僕の作戦
「頼まれた通り、本条家に使いを出しました」
ユキネさんから報告を受け、僕は頷いた。
アカリとユキネさんに、僕の考えた作戦を伝えた翌日、ユキネさんに頼んで本条家に居るカズヤ宛てに、使いを出してもらった。使いの人には言伝を渡す様に頼んである。
その言伝には、今夜、アカリがカズヤと1対1で会いたい旨を書いてある。
僕の作戦はこうだ。
アカリにカズヤと会って話をしてもらう。その際、カズヤの口から国に謀反を起こすという言葉を引き出してもらい、僕の魔法、〈レコーディング〉で録音。後日お殿様にそれを聞いてもらい、カズヤの陰謀を白日の下に晒す。
その作戦を話した時のアカリの反応であるが、
『良いじゃない! 今からカズヤの青ざめる顔が目に浮かぶわ!』
と、嬉々としていた。
僕としては、あれほど酷い事をされたのだから、1対1で会うのは嫌なんだと思っていた。ユキネさんも同じ事を思っていたみたいで、何度もアカリに確認していたっけ。
「って、あれ? そういえばアカリは?」
今日は朝から見ていないな。
すると、ユキネさんが、
「アカリさんなら、庭で剣を振っていますよ♪」
笑顔で教えてくれた。
やはり、カズヤの屋敷に行くのに抵抗があるんだろうな。
行くのが怖くて、そんな姿を僕に見られたくなくて、一人になったのだろうか。
「そうですか。……ちょっと様子見てきますね」
ユキネさんにそう言って立ち上がる。
「はい、行ってらっしゃい♪」
「……別に心配してるとかじゃないですよ?」
「私は何も言ってませんけど♪」
あれは絶対気付いているよな。 藪蛇だったなぁ。笑うユキネさんを部屋に残し、アカリが居る庭へと向かう。
朝は少し寒かったが、陽が高くなるにつれ暖かくなってきた。
そんな中、アカリの居る庭を見ると、庭の真ん中に袴姿のアカリが正座していた。
朝日を浴びて光る黒髪が風で揺らぐその凛とした姿に、思わず息を飲んだ。
一つの芸術と化したその姿を壊してしまいそうで、物音一つ立てられずに居た。
「……大丈夫よ」
そんな崇高な空気が揺れる。声を発した当人と同じ、凛とした音で。
「……そうか。心配して損したかな」
「あら、心配してくれていたのね」
そう言って立ち上がったアカリは、そのまま天を仰いだ。
「私はこの国が好き。この国に住む人達も好き。【忌み子】と嫌われ、疎まれてもそれは変わらない……」
「……うん」
「——だから、カズヤを止めたい。内乱が起きて一番困るのはこの国に住む人達なのだから」
「……そうだな」
——僕は間違っていた。
アカリは、この子は、決してカズヤの屋敷に行くのが怖くて、一人になった訳じゃなかった。
己の中の大切なものを守る為に、自らを奮い立たせていたんだ。
「ユウ……」
「……ん?」
「……ううん、何でもないわ」
首を横に振るアカリ。そして、一瞬の逡巡のあと、こっちに振り向き、
「さ、行くわよ!」
と、僕の横を通り過ぎるその顔は、揺るぎない決意が滲み出ている気がした。