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告白

 

 ◇



  「ユウ殿、話があるとか」


 対面に座っているシンイチさんが、そう切り出す。

 ユキネさんは、シンイチさんの斜め後ろで同じ様に座っていた。


 話が有るとユキネさんに伝え、呼んでもらったシンイチさんと一緒に戻って来る前まで、僕は何を、どこまで話そうか考えていた。

 これから話す事は、多分大半の人は信じてくれないだろうから。


「これから話す内容は、お二人にとってとても信じられるものでは無いと思います。でも本当の事です」


 僕は二人の目を真っ直ぐに見る。

 二人とも僕の視線を受け、頷き返した。


「ユウ殿。自分はユウ殿を信じる」

「私もです、ユウさん」


 この二人なら、そう言ってくれると思っていた。

 ならば。


「本題に入る前に、お二人に幾つか質問したい事があります。答えてくれますか?」

「もちろんだとも」


 シンイチさんがユキネさんの分も代弁する。


「ありがとうございます。では、早速。……お二人はアイダ村かノイエ王国、もしくはアルカディア大陸、このどれかの名前を聞いた事がありますか?」


 僕の質問に対して、二人はうーんと唸りながら考える。

 そして、


「……いや、自分はどれも聞いた事が無い」

「……私もです」


 シンイチさんとユキネさん、共に知らないと答えた。


「そうですか……。では次に、ジョブと言う言葉は?」


 この質問にも、二人とも聞いた事が無いと答える。

 他にも、スキルやエンチャント、魔力などといった、僕やサラが生活していた国では皆が知っていて当たり前の事を聞いてみたが、どれも二人とも知らなかった。

 僕はふーっと深く息を吐くと、最後の、決定的な質問をした。


「——次が最後です。大災害という言葉は知っていますか?」


 最後の質問という事、そして、今まで僕が言った事全てを知らなかった二人は、かなり時間を掛けて考えてくれた。


「——すまんユウ殿。その大災害というのも自分は聞いた事が無い」

「——私もです。お役に立てず済みません」


 しかし、やはりというか、大災害についても二人とも知らなかった。


(……これで決定的だな……)


 僕は気を落とす二人に気付かれない様、溜息を吐いた。

 しかし、名立たる武将であるシンイチさんには気付かれてしまったらしく、


「力になれず済まないな、ユウ殿、しかし、先ほどの質問にはどんな訳が?」


 と謝られてしまう。


 ぼくは努めて明るく振舞いながら、


「いえ、お気になさらないで下さい。お二人が答えてくれたお陰で、僕の現状が分かったのですから」

「……現状、ですか?」

「はい。ここからがお二人にお話ししたかった本題です」


 僕は姿勢を正し、深呼吸した。


「さきほど分かった事なのですが、——実は僕、この世界の人間じゃないみたいなんです」


 ◇  



  気付けば、私はいつも一人だった。

 これまで友と呼べる存在なんて居なかった。

 ただでさえ、殿様の子というだけで、周りに居た同世代の子供には距離を置かれていた。

 それでも友達が欲しかったが、影で後添いの子と呼ばれている事を知った私は友を諦めた。子供はそういうのに敏感である。後添いという言葉の意味すら知らなくても。

 そんな私が唯一心を許せたのは、姉様だけだった。

 八つ年上の姉様は、腹違いの妹である私を大層可愛がってくれた。遊んでくれた。

 同世代の友が居なかった私に、色々教えてくれたのも姉様だったし、お母様がお忙しい時、面倒を見てくれたのも姉様だった。

 そんな姉様が大好きだった。誰にも取られたくなかった。幼い私にとって姉様は全てだったから。

 そんな姉様に縁談が持ち上がった。私が七つの時だったと思う。

 縁談の意味を知らなかった私は、新しく家族が増えるのだと教えられ、とても喜んでいた。

 もう一人の母様となる人も優しくしてくれたし、新しく兄様となる人も優しくしてくれた。

 とても嬉しかった。あの時までは。

 姉様がこの屋敷から居なくなる。結婚し、相手の屋敷で姉様は暮らすとの事。

 私がそれを知ったのは、縁談が終わって祝賀行進を明日に控えた日だった。

 七つと大きくなったとはいえ、姉離れの出来ない私は姉様を失いたくなかった。

 だから、この縁談が中止になれば良いと願っていた。

 中止になれば、姉様はどこにも行かないと思っていたから。

 でも、祝賀行進は予定通り執り行なわれた。

 願いが通じなかった私は、朝から不機嫌だった。

 でも、姉様と兄様。二人がとても嬉しそうにしているのを見ている内に、少しずつ二人をちゃんとお祝いしようと思っていた。

 別に会えなくなるわけじゃないしと、自分に言い聞かせていたっけ。今思えば、姉離れの第一歩だったのかもしれない。

 だから、中止になれば良いと思っていた事すら、忘れていた。

 気付けば、祝賀行進は中止、それに姉様の縁談すら白紙になっていた。

 当たり前だ。あんな事になったのだから。

 御台様であるお母様と、もう一人の母様。それに警護に当たっていた二十を超える侍が殺されたのだから。

 そして、姉様の妹である私が、忌み子だったから……。

 その後の事はあまり良く覚えていない。

 色々な医者の、学者の、呪い師の診察を受けた。

 姉様は笑わなくなった。それどころか、私を遠ざける様になっていた。

 私も姉様に近付けないでいた。

 私が中止になれば良いと願ったから、罰が当たったんだと思った。

 こんな私がどうして姉様に会いに行けるのか、と。

 そして私は、また一人になった。


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