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前夜

 

 △ ???視点   △



「では、手筈通りに……」


 覆面の男は、言うなりフッと姿を消す。さすがは手練れの隠密だ。もうその気配は感じない。


「ふんっ」


 しかし、面白くないものだ。

 作戦とはいえ、やつらをおめおめ逃がしてしまったのだから。

 男の方は拷問を掛けたかった。なのに、あのバカ殿が拷問を含む一切の尋問を禁止してしまったのだ。せっかく合法的に楽しめる事が出来たというのに。泣き、叫び、糞尿を垂れ流しながら、許しを請うその姿を楽しめたというのに。


(……まぁいい。それはいずれこの作戦が成功すれば、後で幾らでも楽しめる)


 しかも、稀代の美女二人も付いて来るのだ。その事を考えると、自然と顔がにやけてしまう。悪い癖だ。

 今までも、町で誘拐した女や屋敷で奉公していた女に罪を掛け、拷問して楽しんできたが、今回のはとびっきりの獲物だ。この国の姫殿下なのだからな。

 あの白い肌を、容姿を好きなだけ蹂躙出来る。泣き叫び、許しを請う姿を拝めるのだ!

 想像するだけで愉悦のあまり震えてくる。早く、一刻も早くこの手で!


「×××様」


 そんな時、部屋の外から声が掛かる。


「何用ですか?」

「先日の件でお父上様がお呼びになられております」


 ちっ、また詰まらぬ詮索だろうな……。


「分かりました」


 承諾し、立ち上がる。

 何を聞かれても良いように、頭の中で状況に合わせた答えを考えながら、部屋を出る。

 こんな事で、躓いてはいられないのだ。全てはあの日、あの時に。


(絶対あいつらも同じ目に合わせてやる!でなければ、僕はっ!!)


 頭を覆う黒い靄が、どす黒い感情が沸々と湧き上がり、僕の行動が正しいと支持する様に蠢く。


(そうだ!僕は正しいのだ!間違っているのは他のやつらだ!!)


 これから起こるであろう祭りが待ち遠しい。祭りの後に気付くのだ!僕の方が正しかったのだと!!


 逸る気持ちを抑えながら、呼ばれた部屋へと足を運んだ。



 △  ユウ視点   △



 僕達が、この屋敷に来てから三日が経った。

 この屋敷にお世話になりながら、僕達三人はシンイチさんが帰ってきた後、どう動くのか作戦を考えていた。



「————だから! まずはカズヤにガツンと一発お見舞いしてやるのよ!」


 結婚した時に与えられたという、日下部の屋敷内にあるユキネさんの部屋で、今日も朝からカズヤの謀略を公にする為の作戦を練っている。ふと障子戸を見ると、すでに陽の光は橙の柔らかいものになっていた。冬だというこの時期は日が短い。もうすぐ薄闇が訪れるだろう。


 お姫様らしくない事を、平然と言ってのけるアカリ。今は、謀反の罪に問われたカズヤに対してどうするのかを議論していた。


「それは幾らなんでも野蛮すぎるだろ……」

「あなたは知らないからそんな事が言えるんだわ! 私があの屋敷でどんな目に遭わされていたのかを知らないから!」


 そこでアカリは俯き、


「……悔しかった。牢に閉じ込められ、カズヤに何度も謀反に手を貸せと言われる屈辱。大好きなこの国に危険が迫っているというのに、何も出来ない歯痒さ。あれに比べれば、拳の一発や十発なんて可愛いものよ!」


 よほど悔しかったのだろう、当時を思い返したのか、声には湿り気が含まれていた。


「アカリ……」

「————だから、私は絶対にカズヤを許さない。自分がとんでも無い事を計画していた事を、その身を持って判らせてやるんだから!」


 決して女の子が発していい言葉では無いが、アカリらしい言葉で己の考えを、想いを僕達に伝えてくる。たしかに、普通に考えれば、謀反、国家転覆なんて計画しただけでも重罪なのだ。それがアカリに殴られるだけで済むのなら、軽い罰と言えるのかも知れないな。そんなバカみたいな事を考えていると、部屋の外の廊下から声を掛けられる。

 応対したユキネさんが、障子戸を開け部屋から出ていく。冬の冷たい風がスッと部屋に入り込んだ。

 しばらくすると部屋へと戻ってきたユキネさんのその顔には、僕が見ても分かるくらい、嬉しさが溢れていた。


「姉様?」


 アカリも気付いたのだろう。ユキネさんに声を掛ける。すると、ユキネさんは頬に片手を添えて、


「今、連絡が有って、明日の朝にシンイチ様が戻られるそうよ」


 まるで何年もあっていない恋人に会えるという位、ユキネさんの声は喜びに満ちていた。


 ————東夷将軍で、ユキネさんの旦那さんであるシンイチさんが帰ってくる————。


 それは、再起を掛ける僕達にとって、いよいよ動き出す時が来たという事でもあった。

 アカリを見ると、アカリも僕を見ていた。そして、強く一つ頷く。明日が勝負だ。この国にとっても、そして僕達にとっても。


「さぁ、そういう事ですから、今日は早めに休みましょう。明日から大変になりますから」


 ユキネさんの提案に賛成した僕達は、早めの夕食を摂り、早々に布団に入るのだった。


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