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暗雲低迷

※ 21/2/25 改定 (誤字・脱字、および、一部の表現が適当なものでは無かった為、追加・修正しました)


 

「──な!?」



 理解が追い付かない。なぜお隣さんが燃えているんだ!?


 村に建っている家屋は全てが木造の為、火の不始末とかが原因で何年かに一回程度の頻度で、火事が起こる事がある。


 しかし、燃えているお隣さんは、火事とかそんな感じの燃え方じゃないのは一目で分かる。建物自体が覆われるほどの豪火。なのに、建物はあまり崩れていない事が、火が点いてからそんなに時間が経っていない事を表している。火の大きさに対して、建物の損害が合わないのだ。

 それに、普通の火事ならば爆発音などしない。せいぜい木がバチバチと爆ぜる程度だ。なのに、お隣さんからはさっきから断続的に爆発音が響いている。爆発が伴う火。そんなの、一つしか思い付かない。魔法だ!


 ―そして、普通の火事と決定的に違うのが、燃え盛る家の周りを覆う影。普通の家事だったなら、消火しに来た村の人だと思う所だ。だけど、そうは思えない。だって、火の明かりに照らされ浮かんだその影が、明らかに人だとは思えない形なのだ!

 人よりもはるかに背の低い影、腕が何本も生えている影、背中から羽根を生やしている影―。【魔物】だ。この間、森で遭ったスライムと同系列の忌むべき存在。それらがお隣さんの家を包囲している。まるで家から出てくる者を待ち構えているかの様に──。



「お(にい)!」



 その光景を、ただ驚きとともに呆然と見ていた僕の胸元に、サラが飛び込んで来た。僕の上げた声と、隣から聞こえる爆発音で目を覚ましたのだろう。



「何あれっ!? 私が寝ている間に何が有ったの!?」

「僕だって分からない……。一体何が……?」



 顔を上げたサラが僕に問うが、僕自身状況を飲み込めていないのだ。日常からかけ離れたその光景に、僕の思考は完全に止まっていた。



「──!? そういえばお母さんは?! お母さんは何処にいるの!?」



 サラがきょろきょろと家の中を確認する。そうだ、母さんだ! 今、家に居ない母さんの事をすっかり忘れていた!



「もしかしてお母さん、お隣さんに居るんじゃないの!?」



 サラの叫ぶような声とその内容に、僕の全身が震えあがる。昨日、お隣さん家で色々話していた母さん。今日だってお隣さんにお邪魔しているかも知れない!



「お兄、どうしよう!?」



 目に涙を浮かべるサラ。僕は再び窓を見る。お隣さんは変わらず燃え盛っており、周りに居る魔物の動きにも変化は無い。もし仮に、母さんがあの家の中に居たとして、今の僕たちに一体何が出来るというのか?!

 水が有れば火は消せる。そして、人手に関してはこの火と煙だ、他の村の住人もこの火事に気付いてくれるだろう。人手が有れば、手遅れになる前に、母さん達を助け出す事が出来るかも知れない。


   しかし、あの魔物達はどうするのか? 先日、やっとの事で倒したスライム。そのスライムよりも遥かに強そうな魔物達を相手にして、果たして何が出来るというのだろう。

 だからといって、母さんが中に居るかも知れない可能性があるのに、このまま何もしないという事もまたあり得ない。それに、あの魔物達が僕たちの家を襲わないなんて保証は、何処にも無いのだ!


(どうする?どうすれば良い?)


 その時、服の胸元をぎゅっと掴まれる。



「お兄ぃ……」 サラが不安げに見上げる。その目からは、今にも涙が零れ落ちそうで──。



(……そうだな、これしか無いな……)

「……サラは、今すぐここから逃げるんだ。そして、村長さんの家に行って、助けを呼んできてくれ」

「お兄はどうするの?」



 服を掴むサラの手に力が増す。どうやらこの後に、僕が何を口にするか分かっているのだろう。さすが村一番の才女である。


 僕はサラの手に自分の手を重ねて、サラの顔を真っ直ぐに見つめて、



「……僕はお隣さんの様子を見てくる」

「そんなの、絶対魔物に見つかっちゃうよ!? 見つかったら殺されちゃうよ!」

「あの中に母さん達が居るかも知れないのに、このままここから逃げられないよ」

「じゃあ、私も行く! 私の魔法で魔物を————」

「いや、サラは村長さんに状況を説明して、自警団を連れてきて欲しいんだ!」



 この村に国が管轄する警備団は居ない。もっと大きな街、隣街のイサークなら居るだろうが、犯罪もめったに起きず、ほとんど魔物が出現しないこの村には、警備団が常駐する理由が無いのだ。せいぜいが、熊や狼、畑を荒らす猪が出た時や、スライムなどの弱い魔物を討伐する時に組まれる、村の大人たちで構成された自警団くらいだ。


 しかし、自警団だからといって弱いという事は無い。自警団には、学校の先生達も参加するのだが、学校の先生の中には、戦士や魔法使いのジョブを持った元冒険者がなる事が多い。そんな先生達が自警団として魔物退治を依頼される事があるのだ。これは国の方針でもあり、先生達が警備を兼任しているのである。

 先生達のカテゴリーは2か3。それに比べ、僕達生徒のカテゴリーは1か2。熟練度を示すレベルも先生達が30前後、僕たちが5~10位なのでかなり強い。この状況を打破する為には、学校の先生の力が必要不可欠である。


 もちろん、学校の先生を呼びに行くサラだって危険だ。今お隣さんを襲っている魔物達が、サラに気付いて襲ってくる可能性だってあるし、学校に行く途中にも魔物が居るかもしれない。

 それでも、ここで二人一緒に居るよりもずっとマシだと思った。僕達二人だけであの魔物達に勝てるとは思えないからだ。いずれ見つかり、殺されてしまうだろう。だったら──。



「嫌!サラも戦う!!」



 だが、サラは駄々をこねる様に首を振る。サラのはっきりしたカテゴリーやレベルは知らないが、スペルマスターであるサラも充分戦力になる。それこそ学校の先生にも見劣りしないだろう。もしかすると、僕たち二人で何とかなるかもしれない。

 しかし、今は一刻を争う! だったら、より確実な方法に賭けたい。母さんの命が掛かっているのかもしれないのだから。サラの気持ちも分かるが、今はその気持ちを汲む時間は無い。



「サラ!」



 サラの肩がビクっと震える。そのサラの両肩に手を置いて、



「……サラ、お願いだから僕の言う事を聞いてくれ。これしか方法は無いんだ。……大丈夫、僕は死なないよ。見付からない様に、コソっと遠目から様子を確認するだけだから」



 サラを諭す。僕を見るサラの目にも諦めの色が見える。きっとサラ自身もそれが最適だと分かっているのだろう。本当に頭の良い妹だ。


 腕で目をグシグシと拭ったサラは、僕を見て、



「……絶対。絶対、無茶しちゃ駄目だからね! 遠くでこそっと見るだけだからね!?」



 と、念押ししてきた。



「あぁ、分かってる。僕も死にたく無いからね」

「約束、だよ?」

「あぁ……」



 サラを無意識に抱き寄せる。サラは驚いたように身体を固くしたが、やがて僕の背中に両腕を回してくる。



「————お兄、死なないで……」

「うん。サラも気を付けて」



 そしてサラと離れる。その姿を瞼の裏に焼き付ける様にお互い見つめ合う。これで会うのが最後になるかも知れないのだ。別離の空気が僕とサラに流れる。


 そんな時、



「————あ~、ごほん」 玄関から咳払いが1つ聞こえる。


 突然の物音に魔物が家に入ってきたのかと思い、僕もサラもひどく驚く。しかし、そこに立っていたのは、今まさに炎上中の家の主である、隣のお爺さんであった。


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