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まほうつかい~?

 

「まほうつかい~?」


 確実に馬鹿にしている。信じてくれていない。当たり前だろうけれど。ほんと、さっきまでのあの感動とか何やらを返して欲しい。


 アカリを相棒認定した後、アカリが泣き止むのを待ってから、僕がこの世界の人間では無い事を伝えた。

 そして、アカリに僕が魔法使いだと話したら、返ってきたのが冒頭の間抜けな言葉だった。

 相棒、間違えたかな……。


「魔法使いって言葉は知っているの?」


 気を取り直して取り合えず聞いて見た。


「……うーん、私は聞いた事無いわね。姉様やお父様なら聞いた事はあるのかもしれないけど」

「いや、ユキネさんも知らなかった。もしかするとこの国には無い言葉なのかも」


 先日、アカリを起こす為に魔法を使う際、魔法に関してユキネさんとシンイチさんに聞いてみたけれど、全く知らないと言っていた。

 もしかすると、この国では違う言葉なのかも知れない。


「呪術士とか、そういうのは聞いた事はあるけど……。そうね、この国では使わない言葉ね」


 アカリが顎に手を当て考えていたが、やはり聞いた事は無いみたいだ。


「それで、その魔法使いってのは何なの?」


 アカリが、興味津々に身を乗り出して聞いてきた。 ち、近い!?

 僕は、少し身を引いた後、コホンと咳払いをして、


「実際は召喚士なんだけど、まぁ良いか。 魔法使いってのは、魔法を操る職業の人を指すんだ」

「魔法を操る?」

「そう。アカリも見ただろ?」

「……——あ! あの時の明かり?!」

「当たり。 あれは〈ライティング〉って魔法なんだ」


 アカリと最初に会ったあの地下牢や、シンイチさんの屋敷から脱出した時にも使用した、明かりを灯す魔法だ。明かりは気付いていないが、カズヤの屋敷から抜け出す時も、アレンジした〈ライティング〉を使用している。

 生活魔法でも使い方次第ではああいった事が出来る便利な物なのだが、何故かアカリは半目になって、僕を見ている。 あ、懐かしいな。その目。


「なーに、魔法ってあんなショボいものしかないの?」

「しょ、ショボいって」


 僕はがっくりと肩を落とす。それを見たアカリが両手を前に出し、慌てた様に、


「い、いえっ、別にユウがショボいって訳じゃないのよ!? 暗い所で明かりが使えるってのはとても便利な事ですものね。 ただ……」


 困った様に上目遣いでこちらを見るアカリ。年上だというのに、その仕草はいかがだろうか。 ……可愛らしいけど。

 このまま見ていたいけど、アカリの勘違いを正さないと後が怖い。


「……もしかして、僕が〈ライティング〉しか使えないと思っているのかな?」

「え、違うの?」

「そんなわけないだろ? それだけなら力になるなんて大見得を切らないよ」

「そんなの分かる訳無いじゃないっ」


 意地悪ね、とベーっと舌を出す。だから、可愛いから止めてほしいなぁ。


 ゴホンと、咳払いを一つして、


「魔法には種類があって、〈ライティング〉は生活魔法の一つなんだ」

「生活魔法?」

「そう。他には攻撃魔法や回復魔法、補助魔法とかがある」

「へぇ~」


 教師然とアカリに説明する。学校で教わった事をただ言っているだけだけど、それでもアカリは興味津々といった感じで聞いている。


「それで、その魔法ってのいうのは、誰でも使えるのかしら?」

「僕が居た世界では、生活魔法は誰でも使えるよ。それこそ子供からお年寄りまでね」

「なら、私も!?」


 アカリの目がさっきに比べ3倍増しに輝く。僕との距離も3倍増しに近くなる。

 目の前で目をキラキラさせたアカリに、つい見惚れてしまった。頬が熱くなっているのが分かる。


「どうなの!?」


 アカリの問いに我に返る。


「え、えっと、どうだろ?」


 しどろもどろになりながらも答えた。

 この世界に来てからというもの、僕以外に魔法を使っている人を見た事が無いし、僕が使った魔法を誰も理解していなかった。

 そう考えると、この世界の人間は魔法を使えるとは・・・。


「そもそも、魔法を使うには魔力が無いと使えないんだ」

「魔力?」

「そう。魔法の元みたいな感じかな」

「その魔力って、どうすれば分かるの!?」

「どうすればって言われてもなぁ。物心ついた時にはすでに知っていたし、感じていたから」

「そう……」


 そこでアカリは黙ってしまう。

 アカリには悪いけど、こればかりはどう説明して良いか分からない。

 僕の世界に住む人間には、誰もが魔力を持っていたし、感じていたのだから。

 親に教わるものでも、学校や教会に教わったものでも無い。生きていく中で自然と身に付いていたものだったから。


「あのさ……」

「ん?」

「——私にもあるか分かる? その、魔力ってやつ」

「う~ん、どうだろ?」

「どうすれば分かる?」


 縋る様に見つめてくるアカリ。


「そうだな……。一応、周りの魔力を探る魔法っていうのはあるんだけど」


 生活魔法の中には、周りの魔力を感知することの出来る〈サーチ〉というのがある。

 これを使えば、魔力を持つ人間や動物、それに魔物の位置を把握出来るという便利な魔法だ。

 しかし、一見便利に見えるこの魔法にも欠点があり、相手が魔力を隠蔽してしまえば感知出来ないとか、範囲もあまり広くないとかがある。まぁ、込める魔力で範囲は調整出来るみたいだけど。


 閑話休題。


「じゃあ、それを使えば私にその魔力があるのかが分かるのね!?」

「うん、多分ね。 でもあまり期待しない方が良いんじゃ」

「なに言っているのよ。やってみなけりゃ分からないじゃない」


 ほんと、アカリって前向きだな。


「それもそうだね。 じゃあ、やってみようか」

「えぇ、お願いするわ!」


 アカリはコホンと一つ咳払いをすると、居ずまいを正す。そして、何故か目を瞑った。なんで目を瞑ったんだろう。その仕草がやけに可笑しく、僕は笑うのを押さえながら魔力を練り始める。


 魔力を練りながら考えた。

 僕達は一体いつから、この魔力を使える様になったのだろうか、と。

 学校では教えてはくれなかった。

 教会では、神様がくれた力だと説いていた。

 ならば何故、魔物も使えるのだろうか。

 疑問は尽きない。だが、あまり考え事に夢中になると、魔力を練るのに集中出来なくなってしまう。そんな事になったら、アカリに怒られるだろうな。

 簡単に想像が出来たそれを、何故か暖かく感じた時、魔力が練りあがる。


「——アカリ、良いか?」

「——いつでも良いわよ」


 何故か、瞑る目に力を込めたアカリ。今ではぎゅっと目を瞑っている。


「じゃあ、いくね」


 そう言って目を瞑り、周囲に意識を集中させ魔法を行使する。


「〈世界に命じる。魔力を示せ。サーチ〉」


 すると、波紋の様に僕の魔力が広がっていく。この波紋は他の魔力に触れると反応し、僕の脳裏に光点として示される。

 今唱えた〈センサー〉はアカリの魔力の有無を感知する為に放ったものだから、そんなに魔力を込めていない。

 そのせいか、すぐに魔力の波紋は消えてしまう。が、すぐ近くに居るアカリの魔力の有無を調べる位なら、これで充分だ。


 目を開ける。アカリは変わらず目を瞑っていた。さて、どう伝えたものか……。


「——アカリ、終わったよ」


 優しく声を掛ける。

 するとアカリは、ピクっと体を震わせたあと、片目だけをそっと開ける。


「——で、どうだったの?」


 恐る恐る聞いてくる。


「……うん。反応しなかった……」

「——それってつまり?」

「アカリには魔力が無かったってことかな」

「……そう……」


 目に見えて落ち込むアカリに、僕は慌てて声を掛けた。


「そもそもこの世界には魔力なんて無いのかも知れない。それが普通なんだよ、きっと」


 どんな慰めの言葉を掛けて良いのか分からなかったけど、取り合えずこの世界のせいにしてみた。

 すると、アカリは何故かブツブツ言い始めた。「この世界」とか「もしかして」とか聞こえる。

 アカリの様子を窺っていると、突然バッと僕を見る。その目には、間違っても落ち込んでいるとかの負の感情は無かった。

 そして、


「ね、もう一回試してもらっても良い?」

「え? い、良いけど」

「ちょっと考えがあるのよ」


 そういうとアカリは背筋を伸ばし、目を瞑った。なんだ? 何をする気だ?

 気になったけど、とても聞ける雰囲気では無いな。


 暫くそのままアカリを見ていると、違和感を覚える。

 アカリには何も変化が無い。——いや!?

 良く見ると、黒かったアカリの髪が、徐々にではあるが明るくなっている様な?

 いや、気にせいじゃないっ。今でははっきりと色が変わっていくのが分かる。

 そして、髪の色が完全に紅くなった頃、アカリは閉じていた目を開ける。


「……どう?」

「いや、どうって言われても」


 目の前で起きた変化についていけない僕は、そう答える他無い。

 その言葉に、アカリは頬を膨らませ、


「もう、そういう時は紅くてキレイだねとか、見惚れたよとか言うのよ」


 と抗議してくる。そのいつものアカリの反応で、少し冷静になった僕はアカリに尋ねた。


「それは?」

「——これが例の【忌み子】になった私よ」

「【忌み子】? これが?」

「そ」

「……案外何も変わって無い様な」


 すると、アカリは目をキョトンとさせた後、口に手を当て、


「あはは! そうね、あなたならそう言うと思っていたわ♪」


 一頻り笑うと、目尻に浮かぶ涙を拭いながら、


「……そう、何も変わらない、今ではね」

「今では?」

「剣を鍛えたからか、【忌み子】の状態?って言えばいいかしら? この状態でも意識は保てるのよ」

「という事は、前は違ったのか?」

「えぇ。初めの時は全く意識は無かった」


 そういうと、その時を思い出したのか、俯く。


「……それで、僕に何を?」


 その時を知らない僕が、どう声を掛けていいものか分からない為、何故に今【忌み子】になったのか理由を聞く事にした。

 僕の問いにアカリは軽く息を吐くと、僕を見つめ、


「さっきの、もう一度やってみてくれない?」

「さっきの? 〈サーチ〉の魔法?」

「そ、それ。お願い」

「——分かった」

 そういうと僕はもう一度アカリに対して〈サーチ〉を使う。


「これは——!?」


 〈サーチ〉の魔法を使った僕の脳裏に、先程には無かった光点が表れる。


「え? なんで?」


 何が起きたか分からない僕の顔をみて、アカリは悪戯が成功した子供の様にニカッと笑った。


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