二人の正体
※ 21/2/25 改定 (誤字・脱字、および、一部の表現が適当なものでは無かった為、追加・修正しました)
また、クラスチェンジや、カテゴリーの変動に関しての説明を追加しました。
△ ユウ視点 △
村の東に向かって、ひたすら走る僕達。村の東にある門から村を出て、隣街の【イサーク】に応援を求めに行く為だ。
途中からは母さんの手を放し、各々が自分の速度で走る。今は先頭を僕、間をサラ、最後尾を母さんの順だ。
先ほどまで一緒にいた老夫婦のお爺さん──イーサンさんと、お婆さん──エマさんは、教会を襲撃してきた魔族と名乗る魔物の相手をする為、教会に残った。
教会から離れる際、魔族と相対する二人をちらと見たが、一目で二人が只者では無い事が分かった。
騎士と魔導士というジョブだけでも、普通じゃないのは分かる。しかし、それを言うならサラだって最上級ジョブの一角であるスペルマスターである。しかし、サラにあの二人ほどの強さは感じない。単純な経験の差なのか、それとも二人のカテゴリーやレベルが高いのか。
走るペースを少し落とし、サラに前に出る様に手で促して、最後尾の母さんに並び、尋ねた。
「……母さん、あの二人は大丈夫かな?」
「大丈夫よ。きっと大丈夫……」
「お二人共強かったけど、二人のカテゴリーとレベル幾つか分かる?」
「……うーん? 最近のレベルは知らないけど、お城に居た時は、ジョブレベルが53で、カテゴリーは確か5だったかしら?」
……ジョブレベル、53!? カテゴリー5!?!
「ほんと!? ほんとに!?」
「え、えぇ。それは間違い無いはずよ」
(し、信じられない……)
母さんの言葉に、思わず足が止まりそうになってしまった。
この世界では、レベルやカテゴリーの数値が、純粋にその人の強さを表す。
そして、ジョブの相性もあるのだろうが、レベルが大体3以上離れていると、超えられない絶対の壁が存在すると言われている。レベルが3以上離れている相手には、何をどうしようが勝てないし、負けないんだとか。
各レベルは通常、レベルが1~10が【見習い】 11~20が【一人前】。21~30が【上級者】。31~40が【匠】とレベルが上がる毎に【称】が変わっていく。
一般の大人のレベルは18程度らしく、ある程度力を付けた冒険者で25前後と言われている。
レベルが30を超えると、所謂ベテランと呼ばれかなり強い。実際、学校の先生達はレベル30の人が大半だ。それからさらに上、レベル40を超える人は匠と呼ばれ、レベル40を超える匠級は各街に片手程度しか居ない為、その街に住む人の羨望の的らしい。
そして、その上のレベル50になると、【ジョブチェンジ】が出来ると教科書に書いてあった。教科書によると、ジョブチェンジをして上位レベルに至るのは、ほんの一握りらしい。大概は、サラみたいに、生まれながらにして上位ジョブの人間ばかりだという。
だが、叩き上げで上位ジョブになった人間の方が、その実力や経験を買われ、町や国の役職に就く人が多いのだとか。もしかすると、騎士と魔導士であるイーサンさんもエマさんは、ジョブチェンジ経験者なのかもしれないな。
ちなみに各レベルは、レベルアップに必要な経験値が溜まると、教会にある【昇華の珠】に触れればレベルアップする事が出来、一度上がったレベルは下がったりはしない、らしい。……僕は今だに、レベルアップした事無いから分からないんだけど……。
次にカテゴリーだけど、こっちはレベルよりもっと大きな差が出る。そしてこちらも、カテゴリー別に、カテゴリー1が【一般人】 2が【強者】 3が【熟練者】 4が【達人】 5が【豪傑】となっていて、達人級の人は、各街に数人しか居ないとの事だ。
カテゴリーの【級の遷移】は、日々なされているらしい。こちらはジョブのレベルアップと違って、急激な変化や変更が無いから、本人はほとんど気が付かない。体を鍛えていけば、級の遷移が起こるだろうし、逆に衰えても、級の遷移がある。でも、体を鍛えたからといって、年老いたからといって、必ずしも級が上下に遷移する訳では無い為、魔鏡で調べない限り、ハッキリとは認識出来ないのだとか。ちなみにカテゴリーの遷移も、僕はしていない。あれだけ、朝の鍛錬を頑張っているのになぁ……。
そして、お爺さんとお婆さんのレベル53であるが、一般的にレベルが50を超えると【伯楽】と呼ばれ、さらにカテゴリー5は【豪傑】である。そんな人は歴史に名を残すレベルであり、大概の人が二つ名で呼ばれる。多少の例外もあるだろうが、地位のある立場に就いている人がほとんどだ。そんな人達がお隣さんだったなんて……。
(————待てよ、お姫様……?)
「————母さん、ちょっと聞きたいんだけど」 止めかけた足を、頑張って意識しながら前へと運ぶ僕は、再び母さんに質問した。
「はぁ、はぁ。な、何、ユウ?」 走り慣れていないのか、母さんの息がかなり上がっている。それでも僕の質問に答えてくれるようだ。
「母さんはお姫様だったんだよね?」
「そ、そうよ」
「で、あの二人はお城に仕えてたんだよね?」
「え、えぇ」
「……ひょっとして、あの二人って、かなりの地位に居たんじゃないの?」
普通に考えて、レベル50超えの人達を、一兵卒なんて扱いはしない。母さんとも親しそうにしていたし、かなり上の地位にいた人たちに違いない。
走りながら喋るのはとても辛い。それにも関わらず、母さんはちゃんと答えてくれた。
「え、えぇ。はぁ、二人はぁ、国の重要人物、だったわ。主に軍のね。はぁっ」
「──!?それってまさか……!?」
僕の頬に、決して走っているからではない別の汗が流れる。
「そう、【トライデント】よ。まぁ、元トライデントと言う方が、正しい、かしらっ」
(——やっぱり!?)
【トライデント】
それは、各国における最重要人物である。昔、魔王と呼ばれる存在を倒した英雄達の一人が国を興した際、その英雄に力添えをした3人が居たらしい。その名残なのか、それ以降、各国は要職を任せる人物を3人召し抱えたり、指名するのが定例となっており、その3人の事を【トライデント】と呼称している。
国によってトライデントのジョブは様々で、戦士系や魔法使い系、僧侶系などの軍部門だったり、学者や博士、宰相などの国の運営に関する部門だったりだ。
最近は魔物の脅威もほとんど無い為、トライデントの3人全員が軍関係という事は少ないらしい。それでも国同士のいざこざがあるので、0という事は無いみたいだけど。
ともかく、トライデントはその国における最高戦力であり、最高知能であり、国の象徴なのだ。さすがに王様より権力が有る事はないが、それに近しい権力を持っている人も多く、貴族となっているトライデントも少なくないと教科書に載っていた。
……そんな人達に、小さい頃からお世話になっていたなんて……。知らなったとはいえ、ずいぶん失礼な事を言ってしまった気がする。後で会ったら謝らなくちゃな。変態爺とか思っちゃったし……。
「そんなスゴい人達なら、心配ないね~♪」
いつから聞いていたのか、前を走るサラがそんな事を言う。確かにサラの言う通り、トライデントが二人も居ればあんな魔族、敵じゃ無いよな!
「なら大丈夫だね、母さん」
「……えぇ、そうね」
薄れてきた朝霧の中で、母さんを見る。だけど、やはり二人が心配なのだろう、母さんの返事に元気は無かった。