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233話

 

 赤い警告の光が辺りを染め上げる中、姿を変えたガーディアンが体勢をググっと下げる。かなり小さくなってしまったので、体勢を下げるとグッドベリーさんとそんなに変わらない位の身長しかないんじゃないか?


 そして、その大きさもさることながら、一番目に付く変化はその両腕だ。

 赤い警告灯の光を跳ね返すその銀色の両腕は、肘の先からはまるで両刃の刀の様に変形していた。触れただけで切られそうな鋭い刃がまっすぐに伸びているその腕は、さっきまでのガーディアンには無かった物で、明らかに危険度が増していた。



「……せっかく両腕を斬ったというのに、ね」

「アカリ……」



 二つの赤い目しか残っていないガーディアンの顔を睨みながら、アカリが呟いた。



「かなり強そうだよな……。やれるか……?」

「やるしかないわ、ユウ……。あの老人も言ったでしょ? これが最後だって」



 汗が頬を流れる。ガーディアンから目を離せない。あのガーディアンから放たれる圧のせいだ。小さくなったから戦いやすくなったと考えるのは止めよう。そんな単純じゃない、アイツは。



「そう、だね。でも、やれるか? アカリだってそんなに魔力が回復していないんだろ?」



 チラリとだけアカリに視線を向ける。そのアカリは握っていた《姫霞》をチャリっと鳴らして正眼に構える。



「そうね、あまり無いと思うわ。でもやるしかないのよ」

「……そうだね」



 休んでいるだけでも少しずつは回復するけれど、魔力は本来、グッスリ寝ないと完全には回復しない。だから僕もアカリもほとんど魔力を回復しないまま、あのガーディアンと戦うのだ。辛い戦いになるのは目に見えていた。



『その諦めの悪い所も私は好きですよ……。では私から一つだけあなた方に有意義な情報を差し上げましょう。アラン君たちが相手にしているガーディアン達ですが、今は活動を停止しております。というのも、そのファーストがその姿になった今、他のガーディアンを稼働させると、コアの負担が増してしまうのです。なので、これ以上アラン君たちに危害が及ぶ事はありませんよ』

「……」



 ネイチャーさんの言った内容は素直に嬉しい。今の僕たちには、他を気にしている余裕は無いからだ。……ネイチャーさんの言う事が本当なら、だけど。



『さぁ、参りましょう! 私はあなた方の勝利を期待していますよ?』



 ドンッ!



 ネイチャーさんの言葉を受けて、体勢を低くしていたガーディアンが床を蹴り付け、こちらに突っ込んできた! は、速い!


 ギイィイン!


「アカリ!」

「取り合えず私が抑えるわ!」



 突進と共に振り下ろしてきた右腕を、《姫霞》で受けたアカリが僕を見ないで叫ぶ。



「抑えるって、その後はどうする!?」

「さっきまでとやることは同じよ! 何も変わらない! 私があの木偶人形を相手にしている間に、ユウがあの木偶人形に引導を渡す魔法をぶち噛ますの! 行くわよ!」

「分かったよ!」



 ギリギリと鍔競り合うアカリにそう返すと、急いでその場から離れる。情けないけれど、その場に居てもアカリの足手纏いになるだけだし、僕には僕の間合いがある!


(任せたぞ、アカリ!)


 ある程度二人から距離を取った僕は振り返る。すると、振り下ろされたガーディアンの右腕を受け止めたまま、アカリがその黒い髪を紅く染めていく。



「さっき私にやられたのを覚えていないのかしら?



 刃の様に鋭い腕先を受けて、冷たく笑うアカリ。その自信も分かる。忌み子化したアカリはあの巨大なガーディアンを圧倒していた。力でも速さでも。だけど──



「──え?」



 アカリの戸惑う声。見れば、ガーディアンの腕が徐々にアカリの顔に近付いていた。ギリ! ギリッ!と両手で柄を握り締めて必死に抵抗するが、それでも現状を維持するので精一杯だ。



「くっうぅ!」

「アカリぃ!?」



 アカリの上げる苦々しい声。忌み子化したアカリにも負けない力に加え、さっきの突進の速さは、前までのガーディアンを遥かに超えていた。そして、殴る、蹴るなどの体術しか攻撃方法が無かったガーディアンのその両腕には、変形によって得た刃。



「こ、こんなはずじゃあ……」



 必死に《姫霞》を押し込んでいくアカリ。だがその位置は、先ほどよりもアカリ側へと動いていた。そしてガーディアンは右腕を押し込みながら高々と左腕を上げると、加勢する様に自分の右腕へと振り下ろす! マズい! あれは受け切れない!!



「逃げろ、アカリ!」

「ふっ!!」



 僕の声とアカリが動いたのはほぼ同時だった。アカリは気合を込めた息を吐くと、ガーディアンの体を蹴り付けて、咄嗟に脱け出す。


 ガァアァン!!


 アカリが抜け出した直後、振動を伴った轟音が辺りに響いた! ガーディアンの両腕が、鉄の床をまるで粘土の様にひしゃげさせていた! う、ウソだろ……!



「もう! 一体なんなのよ!」



 僕の隣まで来たアカリが悪態を吐きながら、自分の腕を擦る。力を入れ過ぎて強張ってしまったのかもしれない。



「気を付けて、アカリ! アイツは今までのアイツじゃない! とんでもなく強い!」

「それって、あの鬼よりも……?」



 アカリの言う鬼とは、アイダ村を襲ったオーガの魔物であるゴンガの事だ。



「多分。力はゴンガの方が上だろうけれど、速さは間違いなくあのガーディアンの方が速い!」

「……私も同じ意見だわ」



 ガーディアンを睨み付けるアカリの頬に、汗が流れていく。速さと手数で相手を圧倒していくのがアカリの戦い方だけど、その速さで圧倒出来ないとなると、正直厳しい戦いになるだろう。



「とにかく無茶はしないで! あのガーディアンを引き付けてくれれば良い! その隙に僕が必ず〈ファイアランス〉をぶち当てる!」

「鍔競り合うのすら結構キツいのに、無茶言うわね。まぁ、解ったわ──、え?」



 軽い文句を返して立ち上がろうとしたアカリだったが、ガクンっとつんのめってしまった。見れば赤い髪の所々が黒く変わっている。もうアカリの魔力が切れかけている証拠だ。



「もう魔力が!? くうっ!?」

「アカリ!」



 片膝を突いて、苦し気に呻くアカリに寄り添う。ハァハァと肩で息をするアカリの顔を覗き込みながら、



「アカリ、無茶だ! 止めよう!」

「無茶かもしれないけれど、無理では無いわ」

「でも──」



 なおも詰め寄る僕の口に、アカリがそっと指を添えた。



「確かにあまり無茶出来ないかも……。だから──」



 そっと指を離したアカリが、《姫霞》を握り締めてグググっと立ち上がる。



「私がやられる前に頼むわよ、ユウ!」



 そう言ってダッとガーディアンへ駆けて行く。その後ろ姿を呆然と見送った僕は、ハッと我に返ると、ガーディアンへ《姫霞》を振り下ろしていくアカリを見る。やはり明らかに動きが遅くなっていた。間違い無く魔力切れの影響だ。


 それに比べ、ガーディアンの速さは全く衰えていない。今もアカリの振り下ろしを、余裕を持って躱し、右腕をアカリの左脇腹目掛けて振っていく。それを何とか躱したアカリは、苦しそうに息を吐きながらも、足を動かし、ガーディアンを翻弄しようと足掻く。が、実力通りの速さを発揮出来ていないアカリの速度を超える動きで、逆にアカリを翻弄し始めるガーディアン。


(思った以上に速い!)


 あれだけ速いガーディアンに、いくら大きくてもまともに〈ファイアランス〉を当てられる自信が無い。それに


(遥かに強くなったアイツに、果たしてファイアランスが効くのか!?)


 今の姿になる前のガーディアンにファイアランスを当てた時には、焦げ跡を残す事が出来た。だけど、明らかに強くなった今のガーディアンに、果たしてファイアランスが通用するのか!?


 悩む。アカリだけでは無く、僕の魔力も限界に近い。この一発でアイツを倒せなかったら、外したら、その時、僕たちは終わるっ!


 だが、目の前の状況が、僕から悩む時間を簡単に奪っていく。髪色がほぼ黒く戻ってしまったアカリの横薙ぎを簡単に躱したガーディアンが、アカリの握っていた《姫霞》を蹴り付けたのだ。



「きゃあ!?」



 《姫霞》を離さなかっただけでも凄いが、それでもその攻撃でアカリは思い切り体勢を崩す。そこにすかさず乗り掛かるガーディアン。



「くっ! このぉ!」



 仰向けに倒されたアカリは、乗り掛かってきたガーディアンに対し、下から《姫霞》を突き入れるが、ガーディアンはそれを気にせずアカリを抑えつけようとする。このままではアカリがやられてしまう!



「〈世界に命じる!!〉」



 あれこれ考えても仕方ない! 覚悟を決め、詠唱を開始する。だけどつき纏う不安。それを払拭しようとすればするほど、不安は大きくなっていく。


(当てる当てる当てるっ!!)


 杖に通した魔力が詠唱に反応し、蠢く。それを意識しながら、〈ファイアランス〉を発現させ、ガーディアンに当てる事だけしか考えない! 余計な事は考えない! そうしたかったけれど、


(くそっ! 頭が!)


 さっきからガンガンと、まるで近くで大鐘が鳴っている様な音が響き、激しい頭痛が定期的に襲ってくるせいで、まともに考えられないのだ。


 すると──


 ──それで、いいのか……


(な、なに!?)


 不意に聞こえた声。続けて──



 ──当てられるのか……

(だ、誰だよ!?)


 思わず問い掛けてしまったが、僕は分かっていた。たぶんそれは、アカリの窮地と不安が重なって生まれた弱い自分だと。その弱い自分が呟く声だと。


(じゃあ、どうしろって)


 こんな大事な場面なのに、こんなにも自分は弱いのかと理解し腹が立つ。正直面白くない。が、その声の方が正しいと直感が訴えてきた。でも、他に一体何が出来るって言うんだよ!


(火の魔法だって、やっとファイアランスが出来たんだ! それ以上の魔法なんて知らない──、いや、待てよ……?)


 駄々を捏ねる気持ちを押さえて、急いで頭を切り替える。ファイアランスを超える火の魔法。僕はそれを見た事があった。それはあのケルベロスとの戦いで見た、圧倒的な数の暴力!



「〈火を生み出し──〉」



 あの時の事を思い出して紡ぐ詠唱。そりゃそうだ。だって、これから唱えようって魔法は、授業はおろか、教科書にも載っていなかったのだから。



「〈──舞い踊れ!〉」



 あの時のサラの言葉に自分の言葉を重ねる様に、詠唱を紡ぐ。それは、最初に唱えようとしていたモノでは無く、もう一つ上の魔法──!



 杖に籠めた魔力が、今まで感じられない程に滾っていく。その圧倒的ともいえる熱量を力あるものに変えるべく、僕は詠唱を完結させた!



「──〈ファイヤソウル〉!!」


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