アカリの邂逅 其の壱
△ アカリ △
ここはどこだろう。
青い空の下、赤や黄、緑などの色の付いた雲が辺り一面を覆っている不思議な場所。
こんな場所、私達の国にあるとは思えない。きっとこれは夢なんだわ。
そう思うと、何だか体が軽く感じる。何かから解放された様な、そんな気分になる。
それがとても楽しくて、そして何故か少し怖くて。私は歩き出した。
そうして暫く歩く。何故こんな所に来たのか、その前に何があったのか考える事もしないで。
相変わらず私の周りを色とりどりの雲が流れていく。ふわりふわりと。
その雲達に追い抜かれまいと、追い付こうと歩く足を速める。
しかし、自分の歩く速度は変わらない。逆に追い抜く雲の速度は段々速くなっていた。
私はさらに歩く速度を速める。それはもう走っているのと変わらない。
しかし、周りの雲達はそんな私を馬鹿にするかのように、さらに速度を上げた。
先程までのふわりとした雰囲気はもうそこには無い。
「ちょっと!」
雲に抗議する。
でも、雲は私をからかうかの様にその体をウネウネと動かすだけで、速度に変化は無い。
いや、良く見るとさっきまで赤や黄などの色が、今は灰色になっている。まるで雨雲の様だ。
雲の急な変化に、私は怯える。
そう、あの時もこんな風に急に天候が……。
それまでは晴れていた。雲一つ無くて、まるで神様が二人をお祝いしているんだと思ったわ。
……あれ、二人って誰だろ?
思いだそうとしたけれど、思い出せなかった。思い出したくなかったのかもしれない。ま、いいわ。
すると、周りの風景が一変した。
見た事のある城下町。お城へと続く大通り。その通りを馬車に乗って行進している自分。
沿道には、二人を祝福しようと多くの人で溢れかえっていた。
そこに急に雨雲が涌き出たかと思うと、直後に滝のような雨が降ってきた。
周りに居た護衛の侍達は、急な雨に狼狽えていた。
私はこのまま、祝賀行進が中止になるのかなって残念に思っていたっけ。
確かに大切な人を取られてしまう寂しさを感じてはいたけれど、それ以上に、その大切な人が幸せそうに笑う顔を見て、お似合いの二人を見て、子供心にもこの祝賀行進が無事に終わりますようにと祈っていた。
だから、早くこの雨が止むようにと。
しかし、その祈りは通じないまま、雨は降り続いた。
私はお母様と、もう一人のお母様と一緒に、行進の集団の中頃に位置していた馬車の中で、これからどうなるのかって、話をした。
「ねぇ、お母様。このまま中止になっちゃうの?」
「そうね、このまま雨が降り続けばそうなるかもしれませんね」
「私はいや!ちゃんと二人をお祝いしたい!」
「そうね、でもアカリちゃん?」
「なぁに、お母様?」
「×××と×××が雨に濡れて風邪でも引いちゃったら、嫌でしょ?」
「……うん」
「だから、もし中止になっちゃったら、お城で家族だけでお祝いの続きしちゃいましょうか」
「!? うん、そうしよ!」
「あらあら、泣いた烏がもう笑った」
それも良いと私は思った。そしたらまだ一緒に居られると思ったから。
二人が結婚したら、今までと違い、一緒に住めなくなるから。
だから、なるべく一緒に居たいと思った。
この雨の中、行進を楽しみにしていた沿道の人達に悪いと思いつつ、中止になる事に期待した。
そんな私の期待に応えるかの様に、馬車のドアが開く。
きっと、護衛の侍がこの行進の中止を伝えにきたに違いない。
しかし、開いた扉に立っていたのは、見た事の無い外套を着た男だった。
手には、こちらも見た事の無い剣を持っている。
「!? アカリ、こっち!?」
お母様が私の手を引っ張り、私の身をその男から隠す。
「やらせませんよ!」
もう一人のお母様が、お母様と男の間に立って、両手を広げた。
しかし、
ザシュッ!
「ぎゃあ!?」
「×××様!!」
お母様が叫ぶ。
「天誅……。」
男が呟く。天誅って一体?
「あなた、何をしているのか分かっているのですか!?」
お母様が男に向けて怒鳴る。
しかし、男は聞こえていないのか、斬られ、事切れたもう一人のお母様を跨ぐようにして、こちらに向かってきた。手に持っている剣には、血が滴り落ちていた。
お母様は私を脇に抱える様にして、馬車の外に出ようとする。
でも、そんな事をすれば!?
「……天誅」
そんなお母様を見逃すはずも無く、外套の男が持っている剣で、横をすり抜けようとしたお母様を斬り付ける。
「うぐっ!?」
「お母様!?」
お母様が前のめりに倒れ込むが、
「アカリ!!」
力を振り絞り、私を馬車の外へと投げ飛ばす。
「お母様!!」
馬車の外へと投げ飛ばされる時に見たのは、外套の男が、倒れたお母様に剣を上から突き入れようとしている所だった。
「やめてぇ~~!!!」
その時、お母様と目が合った。
お母様は、口元に笑みを浮かべる。
ザシュ──!
深々と、外套の男の剣がお母様の体に刺さる。
「いやぁーーーーー!!!」
降りしきる大雨の音の中、私の絶叫が響くのだった。