〈レコーディング〉
「——それで、これからなんですが」
アカリの部屋に、ユキネさんが持ってきたお茶とおはぎという、甘く煮た豆をもち米というモチモチとした穀物の周りに巻いた食べ物で一息付いた後、僕はユキネさんにこれからの事について話をし始める。
「済みません、ユウさん」
ユキネさんが謝る。シンイチさんの不在を詫びての事だった。
「そんな、謝らないでください。 お仕事ならしょうがありませんよ」
本音を言うなら、これから話す作戦をシンイチさんにも把握して欲しかったんだけど、こればかりは仕方ない。カズヤの陰謀も大事だが、東の国の侵攻の動きも看過出来ないしな。
この日之出国は、西と東にそれぞれ国が有るらしく、昔から争いごとが絶えなかったみたいだけど、最近は小競り合い程度しか無いそうだ。
それは、この国の将軍であるシンイチさんと、もう一人の将軍のタカノリさんという人があまりにも強いらしく、おいそれとちょっかいを掛けると逆に痛い目に遭うのが解っているからとの事。
それほどまでに、この国が誇る二大将軍の力は絶大だという事だ。その二人に鍛えられている、直属の侍達も強いんだろうな。
ちなみに、国の北側には山脈が連なっており、南側には樹海と呼ばれる広大な森林があると、前にアカリに教わったっけ。
「——それで、これからどうするの?」
アカリが空気を読んだのか、質問してきた。
「うん、あくまで僕の考えた作戦なんだけど、上手くいけばカズヤの陰謀を止める事が出来るかもしれない」
「!? それは凄いじゃない! どうするの!?」
「落ち着きなって、アカリ。二人には僕が魔法を使えるって言ったよね。その魔法の中に〈レコーディング〉って魔法があるんだ」
「「れこーでぃんぐ?」」
アカリとユキネさんの声がかぶる。
「そう。この魔法は声を録音する事が出来るんだ」
「何の為に?」
アカリが小首を傾げながら聞いてくる。
「僕の世界では手紙の代わりに使われている事が多いかな。手紙だと書いたりするのに色々用意しなきゃならないけど、この魔法なら自分の魔力だけで済むからね」
「へぇ~」
この〈レコーディング〉、最初は戦争時の伝令として使われていたものが、その便利さゆえに一般にも広がったという、変わった経緯を持った魔法だ。
込める魔力の量で、込められる声や音の長さも変えられる。そして、込められた声や音は魔力で出来た丸く薄いガラス玉の様な形になる。それを割ると中からそれらが聞こえてくると言った仕組みだ。
「で、その〈レコーディング〉の魔法で、どうやってカズヤを止められるの?」
アカリが続きを促す。
「うん、それなんだけど」
うーん、言い辛いな。
アカリをチラっと見る。
「? 何よ?」
「先に言っておくけど、嫌なら断ってくれてもいいんだからな。もし、駄目なら、また別の手を——」
「——良いから、言いなさい」
半目で睨むアカリ。
その目から逃げる様に、アカリの隣に座るユキネさんを見る。
「ユウさん、アカリさんなら大丈夫だと思いますよ」
と、笑いながら答えてくれた。
これから話す事はユキネさんにも話していないのだけれど、薄々気付いているのかも知れない。
「……分かりました。アカリ、頼みがある」
僕はアカリに顔を向ける。
「僕と一緒にカズヤの所に行って欲しい」