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騎士と魔導士

※ 21/2/25 改定 (誤字・脱字、および、一部の表現が適当なものでは無かった為、追加・修正しました)

および、イーサンのスキルと武器の特性を変更しました

 

 △  エマ視点   △



(──全く、殿下は何時になっても無茶を仰るのだから。アレを相手にして「死ぬな」、なんて……)


 この場から離れ、小さくなる三人を目で追いながら、心の中で一人愚痴る。思えば殿下には昔から散々振り回されてきた。


 ~  ~  ~  ~


 まだイーサンと一緒になる前、私は一介の冒険者として世界各地を旅してきた。そして、ふと寄った西端の国で行われていた小さな武道大会に、ちょっとした好奇心で参加し、優勝した私を表彰したのが殿下だった。ちなみにその時、決勝で戦ったのがイーサンだった。


 規模が小さいその大会に、かなりの実力者が揃っていた事を不思議に思った私は、表彰式の後に行われた晩餐会で、大会の主旨を殿下に伺った。

 すると、なんでもこの大会は、自国軍の幹部候補を発掘する為に用意した大会で、大会の上位者を軍の幹部に抜擢したいのだという。それを聞いて私はビックリした。そのビックリした顔を殿下がお気に召し、さらに冒険者業に一区切りつけたかった私は、国の魔術師団の団長として、この国に仕える事になったのだ。


 ~  ~  ~  ~


 その間、色々と驚かせられた。小さなイタズラが多かったけれど、やはり駆け落ちするって聞いた時が一番驚いたわ。あの時の殿下ったら、飛びっきりのイタズラが成功した様な顔をなされて、私もなぜか一緒になって笑ってしまったっけ……。


 昔を思い出しながら魔力を集中させていた私のすぐ横を、何かが高速で通り過ぎていった。振り返る事なくそれがイーサンと分かる。

 何とか形を保っている教会をキッと睨むと、イーサンが吹き飛ばされてきた壁の穴から、ヌッと一本の腕が出てくる。



「──ヤレヤレ、逃げられてしまいましたカ……」



 穴から出てくる腕の数が増えていき、その数が4本に達した所で本体も出てくる。──体を炎に包まれ、頭に角を生やした魔族。



「……復活してマダそんなに時間が経っていないセイカ、中々体が上手く動かないザマスネ」



 首を、腕をくるくる回しながら、そんな事を宣う魔族。


(……やはり復活してしまったのね……) 


 殿下の恐れていた事が現実になってしまった事に、自分の力不足を悔いる。


(──いえ、まだ後悔するのは早いわね!)


 私は集中していた魔力を杖に込める。長年使ってきたこの淡い緑の光を帯びたグリューンリヒトは、あの大会の副賞として頂いた、古代樹で作られた【遺跡(リメイン)級】の杖。魔力増加と威力増加の効果をもたらしてくれるその相棒を魔族に向け、魔法を行使する。



「〈世界に命ずる! 風を生み出し舞い踊れ! ジャズウインド〉!」



 私の周りに風の刃が無数に生まれる。その数100! その無数の風刃が、前後左右から魔族を細切れにしようと向かっていく!



「──フム。ソノ数を生み出せるなんて、中々やるザマスネェ」



 しかし魔族は、その数を見ても大して驚かず、逆に感心している。そして、向かってくる風の刃を、4本の腕で叩き落としていった。──ありえない!?不可視の風の刃を、魔族とはいえ、腕の力のみで落とすなんて……!


(しかし、まだよ!)


 その時背後から、凄い速さでは光が魔族に向かっていく!

 エンチャントで己を強化したイーサンだ。エンチャントで強化した、稲妻の如き速さの突き! 私の放ったジャズウインドをフェイントに利用し、本命の突きで確実に相手を屠る! それが私たちの最も得意とする、必勝の連携攻撃!


 最後の風刃を腕で叩き落とした魔族。その隙だらけの体に向けて、イーサンが突きを放つ。



「──雷塵撃!!!!!」



 ドゴォォン!と、雷が間近に落ちたかの様な轟音を伴い、イーサンの必殺技である【雷塵撃】が炸裂した!


 エンチャントで増大した自らの力に加え、彼のジョブである騎士のスキル──【付加】を、イーサンの相棒である遺跡(リメイン)級のロングソードが吸収、その力で相手を貫き焦がす、イーサンの切り札。


 私との決勝で敗れはしたものの、準優勝の副賞で同じく殿下から頂いたその剣は、ある程度の魔力を込めると発光し、切れ味を増幅させる。その剣に、騎士のスキルである付加──それも、イーサンの付加は他の人とは違う雷属性を付加させる【ユニークスキル】だ──させた一撃。


 雷属性の魔法は、今は失われている為、雷を付与する彼のユニークスキルは大変貴重である。そして、その付加を吸収してもびくともしない剣。私の《グリューンリヒト》といい、小さな国だったのに、良くそんな剣が有ったわねと今でも不思議に思う。

 そんな事よりも、あの時のイーサンは剣を頂いた喜びより、私に負けた悔しさの方が勝っていたらしく、終始仏頂面だったっけ。



「グウウヌゥゥ!?」



 イーサンの技を、むき出しの腹部に食らう魔族。刀身と腹部の間で光が弾け、バチバチと音を爆ぜる! 魔族の顔は先ほどの余裕のある顔とは違い、苦悶が浮かんでいた!



「ぐぬぅぅう!」



 それに対し、刀身を深く刺そうと剣を握る手に力を籠めるイーサン。その額には汗が浮かんでいる。頑張って、イーサン!



「ウグググググ!?」



 だが魔族は、四本有る腕を上げ刀身を掴み、それを押し返そうとする。しかし、私もただ見ている訳では無い! 練っていた魔力を杖に通して次の魔法を放つ。



「〈世界に命ずる! 水を生み出し穿て! ウォーターランス!!〉」



 魔族の視界を奪う為にフェイントで放った先ほどとは違い、今度は倒す為に練り上げた魔力の全てを込めて、魔族の上空に巨大な水の槍を発現させる! 



「はぁっ!」



 私は杖を振り下ろし、水の槍を魔族目掛けて落下させた! 狙いは、魔族の頭!


 イーサンの技をさらに利用した連続攻撃! 魔族はイーサンの技の対応に必死で、水の槍に気付いている様子は無い! これならば!!


 剣と腕とで鍔迫り合いをしていた両者。だが、その拮抗は急に終わりを告げる。イーサンがバックステップして離れたのだ! そこに、間髪入れず私の放った水の槍が魔族に直撃する!



「グルゥウアアア!?」



 脳天を水の槍で貫かれ、全身の炎が魔法の水と激しくせめぎ合い、「バシュウ!」と魔族の全身から白い煙が立ち込める。全身を火で覆われていた魔族。なら、弱点は水に違いないと、ウォーターランスを放ってみたけれど、正解だったようね。


 ふと、安堵する様に息を吐いた次の瞬間、



「──ナンテね♪」



 どこか陽気な声が聞こえたかと思うと、白い煙はたちまち消え失せ、中からまるっきり無傷の魔族が姿を現した。 そ、そんな!?



「マァ、中々の攻撃だったザマスネ。私より弱い魔族相手なら、もしかすると倒せていたのかもザマスガ―」



 とそこで言葉を切り、



「──この四天王である私には通じなかった様ザマスネ」



 とニッコリと嗤う。と同時に、全身に今まで以上の炎が宿り、立ち昇っていく。



(──やはり【四天王】クラスでしたか……)



 嗤う魔族とは対照的に、私の頬を汗が流れた。それは決して、四天王を名乗る魔族の上げる炎の熱のせいではない。四天王というその単語のせいだ。


 ──その昔、お城で読んだ魔王や魔族に関する文献に載っていた、魔王直属の幹部、それが【四天王】。

 それぞれが単独で国を蹂躙出来る力があるとされる、桁外れな存在。そんな存在が目の前に存在し、私たちの大切なものに危害を加えようとしているなんて……。



「サテ、色々と愉しませてクレタお礼に、名乗りましょうか。──私の名はザファング。魔王様より特命を仰せつかりました四天王が一人」



 そう言って、ザファングと名乗った魔族は、優雅に腰を折る。その所作に合わせて、全身を覆う魔力が吹き上がった! 今まで生きてきて、これほどの魔力は感じたことが無い。桁外れにも程がある……。


(……まいったわね……)


 体中に噴き出す冷や汗を感じながら、魔力を練り始める私の横に、イーサンが並び立つ。



「……今のうちにお前だけでも逃げろ……」 こちらを見る事無く告げてくるイーサン。



「ワシの全力を持って、せめてもの隙を作る。だからその間に──」

「──イーサン」



 自分でも驚くほど穏やかな声で、イーサンの言葉を遮った。



「……今さら逃がしてはくれませんよ。それに──」



 言って私は杖を握る手に力を籠める。



「──私を守ってくれるのでしょう?」




 ──それは遠い昔の約束。二人の大切な【契り】──




「……そうじゃったのう」



 イーサンは振り向き私に笑顔を向ける。その顔は昔の様な、ニッと歯を見せる、少年の様な笑みだった。



「なら、彼奴をさっさと倒して、殿下の元に行かねばのぅ」



 残りの魔力で己にエンチャントを掛けるイーサン。



「……そうですね」



 私も残りの魔力を練り上げる。



「そろそろ良いザマスカ? では、次はコチラから行くデザマス」



 意外にも、律儀に私たちの会話を待っていたのか、そう声を掛けてくるザファング。



「えぇ、では……」「うむ、では……」



 二人同時にお互いの相棒を構える。大切な殿下から頂いた、大切な相棒……。



「「推して参る!!」」



 そして、イーサンは再び光に包まれ、私は魔法の言葉を紡ぎ、魔族は魔力を解き放った!


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