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魔物の出現

※ 21/2/25 改定 (誤字・脱字、および、一部の表現が適当なものでは無かった為、追加・修正しました)

 

「———いやぁ、驚かせてしまって、済まんかったのぅ」



 薄い月明りの中、僕とサラはいつも登校で使っている道を、教会に向かって走っていた。家を訪れたお爺さんから、母さんは今、教会に居る事を聞いたからだ。


 母さんとお隣さん夫妻は、魔物がこの村を襲う事を事前に知っていて、その事を教会の神父さんと村長さんに報告する為に教会に行ったらしい。何で事前に把握していたのかをお爺さんに聞いたが、はぐらかされてしまった。となれば、母さんに詳しい説明を聞こうという事で、教会に向かっているわけだ。

 その道すがら、お爺さんが先ほどの事について謝罪してきた。僕もサラも驚きはしたが、別段怒ってはいない。それよりも今は、謝ってきたお爺さんの恰好がとても気になっていた。


 お爺さんは、兜こそ被っていないけど、その体をフルプレートと呼ばれる全身鎧で包み、左腰には、白金色の綺麗な鞘がベルトから吊るされている。そこに納まっているロングソードは、唯一見える持ち手だけで、武器に詳しくない僕でもかなりの逸品だと分かる。

 そんな、いつもと違うお爺さんの恰好。僕よりも若干低い身長。しかし背筋をピンと伸ばし、僕達の後ろを苦も無く走るその姿は、まるでどこかの騎士のようだった。



「兄妹とはいえ、抱き合っている男女の邪魔をしてしまうとは。勘弁してくれ」



 ただ、言っている事はどこかの変態爺ではあるが。



「何を言ってるんですか、全く。……それより、母さんは無事なんですよね?」

「うむ、殿──母君は無事じゃ。今は教会で、女房殿と今後の話をしているに違いないわい」



 走りながらも答えてくれた。



「お母さんは無事なのね!」



 サラも、母さんの無事の知らせに安堵する。と、後ろを走るお爺さんに、



「──ところでおじいちゃん、その恰好は何?」と、僕も気になっていた事を口に出す。普段のお爺さんの恰好からは想像出来ない全身鎧姿に、流石のサラも気になったようだ。



「ん? ————あぁ、これか? これは昔取った杵柄というやつじゃよ」

「……昔ですか?」

「……うむ、もう何十年と昔の、な……」



 お爺さんは鎧を撫でながら答える。その年月の割に、鎧も剣も綺麗に光り輝いている。きっと大切にしてきたに違いない。



 その時、僕達の走る道の先に、行く手を遮るように三体の魔物が姿を現した! どうやら僕たちの家の周りだけじゃなく、村全体に魔物が出現している様だ。 そうなると、他の人達が心配になってくる。母さんは、アーネは大丈夫だろうか?


  突然現れた魔物達と相対する為、走る速度を緩める僕とサラ。


(三体か! 【スペルマスター】のサラはともかく、お爺さんの恰好を見る限り、お爺さんも昔、魔物と戦った事があるんじゃないか? なら、大丈夫だろう! 何とか隙を見つけて突っ切るしかないか。最悪、僕が囮になって……)


 幾らサラとお爺さんが強くても、魔物を三匹相手にできるとは思えない。最弱のスライムでさえ、あの強さだったんだ。ここは、二人を信じて、何とか逃げるしかない! サラは初めての魔物との戦いになっちゃうけど、頑張って貰うしかない! 僕も必死にフォローしなければ!


 家から持ってきた父さんの杖をギュッと握りしめ、あれこれ考えている僕の横を、一番後ろを走っていたお爺さんが走り抜けていく。走り抜けながら腰の剣を抜くと、月明りを受け、白く光るロングソードが姿を見せた。まっすぐに伸びる美しい刀身。そのロングソードを目の前にかざし何やら呟くと、



「ふんっ」



 まだ距離があるというのに、通せんぼしている魔物達に向けて、剣を横に一閃する。僕でも簡単に視認できる、何の変哲もないただの横薙ぎ。それだけで、お爺さんは剣を鞘に戻し、そのまま魔物の間を通り抜けようとする。



 GYAGGYAGYAGA!!



 それを見た魔物達は嘲る様に笑うと、三匹の魔物のうち、仁王立ちした虎の魔物が、僕たちを通すまいと鋭い爪で、同じく太い足で立っているトカゲの魔物が,足よりも太い尻尾で、それぞれお爺さんを攻撃しようとした。



 GYWA!?



  ──が、その動きは途中で不自然に止まる。不思議そうに己の体を見る二体の魔物。


 その目には、自分の上半身と下半身が切り離され、徐々にずれていく姿が写っている事だろう。

 慌てて自分の体を繋ぎ止めようとする二匹の魔物。しかし、その行為を嘲笑うかの様にずれる速度は増し、ついには完全に上下が分断され絶命する!



 GURWU!?!



   体を半分にされた二体の魔物の死体を見て、残った熊の魔物が慌てて逃げ出そうと反転したが、上半身だけが後ろを向いており、反転した勢いで下半身から滑り落ちていった。



「……何が……?」 あまりの光景に、その出来事に、思わず足を止めかけてしまう。



「おじいちゃん、スゴーい!!」



 けど、サラの声で我に返った僕は、魔物の死体を飛び越えると、先を走るお爺さんに追い付き、横に並ぶ。

 三体の魔物を、たった一撃で屠ったお爺さんはブツブツと、「やはり衰えたのぉ」やら、「これじゃあいつの事は言えんな」等と呟いている。なんか納得していないみたいだ。



 そんなお爺さんに、隣に並んだサラは、



「おじいちゃん、強かったんだね~。私ビックリしちゃった!」



 と興奮していた。その目は尊敬の眼差しというやつで、キラキラと光っている。


 サラに褒められたお爺さんは、ガントレットを嵌めた手の平で後頭部をガシガシやりながら、「いやぁ、全然ダメじゃよ~」と、走りながら謙遜していた。器用な人だ。


(いやいや、あれで大した事無いって!?)


 魔物にすら届いていないただの横薙ぎ一つで、見るからに強そうな魔物を三体同時に、しかも一瞬で倒すなんて……。


(このお爺さんは一体何者なんだ? あんな事が出来るんだから、ただのお爺さんでは絶対無いはずだけど……)



「そうなの? でもまぁ、あの位なら私でも出来るしね♪」



 僕の思慮をよそに、平然とそんな事を言ってのけるサラ。え、サラもあんな事出来るの!? お兄ちゃん知らなかったよ? え、じゃあ、スライム一匹に苦戦した僕は一体……。



「ほー、サラちゃんも大したもんじゃのう」

「まぁね♪」



 走りながら落ち込む僕を尻目に、意気投合する二人。もしかすると僕は、凄い二人と一緒に居るのかも知れない……。



「よし! 次に魔物が出て来たら、どっちが先に倒すか勝負ね!」

「うむ、いいじゃろう。その誘い乗った!」



 挙句の果てには、勝手に勝負を始めてしまう二人。母さんが無事だと分かったからだろう。笑みを浮かべているサラ。さっき僕と永遠の別れになるかもと、泣いていたのに。



「二人共。村が大変な時に、それは不謹慎じゃないかな?」



 村全体が魔物に襲われているかは分からないけれど、さすがに二人を諫める。すると、村の状況を改めて理解したのか、



「……そうだね。ごめんね、お兄」

「うむ。ユウの言う通りじゃ。戯れが過ぎたわぃ」



 反省する二人。



「反省してくれればいいよ。じゃあ教会へと急ごう!」

「うん!」「うむ!」



 僕たちは再び走る速度を上げ、母さんの居る教会を目指すのだった。


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