終わりの始まり
※ 21/2/25 改定 (誤字・脱字、および、一部の表現が適当なものでは無かった為、追加・修正しました)
「……ん……」
目を覚ました後も、今見た夢の内容が頭にしっかりと残っていた。あれは一体何だったのだろうか……? ここ最近色々な事があったせいで、頭が現実逃避でもしてしまったのだろうか。
(それにしては色々と現実的だったなぁ。特にあの女の子。……可愛かったな)
ベッドから起き上がり周りを見回す。辺りはすっかり暗くなっていた。すっかり寝てしまったようだ。
(取り合えず、リビングに行くか。誰か居るかもしれないし)
ガチャリと扉を開け部屋から出ても、家の暗さは変わらなかった。母さんはまだ家に帰ってきて居ないようだ。
リビングに入り灯りを点ける。真ん中のボタンを押すと光るランプ型の魔道具で、魔物から取れる魔石を、ランプ状の容れ物に入れてボタンを押す事によって、入っている魔石が押した人の魔力に反応して光る仕組みになっている。安価な為、どこの家でも使われている魔道具だ。
灯りを点けたが、誰も居ないリビングに暖かみは感じられなかった。むしろ灯りが発する白色のせいで、寒々しさすら感じる。
「……サラはまだ部屋に居るのかな?」
テーブルの上には何も置かれていない。はっきりした時間は分からないが、お腹の空き具合から察するに、いつもの夕飯の時間は過ぎているんじゃないか。すると、思い出したかの様にグ~と鳴るお腹。人間、生きているだけでお腹は空く。最近色々有り、少なくない問題も抱えているというのに、その音が僕に日常を感じさせ、苦笑してしまう。きっとサラもお腹を空かしている事だろう。
(そうだ、お腹が空いてると碌な事しか考えない。まずは腹ごなしをしよう。うん、それが良い!)
サラと一緒に夕飯の準備をしようと、サラの部屋に行く。そして部屋の前に立ち、ノックした後に声を掛けた。
「サラ、お腹空かないか? 何か食べよう? そろそろ部屋から出てきたらどうだ?」
しかし、何の反応も無い。再度ノックをしながら、
「おーい、サラ、聞こえてるか~?」
と問い掛けるも、やはり反応は返ってこなかった。
「寝てるのか?」 ドアノブを回すと、鍵が掛かっていないのか、ドアは簡単に開いた。
「入るぞ?」 そう一声掛けて、部屋の中に入る。元々、両親の部屋だったこの部屋に入るのは久しぶりだ。部屋にはベッドが2台と化粧台、小さな衣装タンスがあるだけのシンプルな部屋だ。
そのうち一つのベッドの布団が盛り上がっている。サラがそこで寝ているのだろう。寝息に合わせてだろうか、布団が規則正しく上下に動いていた。
「おーい、サラ……」
ベッドに近づき、サラの顔を見る。サラリとおでこに掛かる栗色の髪。その下にある目の辺りが赤くなっている。きっと泣き疲れて、寝てしまったに違いない。サラを起こそうと布団に手を伸ばした時、
「……ママ……、行かないで……」 サラの寂しげな寝言とともに、長いまつ毛に涙が溢れ頬を伝う。思わず手を引っ込めた。
──思えば、サラは寂しがり屋だった。小さい時はいつも、僕か母さんの後ろを常に付いて歩く位に。学校に通う様になって、スペルマスターと持て囃されても、サラの本質は寂しがり屋のままなのだ。
僕がカールに負けて部屋から出て来なかったり、母さんが突然家を空ける様になったりと、最近のサラを取り巻く状況が、サラの心に、思いの外負担を掛けていたに違いない。
(……ほんと不甲斐ないお兄ちゃんでごめんな……)
サラの頭を優しく撫でる。さらさらと流れる髪が心地良い。
(よし、サラを起こして一緒に腹ごしらえをしたら、母さんに何が起きているのかちゃんと聞こう! そして、僕たちに何か手伝えないか、力になれないか聞こう! 僕たちは家族なんだ! 今までだって助け合って生きてきたんだ! そう、今までやってきた事と同じなんだから簡単だ。そして早く問題を解決して、また元の生活に戻るんだ!)
そう決意をした僕は、早速夕飯を作る準備をする為、部屋を後にする。サラは夕飯が出来てから起こせばいいや。
部屋の扉を閉める間際、もう一度サラの様子を確認しようと振り向いた僕は、信じられないものを目にした。
部屋に一つだけある窓。そこから見えるお隣さんが、赤く燃える炎に包まれていた。そして「ドオン!」という爆発音。
「……え?」
状況が理解出来ず、少し呆けてしまった。
――その日、アイダ村に終末が訪れた――。