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いざ、お城へ

 

  屋敷からお城に向かう僕たちは、用意された駕籠(かご)と呼ばれる乗り物?に乗る様に言われた。

 ユキネさんとアカリの駕籠は引き戸の付いたしっかりとした造りになっているが、僕の乗る駕籠は一般の人も良く使うらしい、木と草で造られた物だ。草で造られた(すだれ)といわれる草木地で外が見えないのは少し不安になる。逆に外からも中が見えないので、逆に安心なのかな?

 それを男の人二人が両側から担いで移動するのだが、正直歩いた方が早いんじゃないかなと思ってしまった。歩かなくて楽なんだけどさ。


 ただ、やはり周りが見えない事が不安になってきた僕は、そっと簾を上げてみた。すると、僕達の乗る駕籠の先頭を、立派な馬に乗った男の人が歩き、お城へと向かう。列の両脇や後ろにも警護の人が馬に乗って帯同している。あの人達がアカリが憧れている侍という人達なのだろうか?


 そして、町中を見てみると、着物を着た町の人達が、荷車を押したり、桶に入った水を道に撒いたり、木箱を肩に担いでどこかに急いでいたりと、活気に満ちていた。その街並みは、アカリのお屋敷の様に大きくは無いが、二階建ての木造住宅が僕達の行く大通りの両脇に建ち並んでいた。記憶を辿るまでも無く、僕の記憶に無い建物だ。その建物はお店も兼ねているのか、一階部分の店先では、開店の準備をしている女の人が、忙しそうに通りに面した棚に商品を並べている。


 そんな大通りを移動する道中、ユキネさんやアカリの乗った駕籠に向けて「ユキネ様~」「アカリ様~」と声援が飛んでいた。二人とも人気者なんだろうな。それにしても、何で中が見えないのに、誰が乗っているって判るんだろ? 何か、目印みたいなのがあるのかな? それよりも、たかだかお城までの移動がこんな大げさになるなんて思いもよらなかった。

 しかも、この駕籠という乗り物。上下左右に揺さぶられるから乗り心地としてはあまり良くなく、僕は酔いそうになってしまった。


 そうして、乗り物酔いというべきものと戦っている内に、目的地であるお城に到着したのか、揺れは収まった。

 地面に置かれる感覚の後、簾が巻き上げられ、外に出る様促される。促せるまま駕籠の外に出た僕は、目の前に広がる景色に目を奪われた。


「————うわ」


 そこには、冬の朝日に照らされて白く輝く、荘厳な建物がそびえ立っていた。アカリ達の屋敷と同じ造りと似ているが、その高さ・大きさがあまりにも違う。高さは6階くらいだろうか、他の建物とは比べられないほどの高さの建物が中央に鎮座し、その周りに少し低いが同じ様な造りの建物が並び立っている。

 その建物を囲む様に幾重にも塀が築かれ、その塀と塀の間には、木で出来た大きな門が見える。

 今立っているここから、目の前の建物に向かう道の途中には、この敷地全体を囲い込む様に用水路が掘られていて、用水路に張られた水がキラキラと朝の光を反射させていた。


 僕が茫然と眺めていると、いつの間にか駕籠から出たアカリが僕の隣に立ち、


「どう?これが私たちの国の象徴でもある、日乃出城よ」


 と、腰に手を当てて誇るように話す。


「良い?何も知らないユウに説明してあげるわ。まず、あの水の張ってある所は堀って言って、敵の進行を防ぐ役割があって……」


 と、一つ一つを指差しながら、丁寧に説明してくれる。やっぱりアカリは良い奴なのだ。そのアカリの説明を聞く傍ら、ふと横を見ると、ユキネさんが(なび)く髪を押さえながら、こちらを見てニコニコしていた。その様子に僕は少し照れ臭くなってしまう。


 そんな僕の様子に気付いたアカリが「ちょっと、ちゃんと聞いてるの!?」と僕の耳たぶを引っ張る。


「いててっ、ちゃんと聞いてるよ!」

「どうかしら? ユウの事だからお姉様を見て鼻の下でも伸ばしていたんじゃないの?」


 フンだとそっぽを見るアカリ。


「ユキネさんを見てたって訳じゃないよ。それにしても分からない事を説明してくれるアカリはやっぱ良い奴だよな」


 そう言ってありがとうと頭を下げると、


「……フン、分かればいいのよ。良い?今度はちゃんと聞いているのよ?」


 そう言って、また説明を再開するアカリ。しかし照れているのかその顔はやはり真っ赤になっている。そうして暫くアカリの説明を聞いていると、不意に視線を感じた。余りキョロキョロすると、またアカリに怒られかねないので、話に合わせながら見付からない程度に周囲を見る。

 すると、このお城に勤めている人だろうか、前を歩く男の人が、まるで僕達に、いや僕に射るような視線を向けてくる。その目にはあからさまな敵意が含まれていた。その男の人だけではない。一度気付いてしまえば、あらゆる方角から、強弱の差こそあれ、同じ様な敵意が感じられた。

 僕は生唾を飲み込む。持ってきた木の杖を無意識にギュッと強く握る。一体僕が何をしたというのだろうか?


「……であの天守の瓦屋根に載っている、動物みたいなのがしゃちほこって言ってね。なんと全て金で出来ているのよ!」


 どう、分かった?と一通りの説明を終えたアカリに、僕は胸中にある不安を悟られまいと笑顔を浮かべて、教えてくれた事に対してお礼を言った。


「また分からない事があったら、いつでも聞くのよ?」


 そんな事を口にしているが、僕が聞く前に説明してくれるこの優しいお姫様の後に続いて、僕は堀に掛けられた橋を渡り、お城の中に入るのだった。



 ☆



 城門をくぐり、中に入っても同じ様に、いや、先ほどよりも如実に僕に対する敵意を感じる様になっていた。


「……さっきから何なの? 何か嫌な感じ……」


 アカリも何かを感じ取ったのか、辺りを見回す。

 しかし、すれ違う人達はアカリや後ろを歩くユキネさんには頭を下げて挨拶をしていく。なので、二人に対しての敵意では無いのだろう。やはり僕が原因か。


(なんか嫌な予感もするし、外で待っていた方が良いよな)


 今回のアカリの報告に関しては、僕はそこまで重要では無いのだ。一緒に居なくてもいいだろう。さすがにこの状態でさらに城内へ行きたいと思わないので、先を歩くアカリに一声掛け、この城から出て外で待っていれば良いか。


 そう思い、アカリに声を掛けるタイミングを伺いながら進むと、ちょっとした広場に出た。

 そこに立った僕は眼前に広がる景色に圧倒される。

 先ほど見えていた天守と呼ばれる荘厳な建物と、傍に建つ少し低いが同じく立派な建物が大きな石を積み上げた土台の上にどっしりを建っていた。

 その天守の滲みの無い真っ白な姿に、僕は大教会の様な神々しささえ感じてしまったほどだ。


「……どう?」 アカリが隣に立ち、感想を求める。

「……凄い……」 それしか言えない。

「……でしょう」


 しかし、それだけアカリには全て伝わったのだろう。満足気に頷いた。


「それじゃあ、早速行くわよ」


 そう言って、数人の男の人の後に続くアカリ。

 この城内に入ってから、駕籠に乗っていた時とは違う男の人が護衛と称して付き添っていた。

 着物の上にもう一枚お揃いの服、陣羽織というらしい、を着ており、その腰には鞘に納められた刀という剣を大小二本差している。

 前を歩く二人の男の人に対して、アカリは羨望の眼差しを送っていた。 それを不思議そうに見ていた僕に、そっとユキネさんが近付いてきて、


「あの二人はお侍様なんですよ」と説明してくれた。


 なるほど。アカリが憧れている人達が目の前に居るのか。じゃあ、ああなるのも頷けるな。

 一人納得している僕の耳元にユキネさんがそっと、


「だから、やきもちを焼かなくても良いんですのよ?」と、クスクス笑う。

(ユキネさん、こんな状況なのに楽しんでいるな……)


 べつにやきもちなんかじゃ無いですよとユキネさんに話ながら、歩き始まる。だが、そこでふと気付いた。

 先ほどまでここから逃げたいと思っていた気持ちが、敵の本拠地に乗り込んでやるといった攻めの姿勢に変化していた事に。何故そうなったのかは分からない。僕自身戸惑っていた。だが、それで良いと思う。


(僕は別に何もしていないんだ。ただの二人の付き添いでここに来ているだけなんだし、僕が逃げる事なんて何も無いんだ。だから、疎まれる様な、警戒される様な視線で見られる筋合いは無いんだし、堂々としていれば良いんだよな!)


 そんな気概を胸に、僕は先を行くアカリに追い付こうと歩みを速めた。



 天守に近づくにつれ、その姿形の美しさ、厳かさが立ち現れる。

 石垣と呼ばれる石の土台に使われている大きな石一つとっても、僕より大きい。そんな大きな石をどうやって集め、どう積み上げたのか。

 そんな大きな石を計算と経験によって綺麗な傾斜に積み上げ、表面には無駄な凹凸が一つも無い。まさに職人技。一体どれほどの時間を掛けたのだろう。


 そして、その上に鎮座する白亜の天守。

 無駄な装飾が一切ない、それが逆にこの場所が不可侵であると如実に物語っている。まさに権力の象徴たる建物だ。


 その天守内部に入る。お城に対して、入り口が小さいのは、何か理由でもあるのかな?

 内部は木組みが剥き出しの、思いの外簡単な造りになっていた。そこかしこに鎧や刀、槍が置かれ、その構造と相まって武骨な印象を与える。途中、哨戒に立つお侍さんが殿は上の大広間に居られますと知らせてくれた。


「有難う御座います」


 お礼を言うアカリ達に続き階段をあがると、上の階も同じ様な造りだが、代わりに窓が四方に付くようになった。上から城下を確認する為だろう。その奥にさらに上に上がる階段が見える。

 この上の階にアカリとユキネさん、それに二人のお父さんで、この国を統べるお殿様が居る部屋らしい。その階段まで向かうと、僕達は階段の下で待たされる。上でも色々と準備があるんだそうだ。


 程なくして、階段に立っていたお侍さんが入室の許可を出す。ユキネさん、アカリの後に続き、自分も上へと上がる。

 その部屋は今までの階の部屋とは造りが違っていた。今まで見た畳部屋をさらに大きくした部屋には、壁一面に漆喰と呼ばれる塗料が塗られ窓から入る陽の光を受け白く光り、部屋の片隅には立派な鎧兜と虎の絵が描かれた屏風が置かれている。

 その大広間には、(かみしも)というらしい青や紺の着物を身に付けた身分の高そうな人達が、階段を上がって来た僕達に注目する中、部屋の中央へと進んで行く。そして、一段上がった所に、白を基調とし、装飾の施された着物を着た男性が、肘置きに体を預け、アカリに似た切れ長な目をこちらに向けていた。

 先に上がった二人が、その男性の前で正座し、頭を下げる。アカリの横に座った僕も二人に習う。


「この人がこの国を統べる殿様にして、私たちのお父様よ」


 頭を下げながら、アカリが小声で教えてくれた。


「————面をあげよ」


 頭上から、低く重い声が顔を上げる様促す。二人に続き顔を上げ、目の前の男性を改めてみた。

 歳の頃は40~50歳位か。黒い髪を短く揃え、部屋に入ってきた時は切れ長に見えた黒い瞳は、今は厳しい目線を僕に向けていた。最初は訝しんでいて、今は咎めている。そんな感じである。はっきり言って怖い。座っているので、背丈までは分からないが、さすが一国一城の主というべきか、がっしりとした体格をしていた。


「お父様。今回は急ぎお伝えしたい事があって参りました」


 ユキネさんが早速本題に入ろうとする。と、お殿様が右手をユキネさんに突きつけ、ユキネさんを制する。


「待ちなさい、ユキネ。この場に素性の知らぬ者がおる。まずは自己紹介という事にせんか?これからお前たちが余に話す内容を、名も知らんこの男が聞いても良いのか判断が付かん」


 それは優しい口調ではあったが、有無を言わせない迫力があった。


「……これは失礼しました」


 そうユキネさんが一言謝り、「ユウさん」と自分の隣に来る様、呼び掛ける。

 急ぎユキネさんの横に正座すると、目の前の殿様の目をしっかりと見ながら自己紹介する。


「僕の名前はユウと言います。訳あって、今はお二人のお世話になっております」

「うむ、ユウと言ったか。そなたは何処から来たのか?」

「……実は一部記憶が無くて、自分がなぜ、どうやってこの国に来たのか分かりません」


 その僕の一言で、周囲が騒めく。「あ、バカ!」とアカリが非難の声を上げるが時すでに遅し。


 周りに居た他の男の人達が、

「不審な奴!」「姫に近づいて何をする気か!?」「敵国の間者じゃないのか!?」


 と喚き立てる。そんな大層な奴に見えるか?

 すると、お殿様がまたもや右手を突き付け、黙らせる。


「記憶が無いとは?」

「……はい、自分の名前や知識などは有るのですが、ここに来る前の記憶を探ろうとすると頭が痛くなってしまうのです。それに、僕の知っている知識や常識では分からない事が多々ありました」


 その言葉でアカリは額に手をやり、あちゃ-とか言っているし、隣のユキネさんはクスクス笑っているし、周りの大人たちはさらに喚き立てるしで、収拾が付かなくなってしまう。

 そんな中、


「皆、静かにせんかぁ!!」


 室内をビリビリと震わす程の大声に、思わず耳を塞ぎそうになってしまった。

 見れば、お殿様の隣に、薄い緑の着物を着た、声の主と思しき白髪のお爺さんがこちらを睨みつけていた。


「ったく、殿の御前であるぞ。……殿、声を荒げてしまった事、お詫び致します」

「相変わらず、爺の声は凄いのぅ。わしまで縮み上がってしまったわ」


 くつくつと笑うお殿様。その後、僕を見て、


「あいや、ユウとやら。事情は分かった。しかし、素性が分からぬというのは……」

「お父様、お待ちを」


 そこで、アカリがお殿様の前まで移動して、


「これからお話する騒動の中で、私を救い出してくれたのがこのユウなのです。その事から、このユウの素性はこの私が保証致します」


 と、アカリが自分の父親であるお殿様に発言する。まさかのアカリからの援護射撃に、驚いてしまった。


(しかし、そうだよな。アカリを流れとは言え救い出したのは僕だしな)


 ひとり納得している僕の横で、今度はユキネさんが額に手を当ててしまう。何故だろう、嫌な予感しかしない。


「……っ……!」


 目の前のお殿様に目をやると、何故かプルプルと震えていた。そして、


「貴様!わしの可愛いアカリに対して何をしよったかぁ!!」


 と顔を真っ赤にして怒る目の前の親バカ。もとい、お殿様。


「なっ!?お父様!私は何もしてません!!」


 と同じく顔を真っ赤にして、見当違いな事を言うアカリ。


「やはり不審だ!」「なんという破廉恥な!」「跡取りを狙い、この国を乗っ取る気か!」


 そして、これ見よがしに先程よりも騒ぎだす周囲の人達。見ると、隣のユキネさんも同じ様に耳を塞ぐ。何で耳を?

 しかし次の瞬間、そうした理由を身を以て知る事となった。どこからか、「~すうぅ」っと息を吸った音が聞こえたかと思った矢先、


「静かにせんかぁーーー!!!」


 と、白髪のお爺さんの怒声が天守に響くのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 43話まで読みました。文章や描写は丁寧で、なろうの中では非常に読みやすい物語だと思いました。 [気になる点] 残念なのは、召喚士の物語を読みたかった私としては期待した内容とあまりにも齟齬が…
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