴んだ可能性も。それに……」
「……あの男か……」
「はい」
たしかにあのユウとか言う男に、何か得体の知れないものを感じた。
前に屋敷で、急に周囲が明るくなり、まんまと【忌み子】を取り逃がしてしまった事が有ったが、
あれはあやつが使ったと思われる奇術の類であろう。
この国の人間では無いかもしれないという報告も有ったが、それもあながち的外れでは無いかも知れんな。
「今はこちらが有利。ならばこの機会に向こう側の真意を知り、それを潰せば」
「我々の計画に何の憂いも無くなる——と」
参謀殿の言う事も尤もだ。
それに、いちいち【忌み子】達を気にしながらと言うのも、僕の性分に合わない。
(大事の前の小事とも言うしな……)
「よし、罠に乗ろう。まんまと乗っている振りをして、奴らに引導を渡してやろう!」
「御意」
橘邸への返答をする為、部屋を出て行く参謀殿。
これが上手く行った時に、この国は僕の物になる。
そうすればきっと——。
「もうすぐです。もうすぐあいつらに復讐が為します。お母様……」