魔法、見せてみよう!
△ ユウ視点 △
「ユウ殿が何を言っているのか分からないのだが?」
シンイチさんが、その図体に似合わない、ぽかんとした顔をしている。
隣にいるユキネさんも同じ様な顔をしていた。無理も無いけど。
僕だって、例えばアカリに「私は異世界から来た」と言われれば、同じ様な反応をすると思う。
(……いや、もっとバカにするかもな)
寝ているアカリを見る。その顔はとても穏やかで、ただ寝ているだけにしか見えない。
だが、このまま意識が戻らなければ死んでしまうのだ。また、大切な人が……。
いけない。そうしない為に僕はこの二人に話すと決めたのに。また弱気になってしまった。
軽く首を振って、シンイチさん達の方を向く。
「——さきほどお二人にした質問なのですが、最初の質問は僕が住んでいた国や村、大陸の名前なんです」
最初の質問、アイダ村やノイエ王国、アルカディア大陸の名は、前の世界でも、遠くの国であるなら知らない人が居ても不思議では無いと思う。
「二番目の質問は、僕の世界で生きるには、絶対に必要な知識なんです。しかし、自分で働かなくてもいい人、王族や貴族なんかは知らなくても生活出来る可能性もあるので、そういう人達は絶対ではありません」
そう、誰かに守って貰ったり、誰かに養って貰ったりする人はスキルが使えなくても問題無いし、ジョブも王族とか貴族とかはジョブっていう括りでは無いのかも知れないしな。
「——ただ、最後のは絶対に知っていなくちゃいけない事なんです。僕の居た世界では絶対に——」
最後の質問、【大災害】は、どんな人間でも絶対に知っている事だ。学校を出ていない人であっても教会で教わるし、お二人の様な立場の人なら、それこそ知っていなくちゃいけない事だ。国民を守る為には、襲ってくる魔物に対する知識が必要で、それには必ず【大災害】について勉強するはずだから。
なのに、二人とも、僕の質問に対して一つも知らなかった。
そこから考えられるのはただ一つ……。
「——それを自分達が知らないから?」
「はい」
「……ただ知らないだけとは考えられないのですか?」
「はい、考えられません」
「うむ……」
シンイチさんはまだ納得がいっていない様だった。
国の重要な役職に就いているのだから、そう簡単には納得出来ないのかもしれない。
「——ユキネさん、済みませんが、僕の杖を持ってきてもらえますか?」
「杖、ですか? 分かりました」
そう言うと、ユキネさんは立ち上がり、僕の杖を取りに行く。
「ユウ殿?」
「話だけで流石に信じろというのは、無理がありますから。今から証拠をお見せしたいと思います」
シンイチさんにそう話すと、丁度ユキネさんが杖を持って、部屋の中に入ってきた。
「ユウさん、これですか?」
「ええ、有り難う御座います」
お礼を言って、ユキネさんから杖を受け取る。
手にしっくりくる。この世界にまで一緒に来た相棒だ。そう思い杖を見ると、何故か落ち着くから不思議なもんだ。
(さて、やるか)
僕は深く息を吐き、集中する。自分の中の魔力を練り上げる。
この世界でも魔力を感じる事が出来るなんてな。まぁ、自分の中に有るものだからなのかも。
ゆっくりと練り上げた魔力を杖へと通していく。前より魔力の伝達が早い気がする。気のせいかもしれないけど。
充分魔力が杖へと渡った所で、僕は魔法を唱える。
〈世界に命ずる。灯りをともせ。ライティング〉
僕の言葉に答えるかの様に、杖の先にボウっと魔力の灯りが灯る。
昼間であっても見えるその灯りを前に、シンイチさんとユキネさんは身を固くする。
「——ユウ殿、先ほどの言葉は一体? それにその灯りはどうやって点いているのだ?」
「さっきの言葉は魔法と言って、僕の世界では誰でも使えるものなんです。その魔法を使って、杖の先に明かりを灯したんですよ」
便利なんですよ、と付け加えた。
二人は杖の先の光に、好奇の目を向ける。
「——触っても?」
「ええ」
ユキネさんが恐るおそる光に触れる。
「……熱くないんですね」
「ええ、ただの光ですから」
「ユウ殿の世界では、誰でもこれを?」
「ええ。これは生活魔法と言って、僕の世界では誰でも使えます。それこそ十歳に満たない子供でも」
「なんと……」
今の僕なら攻撃魔法も使えるけれど、万が一失敗したら恰好付かない。だから無難に生活魔法にしたんだけど、二人の顔を見る限り正解だったようだ。
シンイチさんは、突然居ずまいを正すと、
「ユウ殿、正直最初はユウ殿が何を言っているのかと戸惑いましたが、ユウ殿がここまで誠意を見せてくれたのです。これで信じられなければ男が廃る!」
そこで、ゴンと額を床に叩きつけ、
「ユウ殿を疑ってしまった事、お詫びしたい!」
「ちょ、ちょっと、シンイチさん!?頭を上げてください! いきなりあんな事を言われれば、誰だって疑いますよ。僕は何とも思っていませんから! それに色々とお世話になっているシンイチさんに頭を下げさせたんてアカリに知られたら、アカリに殴られます。頼みますから頭を上げてください」
そういうと、シンイチさんは頭を上げてくれた。
「ユウ殿、ありがとう」
「ユウさん、ありがとうございます」
ユキネさんにもお礼を言われる。なんだかこそばゆい。
気を取り直す様に、コホンと軽く咳をしてから、二人を見て、
「それで、この生活魔法なんですが、これを使えばアカリを目覚めさせる事が出来るかも知れません」