第一部 赤髪の戦乙女編 第一章 アイダ村 ユウという少年
このお話から、第一部となります。
※ 21/2/25 改定 (誤字・脱字、および、一部の表現が適当なものでは無かった為、追加・修正しました)
アルカディア大陸の西端に位置するノイエ王国、その最も西側に、僕の住むアイダ村はある。 人口は300人程。 畑で麦や野菜、牧場で家畜を育てながら自給自足の生活をしている、王国内の他の村とそれほど変わらない長閑な村だ。そんな村に僕、ユウ・シードルフは母さんと妹と一緒に暮らしている。
父さんは居ない。僕が5歳の時に突然居なくなった。母さんと、まだ3歳だった妹を残して。
僕が10歳位の時に、母さんになぜ父さんが居ないのか聞いてみたが、寂しげな笑みを浮かべただけで、何も答えてはくれなかった。それ以来、僕もなんだか悪い事の様な気がして、母さんに父さんの事を聞く事はなかった。
まだ幼かった僕が、父さんについて覚えている事は多くない。厳しかったのか、優しかったのか。顔ですらおぼろげにしか覚えていない。
そんな父さんについて、一つだけ忘れられない思い出がある。それは父さんの職業である【召喚士】に関してだ。 後に、召喚士は自然を操る職業だと学校で教わったが、僕は父さんとの思い出でそれを知っていた。
まだ父さんが家に居た頃、村で一番大きな畑を持っていた村長に依頼されて、畑に向かった父さん。その父さんの後を、興味本位で付いて行った僕は、そこで信じられないものを見たんだ。
父さんが畑の前に立って、家から持ってきた木の杖を畑に向けて何やら呟いたと思ったら、とつぜん杖から青色の光が発生して、みるみる大きくなった。そうかと思うと、その光が雲に変化し畑全体に広がって、瞬く間に雨を降らせたのだ。畑の持ち主だった村長は父さんにすごく感謝して、何度も頭を下げていた。そして次の日には違う畑で同じ様に雨を降らし、次の日はまた違う畑で雨を降らしていた。 僕は覚えてなかったのだけど、のちに村の大人に聞いたら、その年はかなり雨が降らなかったらしく、どこの畑も水が不足していたみたいだった。だから父さんが、召喚で呼び出した雲で雨を降らせ、畑を潤していたのだった。お陰で凶作になる事無く、村が助かったと、その大人は嬉しそうに話してくれた。
最後にお願いされた畑に雨を降らせた帰り、僕は隣を歩く父さんに言った。
「僕もお父さんと同じ様に召喚士になって、村の役に立つんだ!」
多分、その時の僕は興奮していたと思う。その位、村で一番偉い村長を始め、畑の持ち主だった大人たちが父さんに感謝していたから。まだ幼かった自分が、そんな父さんを誇らしく思い、自分もそうなりたいと思っても、なんら不思議な事ではないだろう。
でも、父さんは僕を見下ろしながら「ユウ、お前には出来ないよ」と、特に感情のない声で否定した。
「なんで?」
「お前には無理なんだよ」
「どうして!?」
「……」
それっきり父さんは黙って、でも僕の手をしっかりと握りしめた。僕はまだ納得してなかったんだけど、そのうちきっと教えてくれると思っていた。……でも、次の日から父さんに会う事はなかった……。
それ以来、僕は母さんと妹と3人で暮らしている。幸い、家の裏には、三人で暮らすには充分な大きさの畑が有ったし、その他の生活に必要な物も、父さんがお金を残してくれていたので、村にある店や定期的に村にやってくる行商人から買い、特に不自由することは無かった。