魔族
※ 21/2/25 改定 (誤字・脱字、および、一部の表現が適当なものでは無かった為、追加・修正しました)
「探したザマス———」
そう言って、崩れた壁から部屋に入ってくる、全身を火に包まれた悪魔。顔は人のそれに近いが、両耳の上から黒く大きな角が生えている。身長は2メートルを超えているだろうか。
引き締まった上半身には何も着けず、下半身に黒のズボンを履いている。角が生えている獣人族はこの国にも居るが、獣人とは全く違う特徴がある。腕が4本もあるのだ。しかも一本一本が僕の足ほどに太い。足は二本だが、その足の先が鳥の様に鋭く、長い爪が4本生えている。明らかに魔物だ。
「ま、魔物……」
突然の魔物の登場に、サラは呟く。しかし、その魔物は4本有る腕の一本を顔の前に持ってくると、人差し指を立て、
「チッチッチッ。ワタシは魔物じゃナイザマス。あなたたちの認識だと、【魔族】、ザマスか」
「──魔、族……」
【魔族】
それは、まだ僕達が生まれる遙か昔、この世界がまだ、今の国の様に統治されていなかった時代。
【魔王】と呼ばれる、破壊と殺戮の象徴と共に各地の、それこそ生きとし生けるもの全てを混沌に堕とし入れた存在。それが魔族と呼ばれていると、歴史の教科書に書いてあった。
あまりに昔の事過ぎて詳しい事は分かっていないが、一説によると、魔族一人で大きな街なら一瞬で滅ぼせるらしい。それほどまでに強大な力を持っている存在。そんな存在が、なぜこの部屋に!?
「森で部下が見つけたのザマスが、こんな所に隠れていたナンテ……」
ニヤッと顔を歪める魔族。 部下? 隠れる? 何の事だ?
「──サテ、会えていきなりなんザマスが、消えて欲しいのザマス」
「──えっ?」
少し聞き取りにくい言葉でそう言った魔族は、僕を見るとそう言った。そして、呆けている僕に向けて4本ある腕の内の一本を向ける。今、何て?
「やらせんよっ!!」
すると、母さんの傍に立っていたイーサンさんが、魔族の背後から剣を振り下ろす。完全な死角からの攻撃! しかし魔族は、「アラ」と、二本の腕で剣を挟み込んでしまった!
「……背後からナンテ、騎士道に反するんじゃないザマスカ?」
背後のイーサンさんを振り返ること無く、そう言ってのける魔族。そこへ──!
「〈世界に命じる! 水を生み出し穿て! ウォーターランス〉!」
いつの間にか、僕達の背後に立っていたエマさんが詠唱を唱えると、手に持った薄緑色をした立派な杖の先から、螺旋状の水の槍が魔族の顔に向かっていく!
「タカガ第二位格の魔法なんて、避けるまでも無いザマス……」
魔族は特にガードする気は無いらしく、そのまま魔法を受けようとしていた。が、
──ボシュウゥゥゥ!
水で出来た槍は、魔族の顔に当たる直前、魔族の視界を奪う様に大きく爆ぜた!
「——今じゃ! 今のうちに外に出るんじゃ!!」
イーサンさんの怒鳴り声に、壁に空いた穴から外に出ようとする僕達。
「──行かせないザマスよ!」 しかし、魔族の手が僕たちを捕まえようと迫る!
「ここはワシに任せて、皆、外に!!」
イーサンさんが剣で手を叩き落とし、魔族を迎え撃つとそのまま殿を買って出る! その隙にサラ、僕、母さん、エマさんが外に出た。
外は明るくなっていた。どうやら僕は一晩意識を失っていたようだ。
木々から差し込む陽の光に下、僕達の目に飛び込んできたのは、この時期特有の朝霧の中、ゴウゴウと燃え盛る学校と教会。そして、所々に穴の空いた地面に散らばっている数々の肉片だった。
何の肉片か分からない。でも、元は何だったかは容易に想像出来るソレ。
「うぅっ!?」
その光景にサラは堪らずえずく。周囲に満ちた物の焦げる臭いと合わさって、僕も吐き気を押さえるのに必死だ。
そんな僕達二人に母さんは、お日様が昇る東の方向を指差した。
「村の東に向かいます! この状況を打破するには、この村から出て、隣の【イサーク】の街に応援を頼まなければなりません!」
すると、その手をそっと包み込む人が居た。エマさんだ。
「————殿下、私はあの人とここでアイツを食い止めます! その隙に村から脱出を!」
「エマ!? それはなりません!」
「──いいえ殿下。私とあの人は、この時の為に、あの時ご一緒してきたのです!」
そう言うと、エマさんは母さんの両手を自分の目の高さまで上げ、そっと微笑んだ。
「エマ……」 その手を、そしてエマさんの顔を見て、困った様に呟く母さん。その母さんに向け、
「殿下、頼みましたよ!」
エマさんは強く頷くと手を離し、持っていた杖を崩れた教会の壁に向ける。
「──さぁ殿下! お早く!」
「……分かりました。エマ、頼んだわよ! そして死なないで!!」
そう言って母さんは、僕たちの手を取り、村の東に向かって走り出す。母さんに手を引っ張られながら振り返って見たものは、崩れ掛けた教会から冗談のような速度で吹っ飛ばされるイーサンさんと、己の魔力を限界まで高めているエマさんの姿だった。