表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/236

襲撃 2

 

 △ アカリ視点   △



 ユウと別れ、急ぎ屋敷の玄関に向かう。その間も、日下部家の私兵や、東夷を担当する第二軍の侍とすれ違う。皆、それぞれ武器を持ち、戦いに備えていた。


 玄関に向かうまでの間、色々と考える。


(さっき、ユウにも説明したけど、こんなにも早く皇軍がこの屋敷に来るなんて、やはりあの脱走は罠だったんだわ)


 あの脱走に関しては、姉様の作戦だった。あの城の中で、ユウが連れて行かれるとしたら、あの牢屋しか無い。

 そこで、あの牢屋の配膳を担当している女中を調べ、交渉した。交渉と言っても、こちらがお願いすれば大抵の事は通るのだけども。

 案の定、女中は私達の言うことを聞いてくれた。中の様子、中に居る人数、食事の配膳の仕方や時間など。その中で、牢屋の中に居る人数について訪ねた時、姉様の様子が少し変だったのは何だったのだろうか。

 とにかく、事前に調べ、そして無事にユウを脱走させる事に成功した。しかし、簡単に事が運んだ事に、幾ばくかの疑念はあった。が、私と姉様が居ればこんなもんなのだろうと思ってもいた。


(そんな油断が、こんな形で厄介事になるなんてね)


「————アカリさん!」


 そんな考え事をしていたからか、知らず玄関に到着した私に、姉様が声を掛ける。姉様の元に行って、状況を確認する。


「姉様、どうですか?」

「私の見た限り、あれは皇軍の二番隊で間違いありません」

「……そうですか」


 この国の軍は三部隊あり、それぞれが皇軍、東夷軍、西夷軍を担当している。

 そして、各軍も三つの隊に分かれていた。これはお爺様である先代のお殿様が組織化した結果だ。

 なんでも隊を分けた方が切磋琢磨するし、不正も起こりづらいと当時の宰相に助言されたかららしい。その助言が功を奏したのか、各軍の能力は向上し、たまに起こる隣国との争いごとにも連戦連勝しているとか。その結果、今では隣国が攻め込んでくる事も無く、平和な時が続いている。


 閑話休題。


 その皇軍の中でも、最近良い噂を聞かないのが、今この屋敷を包囲している二番隊だ。

 町の警備を担当している皇軍だが、こと二番隊においては、町の代官と結託してやりたい放題の町や村もあるとか。賄賂は当たり前で、町で見かけた若い女性を連れ回す、気に入らない人が居れば難癖を付けて牢へと入れる等、枚挙に暇がない。

 当然、そんな噂話が聞こえる度に、違う隊の侍が調査に行くのだが、なぜか問題無かったと報告されていた。おそらくは、買収されたに違いないと私は思っている。

 そんな曰くのある皇軍の二番隊が、わざわざこの日下部家の屋敷まで来たのだ。これは間違い無く、ここにユウが居るという情報を、確実に掴んでいると思った方が良い。


「————まずは状況を確認しましょう。何故皇軍がここに来たのかを確かめなくてはいけません。もしかするとユウさんとは別件かも知れませんしね」


 そう言うと姉様は、屋敷の正門の横にある、勝手口から外に出る。それに私も続く。

 夜の暗闇を裂く様に、皇軍の物と思われる松明や提灯が何本も掲げられ、周囲は昼間の様な明るさだ。

 そんな門の外はまさに一触即発の状態だった。

 切り付けられたであろう侍が、血の流れる肩口を押さえて正門に蹲っており、その周りを抜刀した日下部家の侍が守る様に囲んでいた。

 対して、皇軍側も下馬した侍が抜刀して対峙しており、何かの切っ掛けさえあれば交戦が始まってもおかしくは無い。


「————双方、刀を収めなさい!」


 そこに姉様の諫める声が響き渡る。その声に、抜刀していた侍達は刀を下ろすと、姉様に注目した。


「私は橘家が長女、ユキネです。この騒動は何ですか、皇軍! 軍旗を見た所、二番隊所属の者みたいですが、責任者はどなたです! 説明なさい!」


 普段怒った所を見せない姉様の、見た事の無い迫力に、双方の侍達は委縮する。そこに、


「————これはこれはユキネ様。お初にお目に掛かります」


 とても侍に見えない、でっぷりと醜い体をした、歳の頃四十前後の黒髪の男が、乗馬したまま人垣から姿を現す。そして、姉様の前まで来ると、近くにいた侍の手を借りて下馬をし、姉様の前に立つ。


「————どなたです? 名乗りなさい」

「私は皇軍所属、二番隊隊長の金本アリフミと申します。以後お見知りおきを」


 そう言って軽く頭を下げるが、私は気付いていた。

 頭を下げる際、まるでねめる様に姉様の体を見ていた事に。一体姉様を何だと思っているのか!


「————では金本とやら。この騒動は一体何事ですか? ここが東夷将軍の日下部家と知っての事ですか?」


 姉様は厳しい顔で、金本と名乗った侍を睨み付ける。しかし、何食わぬ顔をした金本は、頭をボリボリと掻きながら、


「えぇ。なんでもこの屋敷に、先日そちらのアカリ様を拉致、洗脳した下手人が、城の地下牢を抜け出しこの屋敷に身を隠していると、密告がありましてね」


 と薄ら笑いを浮かべる。あの顔は、ここにユウが居ると確信している顔だ。やはり、バレている様ね……。


「……それは不思議ですね。今、私共もこの屋敷にご厄介になっているのですが、そんな人は見た事がありません」

「左様ですか? こりゃ無駄足だったかなぁ」

「ええ。ですから一刻も早くこの場から立ち去りなさい。今なら、私の言にて穏便に事を済ませられますから」


 言って、くるりと金本に背を向け、屋敷内へと歩き出そうとした時、


「————ですが、なんでもその下手人。一人で地下牢から脱け出した訳では無いみたいで。何でも協力者が居たとか。密告によりますと、その協力者はユキネ様とアカリ様、お二人と良く似た様な背格好だったそうです」


 と金本が言う。その言葉を聞いた姉様は、ゆっくりと金本の方へと向く。


「————で?」

「はい、その下手人の牢はもちろん、隣の牢に居た奴も居なくなっていたので、確証は御座いません。ですが、ここで私達の邪魔立てをするってぇ事になると、その密告の信憑性が増すって事になりませんかねぇ?」

「……分かりました」


 すると姉様は、正門の前に居た日下部家の者に声を掛けた。


「私達の事で、こんな事になってしまい、本当に済みません」

「何を仰いますか、ユキネ様! 大丈夫、奴らが血眼になった所で下手人どころか、ねずみ一匹見つかりませんよ!」

「そうだそうだ!」「おい、とっとと検分でもなんでもしろってんだ!」

「皆さん……」


 姉様は口元に手を当てて、頭を下げる。


「……ちっ。おい! とっとと始めるぞ!」


 それを見て気分を害したのか、金本は部下を引き連れ、開いた正門から屋敷内に入っていく。

 途中、私の事を見つけた金本は、私にも舐め回す様な視線を向け、ニヤッと笑った。

 体がブルリと震える。あ~、気持ち悪い!なんなのよ、あいつ!


(っと、そんな事よりも、このままではユウが見つかっちゃうわ)


 もし見つかってしまえば、再びユウが牢に容れられてしまうし、私達や日下部家も関係を疑われてしまう。そうなってはカズヤの謀反を止める所では無い。


(今のうちにカズヤを屋敷から逃がさないと!)


 なるべく見つからない様にしながら、ユウの居る部屋へと足を向けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ