牢屋 2
この牢屋の中に容れられてから、どの位経ったのだろうか。窓も無いこの薄暗い場所では、時間が全く分からない。
グウ~。
そんな時は腹時計だと言わんばかりのタイミングで、お腹が鳴った。朝ご飯を食べたきり、何も口にしていないからしょうがない。お腹が鳴ったという事は、今はお昼過ぎ位だろうか。
そんな事を考えていると、不意に階段に明かりが見えた。誰かが降りてくるみたいだ。ガチャガチャという音も聞こえてくる。
「お、飯の時間か」
隣のトラさんが起き上がる。
暗闇に目が慣れ過ぎたのか、この薄暗さでも隣の牢屋の様子が見える様になってきていた。その慣れた目で改めてトラさんを見た。
髪の色までは分からないが伸ばし放題の髪が背中まで届き、ボサボサの前髪が目元を隠していた。
口元にはこちらも伸び放題の髭が生えており、不審極まりない風貌だ。
そんな風貌のせいで、若いのか老いているのか年齢が分からない。ただ、声の感じだと若いと思うんだけど。
ただ、身体つきは違う。ボロボロの着物から時折見えるその体はとても鍛えられた体つきだ。
ただ、右胸からお腹に掛けて大きな傷があった。昔何かあったのだろうか。
そのトラさんが言うには、ここは牢屋というらしく、僕の知っている檻ってのは、金属の柵で出来ている物の事を言うそうだ。
閑話休題。
トラさんが言う様に、どうやら食事の時間らしかった。それが遅い昼食なのか早い夕飯なのかは分からないけど。
降りて来たのは二人だった。頭や顔をスッポリと覆い隠す布を身に着けている。背丈からして女の人か?
二人の女性はそれぞれお盆を持っていて、その上に乗った食器が歩くたびにガチャガチャと鳴っていた。
後ろの女性が、手前にあるトラさんの牢の前に座る。そして木の柵の一部を押す。
すると、ちょうどお盆が通る位の広さの柵が牢側へと開き、そこにお盆を通した。上手い事出来ているなぁ。
「お、ありがてぇ」
お盆を受け取ったトラさんは、頂きますと手を合わせると、ご飯をかっ込む。そして、僕の前にもお盆を出された。手を伸ばしそれを受取る。お盆の上にはご飯とみそ汁、それと野菜の漬物が置かれている。
「いただきます」
アカリ達に教わった食事の前の作法を行い、ご飯を持ち上げる。
ハラリ。
「ん?」
なにやら紙切れが付いていたようだ。何だろう?
紙を拾い、折られた部分を開くと文字が書いてあった。
<あとで必ず助けに行くから、文句言わずに待っている事>
たぶんアカリの字なのだろう、手紙にはそう書かれていた。
「ん、どうした坊主?」
僕の様子を気にしたトラさんが聞いてきた。
「いえ、ちょっとご飯が詰まりました」
そう誤魔化し、みそ汁を飲む。
「ははっ!慌てなくても飯は逃げねぇよ」
そう笑い、食事を続けるトラさん。「これで酒でもあればなぁ」と、ブツクサ言っている。牢でお酒なんか出るのか?
僕も苦笑いで相槌を打ち、手紙をそっと服のポケットにしまう。
「……なんだ、大丈夫なんじゃないか」
助けに来てくれるという事よりも、アカリが立ち直った事の方が嬉しく思ってしまった。
その事が、何だか落ち着かない気分にさせ、食事もそこそこに僕はゴロンと横になった。