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待ち伏せ

 

 出口に向けて歩く僕とアカリ。

 途中から横に並んで歩くと、やがて目の前にこの地下道に入って来た時と同じ様な梯子があった。


「——ここで地下道はお終いかな?」


 アカリを見ると、頷き返してきた。


「どうする?先登るか?」


 梯子を下りる時の様な、面倒臭い問答は避けたかったので、先に聞いてみる。


「そうね、私が先に登るわ。勘違いしないでね、別に覗き云々ではないから。あなただと、登った先が何処だか判断出来ないでしょ」


 確かにそれもそうなので、アカリに先に登ってもらった。

 登ったあと、周囲を確認して問題無ければ、アカリが送る合図で僕が登る事になった。


「じゃあ、気を付けて」


 登るアカリに声を掛ける。


「言っておくけど、合図が有るまで上を見ちゃ駄目だからねっ」


 そんな事を言い残し、アカリは梯子を登っていった。アカリは普段、僕の事をどう思っているのか、この件が終わったらじっくり話し合いたい。

 そんな事を考えていると登り終わったのか、掴んでいた梯子から振動が消えた。

 少しだけ緊張する。アカリの話だと大丈夫らしいが、万が一、登った先に皇軍が居たら万事休すなのだから。

 そんな僕の懸念を払拭する様に、アカリから合図が出た。取り合えず、懸念が無くなった事に安堵の溜息を吐き、梯子を登り始める。出口の穴の先も暗い。月が出ていないのかもしれない。その出口に出る前にそーっと頭を出して周囲を確認する。

 そこは小屋の中だった。

 木で出来た簡素な造りのその小屋には、何かで使う道具が、乱雑に置かれている。土が付いているのを見る限り、畑仕事とかで使う道具なのかもしれない。

 そして、小屋の入り口には、アカリが片膝を地面につけた状態で、入り口の扉の陰から、外の様子を窺っていた。

 穴から出て、アカリの横に行く。


「どうだ?」

「大丈夫。気付かれていないみたい」


 僕も扉の陰から外を見る。

 外には建物が二棟建っており、その内の一つをアカリが指差す。


「あれが厩ね。あの中に馬が居るわ。その馬に乗って私達の屋敷に行くわよ」


 ちなみにもう一つの建物は、馬の世話をする人用の建物らしい。休憩とかで使うのかな。

 それらの建物も含め、今居るこの敷地には当然の様に塀で囲われている。

 そして、その塀の向こう側が少し明るい。どうやらあの付近がさっきまで居た日下部家の屋敷なのだろう。思った以上に離れているから、馬に乗ってここから出てもすぐに見つかる心配は無さそうだ。 地下道、結構な距離があったんだな。


「さ、行くわよ!」


 アカリが厩目指して走り出す。僕もその後に続く。しかし、着物姿で走るのに慣れていないので、やはり遅れてしまった。別に厩まで距離があるわけじゃ無いから別に良いんだけどさ。


 アカリに追い付くべく頑張って走る。アカリもこちらを気にしてか、走る速度を落としてくれた。

 その背に向けて質問する。


「他には誰も居ないのか?」

「これから向かう厩に、護衛が居る手筈になっているわ。さすがに私とあなただけで屋敷まで無事に行けるとは思っていないもの」

「それもそうだな。護衛が居るなら安心だ!」


 そうこうしながら、厩に着いた。

 アカリが念の為か、中の様子を確認するが大丈夫なのか厩の中に入っていく。

 僕も続いて入る。

 中には馬房が6か所あり、その半分に馬が居る様だ。


「ちょっと、誰も居ないの?」


 アカリが周りを気にしながら奥へと進む。

 月明りが差し込んでいる為、そこまで見えづらくは無いが、やはり奥の方は真っ暗だ。

 居るはずの護衛の姿が見えない事から、相手に見付からないよう奥に居るのかな。

 僕達が馬房の前を歩くと、馬房の中に居る馬が(いなな)く。

 馬房の前にある木の棒柵に頭を乗せて、こちらを見つめる黒い毛をした馬に目が留まる。

 どこかで見た事あるような。

 足を止め、馬の頭を撫でる。くすぐったそうな、気持ち良さそうな顔をする黒い馬。


「もう、あなたも一緒に探して。 ——っ!? ユウっ!!」


 え!? なに!?

 見ると、アカリがこちらに向けて走り出していた。走りながら手に持っていた刀を抜く。

 アカリの反対側を見る。

 すると、黒い装束に身を包んだ人間が、口に咥えた筒状の物をこちらに向けていた。


「馬鹿!? 避けなさい!」


 アカリが僕に体当たりするのと、黒装束がフッと何かを飛ばすのは同時だった。

 アカリの体当たりで、黒い馬の居る馬房内へと飛ばされる。


「アカリ!?」


 急いで起き上がりアカリを探すと、厩の入り口で黒装束を斬っている所だった。


「ぐはっ!?」


 血を吐き、崩れ落ちる黒装束。 その後はピクリとも動かない。

 その前で二の腕を押さえ、立ち尽くすアカリ。


「どうした!? まさかやられたのか!?」


 アカリに駆け寄ると、アカリはこちらを見てにこっと笑う。

 そして、持っていた刀を落とすと、膝から崩れ落ちた。



「!? アカリ!?」


 倒れる前に何とか受け止める。


「アカリ! おい、しっかりしろ!」


 肩を揺らす。目を閉じ、苦しそうな息使いをするアカリ。額には脂汗が浮かんでいる。

 良く見ると、アカリが押さえていた二の腕付近にジワリと血が滲んでいた。

 こんな傷で、ここまで衰弱するとは思えない。

 しかし、他に傷を負っている様子は無い。 どういう事だ!?


「……毒、よ……」


 消え入りそうな声で教えてくれるアカリ。


「アカリ! 大丈夫か!? 毒って一体!?」

「さっき、あなたに、向けて、くっ、……吹いてたのは、……毒矢」

「毒矢!?」

「……そう、……恐らく、隣の……——」


 そこまで言ったところで意識を失ったアカリ。


「おい!しっかりしろ!」


 しかし、アカリの意識は戻らない。それどころか、熱も出てきたようで、抱き上げている腕に、アカリの高熱が伝わる。(くそっ!このままじゃ!——いや、確かここには護衛が要るって言ってたな!?)

 アカリをそっと寝かせ、厩の中に向けて叫ぶ。


「おい、護衛の人!アカリが大変なんだ!出てきてくれよ!!」


 しかし、返事が無い。突然の僕の大声で馬が驚き嘶いて居るくらいだ。


(何で誰も返事してくれないんだ!)


 その場にアカリを残し、厩の中へと走る。


「おい、返事してくれ!」


 すると、草履がヌチャとナニかを踏んだ。


「ん?」

(何だ? 水か? それにしては粘着性が?)


 馬の糞でも踏んだかと、草履を脱ぎ、目の前に持ってくる。

 すると、強烈な鉄の臭いが鼻を刺激する。


「ひっ!?」


 暗闇で色は判らない。が、ソレが何かすぐに分かった。判った途端、立ち込める死の臭い。


 そっと、ソレが流れてきていると思われる、空の馬房に目を向ける。

 すると、そこには着物を着た何かが折り重なる様にして倒れていた。


「あ、ぅ」


 それは護衛だったモノだ。何も言わなくなってしまった、赤いソレを流すモノ。


「うわ~~!!」


 僕はその場から逃げ出す。多分先ほどの黒装束がやったのだろう。こんな場所には居たくない。いつ、自分がああなるのか分からないのだ。


 しかし、逃げる僕の首根っこを掴む何か。


「や、止めろ!離せ~!!」


 ジタバタと暴れるも一向に離してくれない。

 それどころか、僕をひょいっと持ち上げてしまった。


「えっ?」


 持ち上げられたまま後ろに振り向くと、そこには例の黒い馬が、僕の着物の首根っこを咥えていた。

 そして、僕を離しブルルッと鳴く。まるで落ち着けと言わんばかりである。


「……あ! もしかしてお前はあの時の!?」


 今気付いた。この黒い馬は、僕がお城から日下部の屋敷に逃げた際に乗ってきた馬だ。

 すると、それが正しかったのか、再びブルルッと鳴く。

 人の言うことが解るのか?


「っと、こうしちゃいられない!」


 アカリが大変なのだ。しかし、どうしたら? するとまた、ブルルッと鳴く黒馬。

 見ると、黒馬の背には鞍と呼ばれる、馬に乗るための道具が装着されていた。

 もしかすると、この馬に乗って、アカリ達の屋敷に行く予定だったのかもしれない。

 でも今は護衛も殺されてしまって居ない。馬に乗れるだろうアカリも、毒にやられて瀕死の状態だ。


「僕が乗るしかないのか?!」


 馬なんて乗った事すら無い。乗り方すら分からない。

 でも、僕がやらなければ、アカリが死んでしまう!


「僕がやるしか、ない!」


 決心し、馬房の棒柵を外す。黒馬も僕の決心を認める様に嘶いた。急いで黒馬を馬房から出し、アカリの元に向かう。

 アカリの容態は先程と変わらず、ぐったりとしていた。また熱が上がったか?

 アカリを抱き上げ、馬の背に何とか乗せる。

 そして、自分も手綱を使い、苦戦しながらもどうにか馬の背に乗ることが出来た。


「確かここに足を入れて……」


 (あぶみ)やら手綱やらを確認した後、黒馬に向かって、


「ごめん、僕は馬に乗った事が無い。だから、お前だけが頼りだ。僕はアカリを死なせたくないし、死なせない。だから、僕に力を貸してくれ!頼む……!」


 僕は何も出来ない。馬にお願いする事しか出来ない。それでも、アカリだけは助けたい。だから……。


「——頼むっ!!」


 馬の首に抱き付く。

 すると、通じたのか、ヒヒーンと大きく嘶いたと思うと、黒馬は走り出した。


「わわっ!?」


 振り落とされない様、手綱をアカリに巻き付け、自分は馬の首に、アカリの上から覆い被さるように抱き付く。

 それでも、精一杯力を込めないと振り落とされる。

 必死に馬の首に捕まりながら、アカリ達の屋敷までこの馬が行ってくれる事を願った。



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