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襲撃

 

 ☆



 ————夢を見ていた————。

 それが夢だと分かる位、何もかもが今と違う世界。

 木とレンガで出来た家。見た事も無い野菜が並ぶ市場。広場にある噴水。どこかの村だろうか?

 そこには僕が居て、誰かと一緒に歩いていた。

 それは一体誰なのか。顔がはっきりとしていない。声も聞こえない。

 ただ、それがとても大切だと分かる。何よりも。誰よりも。


 突然、村の家に火が放たれる。あっと言う間に轟々と燃え盛る家。そして人。

 そこにいる僕は何も出来ずオロオロとするばかり。自分の事なのに、とても腹立たしく感じる。

 お前は何をやっているんだ!と叱咤したくなる。

 おもむろに夢の中の僕が手の平を見つめる。

 そこには、いつ付いたのか分からない程の大量の血。

 すぐ横を見ると大切だったナニかが倒れていた。口から、鼻から、耳から大量の血を流して。

 僕は絶叫する。大切だった誰かを救えなかった自分を許せなかった。

 そこで暗転する。

 それは夢だと分かる。しかし、本当にそれは夢のまま終わった事だったのだろうか……?



 ☆



「————ん?」


 汗だくになっていた僕は、その不快感で目を覚ます。一体なんの夢を見ていたら、こんなになるんだろう。自分の事のくせに全く分からない。それが何故かとても不安に感じた。


「……トイレでも行くか」


 目を覚ましたついでにトイレに行く。この国ではトイレとは言わず、厠というらしいが、なぜか僕はトイレって言う方がしっくりきていた。

 部屋はまだ暗い。何時だか分からないけれど、早めに用を足して、すぐにまた寝た方が良さそうだ。


(シンイチさんが帰って来た時に寝ていたら、アカリに怒られそうだしなぁ)


 そんな事を考えながら部屋を出て、トイレに向かう。廊下には行灯が灯されており、廊下を揺れる様に照らしていた。

 まだ冬寒いこの時期である。白い息を吐きながら、トイレで用を足す。


 カンカンカン!!


 すると突然、けたたましい鐘の音が屋敷に響く!続いて、


「敵襲! 敵襲!!」


 誰かが叫ぶ。


(敵襲!? こんな町中に!? 一体誰がっ!?)


 急いで部屋に戻る。借りていた寝間着を脱ぎ捨て、牢から出る際に着ていた着物に着替える。

 すると、廊下をバタバタと走る音が聞こえたかと思うと、部屋の襖がバン!っと開く。


「ユウ、起きてる!? 敵よ!」


 アカリだった。手には刀を持っており、着物の袖には紐が巻かれていて、袖が邪魔にならない様になっていた。

 しかし、


「って、何であなたはいつも裸なのよ~~!!」


 そんな事を言われても、勝手に開けたのはそっちだし、まだ着物に慣れていないから、着替えるのにも時間が掛かってしまうのはしょうがないじゃないか!


「勝手に開けといて文句言うなよ!」


 すでに裸を見られているので今さら感は否めないが、恥ずかしいものは恥ずかしい。


「まったく、あなたはほんとにトロいんだから」


 ブツブツと文句を言うアカリを尻目に、手早く着替える。


「で、敵襲って!?」

「そう!敵がこの屋敷を包囲しているの。そいつらが屋敷の正門にいた門番を切りつけたわ」

「切りつけた!?その敵って一体!?」


 そこでアカリが一つ息を飲む。何だ?そんなに不味い相手なのか?


「……軍よ」

「え?」

「皇軍よ」

「……え? 何で皇軍が? 見間違いじゃないのか? 皇軍って味方だろう? いくら配属が違うとはいえ、味方をいきなり切り付けるなんて……」

「私が皇軍の軍旗を見間違えるなんて、あり得ないわ。今、この屋敷を取り囲んでいるのは、間違いなく皇軍よ」


 昨日のアカリ達の話だと、皇軍はお殿様を始めとする、国の重要人物の護衛や、各町の警備を主に行っている組織だと聞いている。その皇軍が何故この屋敷を包囲しているんだ?

 ————待てよ、警備?


「……あっ」

「そう、バレてしまったの。あなたが牢に居ない事が。そして、あなたがこの屋敷に居ることが、ね」


 そういう事だ。国の警備が任務の皇軍が来たということは。


「……おかしいとは思ったのよ。いくら姉様の作戦とはいえ、簡単に城から出れた事が。————たぶん、わざと私達を逃がしたのね」

「これからどうすれば!?」

「落ち着きなさい。取り敢えず私達が外に出て話をするわ。あなたは何処かに身を隠しておいて」


 さすがは一国のお姫様だと思わせる程に、アカリは落ち着いていた。それに比べて僕は・・・。


「————そうだ、あなたにこれを渡すんだった」


 そう言ってアカリは持っていた物を僕に手渡す。それは、僕が持っていた木の杖だった。


「どうやってこれを?」

「お城から出る際にね」

「そうか。有難う、助かる」


 渡された杖をギュッと握る。それだけで、何故かやる気が湧いてきた。


「僕にも何か出来ないか?」


 そのせいか、そんな事を口にするが、


「無いわ。あなたを捕まえに来ているのよ。だから、今は自分自身の心配をしてなさい」


 素っ気無い態度で言うアカリに、少し腹が立つ。だけど、この騒動は僕が原因なのだ。ここは大人しく、アカリの言うとおりにしよう。


「……分かった。アカリも気を付けてな」

「……ごめんなさい。私もどうするのが最善なのか判断出来ないのよ。……あなたには負担を掛けるわね」

「いや、こっちこそゴメンな。俺のせいで」

「別に、あなたは何もしていないでしょ。これも全てカズヤのせいだわ」


 そこでフッと口元を綻ばせるアカリ。僕もそれに倣い、口元を緩めて、


「そうだな。カズヤにはキチンとお礼をしなくちゃな」

「ええ、そうね」

「じゃあ、隠れるよ。シンイチさんが帰って来るまでだしな」

「ええ、気を付けて」

「アカリも」


 そうして、アカリは部屋を出ていった。

 カンカンと警鐘が鳴らされ、侍たちがドタドタと廊下を走り回る中、僕はどこに身を隠そうかと考えた。



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