アカリ 2
脱出した屋敷から、休むこと無く走り続けた僕達。途中からは、視力が回復したアカリが先頭を走っていた。
「……どうやら、追っ手は、居ない、ようね」
後ろを振り向いたアカリがそう言って、走るペースを落とした。そして、路地を曲がった所で止まり、息を整える。辺りはすっかり暗くなっていた。
しかし、道すがらに街灯と呼べるものは無く、他の通行人も居なかった為、辺りはひっそりとしていた。空に浮かぶ月の明かりで何とか周りが見えると言った具合である。肩で息をする僕達。長い距離を全速力で走ってきたので無理も無い。
やがて呼吸も落ち着いた所で、僕はアカリに質問をした。
「で、この後はどうするの?」
すると、アカリは腰に手を当てて、
「私の屋敷に行くわ」 そこで一旦言葉を切り、
「そこには私のお姉様が居るわ。お姉様に今回の件を報告するのよ!」
「今回の件?」
新たな疑問を口にする。
「えぇ。あなたは何故、私が牢に閉じ込められていたと思う?」
質問に質問で返された僕は、顎に手を当て考える。
「う~ん……、暴れるから?」
ドガッ!
「!?痛っ!?」 いきなり足を蹴られた。
「あなた……、ふざけているのかしら?」
アカリの顔は笑っているが、目は笑っていなかった。……怖い……。
「済みません冗談ですごめんなさい分かりません」
あまりの迫力に、僕は矢継ぎ早に謝る。するとアカリは、はぁーと大げさに溜息を吐き、
「あなた、長生き出来ないわよ。まぁ良いわ、お馬鹿さんなあなたに教えてあげる」
良い?と今や見慣れた感のある半目で僕を睨みながら、
「私はお姫様って言ったわよね?」
覚えてる?と疑いの目を向けるので、僕はコクコクと首肯する。
「————という事はお殿様も居るわけよね?」
(……ん、お殿様?)
「私はお姫様だから、お殿様の娘って訳。ここまでは良い?」
確認してくるアカリに、僕は手を上げる。
「なーに?」
「お殿様って?」
僕の質問に、へ?と間抜けな顔をするアカリ。
「……あなた、それ本気?」
また半目になるアカリに僕は頷きながら、
「うん。本気。お殿様って何?」
まぁ、[様]っていうくらいだから、偉い人なんだろうけど、聞いた事が無い。
「……嘘を言っている訳じゃ無さそうね」
そこで、はぁーとまた溜息を吐くアカリ。
「良い?お殿様ってのは、この国で一番偉い人の事よ」
分かった?と僕に指を向けるアカリ。だけど、僕はそれよりも、もっと気になる事があった。
(————国で一番偉い人……?)
————————ズキン!!
「あぐっ!?」
その時何故か、激しい頭痛が襲ってきた。思わず膝を付く僕に、慌てるアカリ。心配そうに声を掛ける。
「え?ちょっと、大丈夫?」
「……うん、大丈夫だから……」
しかし、なかなか頭痛は収まらない。
「私の屋敷、すぐそこだから。それまで頑張ってちょうだい」
そう言ってアカリは僕に肩を貸すと、そのまま歩き出した。