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牢屋

 

「あの裏切り者~~~!」



 天守の大広間から連行された僕は、途中で目隠しをされ両腕を抱きかかえられながら、城内を歩かされた。

 そして幾度か階段らしき場所を降り、暫く歩かされた後目隠しを外された僕の目の前には、頑丈な木で出来た檻があった。


「入れ」


 途中で変わったのだろう、黒装束の人では無くお城の警備をしていた侍らしき人が、中に入る様に促す。


「僕、何もしていないんですけど?」


 最後の抵抗を試みたが、


「入れ」


 睨み付けられる様に再度言われ、しぶしぶ中へと入った。

 檻の中には、草で編まれたボロボロの敷物が申し訳程度に敷かれ、部屋の隅には少し大きめの茶色い壺が一つ置かれていた。灯りは檻の柵に設置されている燭台だけで、薄暗い。

 僕が中に入ると、連行してきた男が入り口に(かんぬき)を掛けて、さらに鍵を掛ける。

 檻の柵に掴まりながら、


「あのー、何時になったらここから出れますか?」


 と連行してきた人に声を掛けたが、何も答えず階段を上がってしまった。


「はぁ~……」


 深いため息を吐く。一体、僕が何をしたというのだろうか。

 僕はただの付き添いみたいなものだったはずだ。それが、知らない内にみるみる状況が変わり、そして何故か今回の事件の首謀者にまでなってしまっていた。先手を打っていたカズヤの作戦にまんまと引っ掛かったという訳だ。


(カズヤとかいうやつ、散々僕の事を怪しい奴呼ばわりしていたな)


 あいつの嘲笑う顔を思い出すと無性に腹が立つ。


 それにアカリもアカリだ。

 僕が無実の罪で連行される時に助けを求めたって言うのに、何も返事してくれないなんて。

 確かに悔しかったのだろう。僕が声を掛けた時も俯いていた。

 でも、抗議してくれてもいいんじゃないか。一声掛けてくれてもいいんじゃないか。

 すぐ助けるからねとか、僕は関係無いとか。そうやって、なんか色々と考えていたらムカムカして、ついには檻の中で叫んでしまった。別にアカリが裏切った訳では無いのだが、何故かそんな言葉が口に出てしまった。


 すると、


「————おい、新入り。静かにしろい!」


 人の声がした。

 薄暗いので良く見えなかったが、どうやら僕の隣にも同じ様な檻があるみたいだ。

 隣の檻は木の柵を挟んでいるだけなので、中の様子は見える。

 目を凝らしこの暗闇に慣れた頃、その隣の檻の中にも人が居る事が分かった。

 慣れたとはいえ、やはり薄暗いせいでその相貌は分からないが、声の様子から男の人だと思う。

 くたびれた着物を着ている所から、長い事この檻の中に入れられているのだろう。

 僕は返事もせず、隣に居る男の様子を凝視していると再び、


「おい、何か言えや、新入り」


 声を掛けられた。

 うーん、何かって言われてもなぁ。

 取り敢えず、さっき叫んでしまった事を謝るか。

 僕は声の方へと向き、謝る。


「……えーっと、さっきは急に叫んで済みません」

「なぁに、構わねえよ。ところで坊主、何やらかしたんだ?」


 男の人は何処か愉快げに言う。


「別に何も」

「そんなこたぁねぇだろ。何かやらかしたから、ここに入れられたんだろ?」


 そんな事言われてもなぁ。

 ほんとに何もしていないのだ。僕だってなんでこんな事になっているのか分からないのだ。

 その事を考えている内に、また怒りが込み上げてきた。

 僕が黙っていると、隣の男の人が、


「なんだ坊主。何があったのか知らないが、話せばスッキリするかも知れんぞ?」


 そう言われ、僕はこの顔もろくに見えない隣の檻の人に、ここに入れられた経緯を話した。


「……そうか、そんな事がな……」


 隣の檻の人は、そう言ったきり黙った。

 僕は誰かに話した事で少しスッキリした。誰かに話すっていうのは良いことなのかも知れないな。物事を客観的に見れる。


「————して坊主。これからどうしたい?」


 隣の檻の人が尋ねてくる。

 どうもこうも、まずはここから出て、アカリ達に会わなければならないだろう。

 隣の檻の人に話している時に思ったのだが、アカリ達もとても悔しかったはずだ。

 自分達が正しいのに、誰にも信じてもらえず、尚且つ僕を牢屋に入れられてしまったのだから。

 それに、このままだと確実にカズヤ達による謀反が起こされてしまう。そうなってはアカリやユキネさんが大好きな、この国の住人にも被害が及んでしまうかもしれないのだ。

 それにこのままここに居ては、何も出来ない所か、処罰されかねない。なんとしてでもここから出なくては。


「まずはここから出たいです。そして、アカリ達と合流して、もう一度お殿様に訴えてカズヤの謀反を止めたい」


 別にこの国を好きになったわけでは無い。この国に来てそんなに経っていないから無理もない事なんだけど。

 それでも、この国に争い事は起こって欲しくはない。

 記憶も無い、こんな僕を受け入れてくれたアカリやユキネさんに、悲しい思いをさせたくは無いのだ。


「そうか。しかしな、ここはそう簡単に出られる所じゃねぇんだ。だからまずは機会を待つこった」


 そう言ったきり、隣の人は黙ってしまったので、今度は僕が質問してみた。


「ちなみにあなたは何故ここに?」


 だが、


「んー、何だっけかな? 忘れちまったよ」


 とはぐらかされてしまった。

 その後も質問したが、分かった事と言えばトラさんという名前と酒好きってことだけだった。



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