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小さな村の攻防戦 2

※ 21/2/25 改定 (誤字・脱字、および、一部の表現が適当なものでは無かった為、追加・修正しました)

 

「援護だぁ!魔法使いはありったけ魔法を打ち込めぇ!!」



 実技の先生が大声を張り上げる! その声で我に返ったバリケード内の魔法使いの人達が、一斉に魔力を練り始める!


 僕も魔力を練るのだが、隣で腹から大剣を生やして絶命している取り巻きが気になり、なかなか集中出来ない。すると、隣から、



「なんで躱すのよ! 図体デカいくせして生意気なのよっ!」



 と、サラがブツブツ言う声が聞こえて来た。目も据わっていて、正直怖い。



「うぎゃあ?!」「このクソ野郎!!」



 突如聞こえた悲鳴と怒号! そちらを見れば、ミノタウロスの振り回した棍棒をまともに受け、吹き飛ばされる槍を持った冒険者と、その隙を突いて切りかかる実技の先生の姿があった。

 吹き飛ばされた冒険者は、生えていた木にぶつかった衝撃で体を九の字に曲げた後、ズズッと地面に落ちて動かなくなる。


 切りかかった先生も、ミノタウロスの蹴りを食らい、こちらに吹き飛ばされる! が、1回転して体勢を整えると、なんとか受身を取った。しかし、身に着けている革鎧では完全にはダメージを殺せなかったみたいで、激しく咳き込んでいた。見れば、咳に血が混じっていた。



「ごほっ、……くそっ、このままだとまずいな」

「先生! 後ろに下がって取り合えず治療を!」

「いや、今ここを離れるわけにはいかねぇ」



 そう言って片手斧を構え直し、気合を入れる先生は、グッと体を縮ませると、



「〈自分に命じる!筋力強化だ!エンチャントアルム!〉」



 身体強化の魔法を唱える。すると、先生の両腕に淡い光に包まれた。腕だけを強化するエンチャント魔法を使ったのだ。



「ユウ、サラ! 援護を頼むぞ!!」 僕達にそう言うなり、戦線に復帰する為、ミノタウロスの元へと駆けていく先生。 だけど僕は、その背中を追う事が出来なかった。


(援護って、一体どうすればいいんだよ?!)


 サラの魔法をたやすく避け、僕よりも強い冒険者の二人を軽々と屠った相手に、僕が何を出来ると言うのか。


(くそっ! 取り合えず出来ることをやるしかない!)


 首を振り、魔力を練り上げるのに再度集中する。すると、後方で詠唱が聞こえた。



「よくもあいつらを!〈世界に命じる!土を生みだし飛ばせ!アースバレット〉!!」



 殺されてしまった二人の冒険者の仲間だろう、長い帽子を被った魔法使いが、持っていた杖を振るう!


 すると、土で出来た15センチ程の大きさの塊が、ミノタウロスに向かって飛んでいく! ミノタウロスは片手剣の冒険者と相対しており、こちらを見ていない! あれなら、当たるっ!



「食らいやがれ、化け物!」



 魔法使いの男が叫ぶと同時に、土の塊がミノタウロスの顔に直撃する! ドズン!と鈍い音を上げて、弾けるアースバレット。



「やったか!?」 それを見たカールが、誰となく尋ねるが、上がった土埃がミノタウロスの顔を覆い隠していて、分からない。 でも直撃だったんだから、かなりのダメージが――!?


 皆が緊迫して見つめる中、徐々に土埃が晴れ、姿を現したミノタウロス。その両腕は力無く垂れ下がった。よし! やっぱりかなり効いて──!


 ──が!



 GUMOOOOOWOOO!!!!!!



「なっ!?」



 額から血を流しているが、ほとんどダメージは無いとばかりにミノタウロスが吼える!そして、近くにあった3メートルはあろう倒木を抱え上げ、こちらに向けて投げ付けてきた!



「――マズい、逃げろぉ!?」



 先生が叫ぶ! その先生たちの上空を、ブゥンという音が聞こえたかと思うと、大きな倒木は嘘みたいな速度で飛んできて、バリケード内に落下する。



「きゃあああ!?」「助けてくれぇ!」「腕が、腕がぁ!」「いや~~~!」



 たった一撃で、バリケード内はパニックに陥り、そこかしこで悲鳴が木霊した。すると、



「アーネちゃん!しっかりして!!」



 母さんの悲鳴が聞こえてそちらを見ると、頭から血を流しグッタリしているアーネの姿。母さんはアーネを抱かかえ、必死に呼び掛けを行っているが、アーネは目を覚まさない。う、嘘、だろ……?


(アーネが、やられた……!?)

「くそおっ!」 響くカールが怒声!



 僕は魔力を練るのも忘れ、茫然としてしまう。あんなに元気だったアーネ。それが今や血を流しグッタリと力無く抱かかえられ……。



「こんの、化け物野郎がぁああ!!」 見れば、カールが震えていた自分の足を、木の盾で殴りつけると、全身をエンチャントで強化して、ミノタウロスに突っ込んでいく。



「ん、いかん!」



 少し離れた所に居た先生が止めようと動くが、エンチャントしたカールに追いつくのは不可能だ。勢いそのままにミノタウロスに突っ込んでいくカール。手に持つ片刃剣と上段へと振り上げ、



「真刃切り!!!」



 戦士系スキルを発動させて、振り下ろす。


【スキル】とは、各ジョブ固有で扱える、技や能力の総称である。ジョブ毎に決まった固有スキルが有り、レベルが上がるにつれて使えるスキルが増えると教科書に書いてあった。


 極稀に、オリジナルのスキルを発動する人達も居るらしいが、レベルか達人クラス以上じゃないと無理だという話だ。



 カールの放った戦士系の初期スキル──真刃切りが、立っているミノタウロスの膝を切り付けた!



 GUMO?



 しかし、なんの痛苦も感じなかったのか、ミノタウロスは首を捻る。強さが違い過ぎるのだ!

 ダメージを受けなかったミノタウロスは、技を受けたその膝で、狼狽えて動けないでいたカールを蹴り上げる!



「ぐぉえぅっ!?」



 およそ人から発せられたとは思えない声を上げると、その場でうずくまり血を吐くカール。その姿を見て残虐に笑うミノタウロスは、こん棒で毛の平をトントンと叩いている。そのこん棒で、人を殺すのがたまらなく楽しいと言わんばかりだ。 このままではカールも──!


 しかし!



「──〈世界に命じる! 業火を生み出し暴れろ! ファイアストーム〉!!!」



 サラの高らかな詠唱! と、サラの少し前方に火の渦が発生する。その火の渦は、勢いをどんどんと増し、やがて高さ3メートル程の炎の渦が生まれた。



 BUMOOO!?



 その火の渦を見て、初めて怯むミノタウロス。しかし、そんな事はお構いなしと──!



「これでも食らいなさい!」



 サラが拳を作り、ミノタウロスの方に突き出す! それが合図と、炎の渦はミノタウロスに向かって移動する!


(熱っ!?)


 その火渦から離れている僕にも、半端無いほどの熱さが伝わる。あの火の渦に、どれほどの魔力が込められているのか見当もつかない!



 BU,BUMOU!?



 幾ら鈍重とはいえ、その炎の渦からは逃げるのはたやすいと、ミノタウロスは距離を取ろうとした。が!



「付き合え、化け物!!」



 いつの間にか、腕をエンチャントで強化した先生が、斧を振り回しミノタウロスの前に立つ。



「逃がしはしねーよ!!」



 さらには、片手剣の冒険者も先生の横に並び、行く手を阻む!



 BWUMOOOOO!!!



 ミノタウロスは邪魔だとばかりに棍棒を振り回すが、それを器用に避け、あるいは受け流す二人。ミノタウロスは苛立ち、その場で棍棒を振り下ろそうとするが、



「──じゃあね」



 サラが優しく死を告げ、先生と冒険者が飛び退く。と同時に、すぐ傍まで迫っていた炎の渦がミノタウロスに襲い掛かった。



 BWUOOOOOOONNNN!!!!!!!!



 迸るミノタウロスの絶叫! そして炎が生み出すゴオォウという業火の音。ミノタウロスの全身を包み込み、その内部で燃やし尽くそうと猛る炎の渦。



「す、すげぇ……」



 誰かがその様子を見て、驚愕の声を上げる。そりゃそうだ。こんな魔法、今まで見た事もないんだから。サラの放った〈ファイアストーム〉は、【第四位格(カドラ)】の火の魔法だ。そんな物を、たった12歳の女の子が放てるなんて……。改めて、スペルマスターの実力を垣間見た。


 やがて、炎の渦が小さくなり消える。残されたのは全身を黒く焦がしたミノタウロスの姿だった。

 恐るおそるミノタウロスに近づく先生。そして、ミノタウロスを確認するが、



「死んでる……。死んでるぞおおぉ!!!」


 ————————————ウオォオオオオ!!!!!



 先生の後に続く絶叫。



「やった、やったぞー!」「助かったのね!?」「生きてる? 俺、生きてるよ!」



 思い思いに喜ぶ住人。絶望に近いほどの強敵。その中で、何度も己の死を覚悟したであろうその反動は凄まじいものだった。



「ふ~、まったく。ただの牛の癖に、手こずらせるんじゃないわよ」



 サラはさして汗の掻いていないおでこを、ふぅ~と撫でる。我が妹ながら大した奴だ。あれほどの強敵を倒してしまうなんて!


 さすがスペルマスターだと感心していると、



「さすがサラちゃんだ!」「村を救ってくれた恩人だ!」「英雄だ!」



 とサラを口々に賞賛する。そしてサラを囲むと、次々にお礼を言っていく。


 サラも照れ臭いのか、「いえいえ!」やら「大した事じゃあ……」など小さな声で言っているが、ここからでも分かるほど、耳が真っ赤に染まっている。ありゃ完全に照れてるな。

 ミノタウロスの足止めをしていた片手剣の冒険者も、「あの子は何者だ?」と隣の先生に聞いている。この子は自慢の妹です!



 ☆



 ミノタウロスの脅威を退けた僕達は、魔物が襲ってこない内を見計らって、けがの回復と怪我人の救助に専念する事にした。

 その中にはアーネも含まれていた。息はあるが意識が戻らず、今は教会のシスターに回復魔法を掛けられていた。ミノタウロスの膝蹴りを食らったカールも隣で横になっている。

 アーネの宿でケガの手当を受ける人たち。あのミノタウロス相手に、これだけの被害で済んだのは、サラを始めとした、皆の頑張りのお陰だろう。それでも冒険者やカールの取り巻き等、少なくない犠牲者が出てしまったけれど。


 バリケードの奥で、学校の先生がこれからどうすべきか、他の住人と協議している。このままここに留まるか、他の地域に行き合流するか。議論が平行線を辿っていた。

 その傍らでは、片手剣の冒険者は、同じく生き残っていた魔法使いの冒険者と、殺されてしまった仲間の装備や持ち物を整理している。彼らが居なければ、ここにいる全員殺されていたかもしれない。そう思うと、亡くなった彼らの仲間には、感謝の気持ちしかない。そんな彼らの元に、数人の村人が話し掛けていた。このまま残って、一緒に戦って欲しいとお願いしているのだろう。


 そんな中、先生を中心に協議していた人達が、これからどうするのか決めたようで、



「皆、聞いてくれ!! 戦える者はこれから他の地区に行き、生き残りが居ないか捜索する事にした! 動けない者やけが人は、宿でシスターが面倒を見てくれるそうだ」

「あのデカ物を倒したんだ。俺たちなら出来る!」「そうだ、魔物どもを追っ払おう!!」



 協議に参加していなかった村の住人も賛同しているようだ。学校の先生はその様子を見て頷くと、ちらりとこちらを見て、



「ユウ、サラ。悪いが二人にも協力してもらいたい。代わりにイサークへの応援要請は違う人に行ってもらう。どうだ?」



 と聞いて来る。母さんはアーネが心配らしくここに残るそうだ。何でも、先ほどミノタウロスが巨木を投げた際、アーネが母さんを庇ってケガを負ったとの事だった。アーネには、目を覚ました後でしっかりお礼を言っておかなくちゃな。


 先生が言うには、イサークの村には村で唯一、御者のジョブを持つ人が早馬で行くとの事だ。

 少し考えるも、この状況で村を出ていくのは気が引ける。何よりここで活躍すれば、いまだに村で蔓延っている召喚士の、父さんの悪い噂を一掃出来るかもしれない!



「――分かりました。僕は一緒に行きます」



 先生に向けて首肯する。



「よし。サラ君はどうする?」

「お兄が行くなら、一緒に行きます」



 即答だった。なんか恥ずかしいな。保護者付きみたいだ。



「よし! ではまずは、村の南に向かおう。一番家が多いし、他の先生もあそこに住んでいるからな!」



 これからの方針を僕達に伝えると、冒険者の所に向かう。引き続き協力してもらう為だろう。



「――サラ、良いのか?」 サラに尋ねたが、



「あったり前じゃない!魔物なんて私が全て倒してやるんだから!」



 サラは胸の前でむんと両腕を引き、気合を入れる。どこで覚えたんだ、それ?


 ──そんな時だった。不意に、



『…………ぁすけて』

「ん?サラ、何か言ったか?」

「え? んーん、何も言ってないよ?」

「そうか」

『……たすぇて』

「!? サラ、今の!」

「……?」



 確かに聞こえた、助けを請う声が。しかし、サラには聞こえていないらしい。


(どういう事だ? 僕にはたしかにはっきりと聞こえたのに……)

「おーい、そろそろ行くぞぉ」



 先生が僕達に声を掛ける。その後ろには、あの冒険者の二人も居た。どうやら残って戦ってくれるようだ。これは心強い!

 その後ろにも、戦士系や魔法使い系のジョブを持った村の人達が続いていた。このバリケードにも数人は残していくみたいだけど、結構な数の人が南地区に向けて歩き出す。これなら、ある程度の魔物が居ても、問題は無さそうだ。


(僕も母さんに一声掛けておくか)


 そう思って宿に顔を向けた時、突如として宿が火に包まれる──!



「──なっ!?」「──え、なに?!」



 なにが起きているのか理解出来ない僕達の耳に、



「見付けたザマス♪」



 ──本物の絶望が、楽しそうに僕達に死を運んで来た。


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