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母の告白 2

※ 21/2/25 改定 (誤字・脱字、および、一部の表現が適当なものでは無かった為、追加・修正しました)

 

「……なんだよ、それ? 母さんの言っている意味が分からないんだけど?」



 さすがに僕の覚悟の斜め上の言葉で、理解が追い付かない。もしかすると、僕の聞き間違いかもと、思わず半笑いと浮かべてしまった。けれど──、



「————ユウ。あなたは【異世界】の人間なの。あなたはこの世界の人間じゃないのよ」



 僕をまっすぐに見つめる母さんの顔は、決して冗談を言っている顔ではない。ただ事実だけを述べている顔だ。だとしたら、嘘だと決めつけて話を拗らせるよりも、それを受け入れた方が建設的だろう。全然納得はしていないけれども。



「……なにか根拠があるの?」 僕の質問に対し、



「──えぇ。あなたは駆け落ちの時に、父さんが連れて来たって言ったわよね?」



 コクリと頷く。



「その時にあの人が言っていたの。『この子は異世界の子だ』って。私も、今のユウの様に、最初は何言ってるのって思ったわ。当たり前よね。いきなりそんな事言われたら。でもね、その時──3歳位だと思うけど──ユウが着ていた服がね、とても異質だったのよ」

「──異質?」

「そう。母さんは王族だったから、色々な国の文化とかに詳しいのよ。いっぱい勉強したから。でも、あなたの着ていた服は私の知る限り、どの国の服とも一致していなかったの。それどころかまったく見た事の無い物だったわ」

「根拠が服、なの?」



 サラが怪訝な顔をする。



「————そうね。お母さんだって服だけじゃ信じる気にならなかったわ。ただ私が知らないだけかもって、それで納得してしまったでしょうね」

「じゃあ!?」

「……でもね、その服はボタンやベルトで前を留めるものじゃなかったの。全く見た事が無い物だった。だから直接ユウに聞いたわ。そしたら小さな声で【ちゃっく】って」

「……ちゃっく?」

「えぇ、たしかにちゃっくって言ったわ。全く聞いた事の無い言葉だった。説明が難しいんだけど、こぅ……、小さな金具を上下に動かすだけで服が留められるの」



 当時を振り合える母さんは、何も無い空間を指で摘まむと、手を上下に動かす。おそらく、小さい頃に僕が着ていたそのちゃっくってやつを表しているんだろう。



「そ、そんなのどこかの国に有るかも知れないじゃない!?」

「……たしかにサラの言う通り、この広い世界の隅々まで探せば、どこかに有るのかも知れない。でも、もう一つ、ユウが持っていた物……。それはこの世の物とは思えなかった」

「……もう一つ?」



 僕が聞く。



「──えぇ。あなたはその時、変な剣を持っていたわ。……いえ、剣の形をしたおもちゃと言った方が正しいわね」

「……剣の、おもちゃ?」

「そう。こっちも説明し辛いのだけど、なんかこう……、水晶ともガラスとも違う固く透明な材質で、その剣を振るとピカピカ光って音が鳴るの。それで母さん、何かの魔法が使われているのかと思って、【魔力感知】を使って見たんだけど、何の反応も無かったのよ」



【魔力感知】とは生活魔法の一種で、物に宿る魔力を察知する事が出来る魔法だ。この世界の常識である、この世の中のすべての生物、すべての事象には魔力が宿しているという考えに基づいた魔法。ちなみに、もっと大きな範囲の魔力を探る為の【魔力探知】という魔法もある。



「──魔力が感知出来ない光なんて、この世に存在しません」



 それまで、母さんの後ろで静かに話を聞いていたエマさんが補足した。魔導士であるエマさんは、当然魔力に精通している。そのエマさんが言うのだから間違いない。あのお日様から降り注ぐ光にさえ、魔力があるのだから。



「————母さん、もう訳分からなくなって、またユウに聞いたの。『これ、何で光っているの?』って」

「……そしたら?」



 思わず前のめりになってしまった。隣を見れば、サラは僕よりも前のめりになっていて、寝ている僕の足の上に手を乗せているのも気付いていない様だ。お、重い。



「また小さな声で、【でんち】って」

「……でんち」

「わしもエマも長く生きているし、世界を旅した事もあるが、【ちゃっく】も【でんち】も聞いた事が無かったわい」



 イーサンさんが、後頭部をガシガシと掻きながら言う。後頭部を掻くのはイーサンさんの癖なのかもしれない。



「ユウに聞いても要領を得なかった母さんは、お父さんに聞いたの。『この子は一体?』って」

「……父さんは、なんて?」



 何故か僕は震えていた。なぜ震えていたのか分からない。



「————この子は異世界から召喚したと。この子にはやる事があると、そう言ったわ」



 母さんは、僕をまっすぐに見てそう口にした。その言葉に、母さんの感情は乗っていなかった。ただありのままを話しているんだなって事だけが、否が応でも伝わってくる。



「……やる事って?」



 僕の震えは止まらない。その先を聞きたくない。耳を塞いでしまいたい。でも聞かなきゃいけない! だから、震える唇で、必死に訊く。

 その覚悟を母さんはどう受け止めたのか。間を置く様に一度視線を外すと、コクリと頷いた。そしてまた、僕の顔をまっすぐに見つめると、頬に自分の手を添えて、



「ユウ、あなたは──」



 ──その時!!



「むっ!いかんっ!!」



 イーサンさんが母さんの前に立つ! と同時に、



 ドゴオォオンン!!!



 耳をつんざく爆音!! 僕は瞬時に、隣のサラを庇う様に覆い被さる。ガラガラと崩れる部屋の壁。埃がもうもうと立ち込めた。い、一体、何が起きたんだ!?


 僕達はゲホゲホと咳き込みながら、崩れた壁を見る。埃が落ち着くにつれ、何かの影が姿を現す。



「———ココに居たんでザマスね?」



 するとそこに、体中を炎で包まれた悪魔が、ニッコリと微笑んだ。


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