アカリを起こそう!
△ ユウ視点 △
「「——生活魔法?」」
シンイチさんとユキネさんの質問が重なる。
「はい。生活魔法とはその名の通り、普段生活する中で使用する簡単な魔法の事で、例えば先ほどお見せした〈ライティング〉もその一つです。便利な魔法なんですよ」
水や火、風を起こす物から、明かりや簡単な魔力探知など幅広い。攻撃魔法が上手く使えなかった僕でも使えた、一番親しみのある魔法だ。
「その生活魔法の中に、〈ウェイキング〉というのがありまして、寝ている人を強制的に起こす魔法なんです」
数ある生活魔法。その中でも〈ウェイキング〉は僕に恐怖を与えた魔法の一つだ。
昔、サラが魔法を覚えたての頃、寝ている僕に良く掛けていた。
何が恐怖だったかというと、昼寝で寝ている時だけでなく、夜寝ている時でさえ掛けてきたせいで寝かせてもらえなかったのだ。
何故そんな事をするのかと怒りながら聞いたところ、僕ともっと遊んでいたいからと、大変に迷惑な事を言っていた。
(……もっと、遊んであげれば良かったな……)
二度と会えない今、強く思う。そうして気を抜くと、思い出すと、途端に目頭が熱くなってくる。
「——ユウ殿?」
僕の雰囲気を察したのか、シンイチさんが心配そうに声を掛けてきた。
「……済みません。ちょっと考え事を」
「……いえ。それで、その〈ウェイキング〉とやらを使うと、アカリ様が起きるということですか?」
「たしかな事は云えませんが、恐らく」
「おお!」
シンイチさんがユキネさんを見る。
ユキネさんも嬉しそうに頷いた。
「何か準備が必要か?」
「いえ、呪文を唱えるだけです」
正確に言えば魔力を練らなきゃいけないけど、この世界の人達は魔法を使えないみたいだから、魔力は無いと思う。魔力の無い人達に魔力の事を言っても伝わらないだろう。
「では、早速お願いしても宜しいか?」
「はい」
「うむ、ではユキネ。アカリ様の所へ」
「はい。ではユウさん、こちらへ」
ユキネさんが立ち上がり、隣の部屋に寝ているアカリの元へと案内する。
そして、僕たちはアカリの隣に座った。
「ユウさん」
「はい、では」
僕は杖を持ち、魔力を練り始める。
魔力を練りながら、布団で寝ているアカリを見る。
起きている時はあんなに口うるさいアカリ。すぐに僕にちょっかいを掛けてきたり、からかってきたり。
そんなアカリを疎ましく思う時もあった。
でも、目の前で眠るアカリは、意識を失っているせいか顔色も悪く、生気を感じられない。
(僕を庇ったせいでこんな……)
杖を握る手に力が入る。
程なくして、〈ウェイキング〉を唱えるのに必要な魔力が練れた。
待ってろよ、今起こしてあげるからな。
そして、僕は魔法を行使した。