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224話

 ★  アラン視点  ★



「うわぁ!?」



 我ながら情けない声を上げちまった。が、それも仕方ねぇ! 誰だって、目と鼻の先を鋼鉄の剛腕が唸りを上げて通り過ぎりゃあ、悲鳴の一つや二つは上げるってもんだぜ。




 坊主を嬢ちゃんの元へと向かわせ、俺とシーラとで新たな現れたガーディアンの相手をする事になったんだが、ちと問題が多すぎた。



「もう! もう少し粘りなさいよ!」

「バカ野郎! こっちはさっきまで死にかけてたんだぞ!」



 まるでガーディアンへ生贄を差し出すかの様に、俺の背中をグイグイ押してくるシーラに文句を言うが、背中を押す力に変化は無かった。



「だから、なんで俺が前に立ってこんなアブねぇ事をしてんだよ!」

「しょうがないでしょ! ガーディアンの攻撃を受けすぎて、私ももう限界なんだから!」



「見なさい!」とすごい剣幕で右側のスーツの袖をめくっては、その下にある、赤く腫れた細腕を俺へと見せ付けて来る。シーラの得物は手甲だ。それは”裏”の実行部隊に居た時から変わっちゃいねぇ。その手甲で、今まで数多くの憲兵やセキュリティを破ってきた。

 が、少し離れたでブシュウ!と勢いよく蒸気を吐き出すガーディアンの攻撃を受け切るにはちっとばかし強度が、そして何よりシーラ自身の筋力が足りなかった様で、両腕に嵌めていた手甲の内、右手の手甲がヤツの前蹴りを受けた際、割れてしまったのだ。それが問題その一。



「良かったじゃねぇか、折れてなくてよ?」

「折れていたら、私はあなたの足を折ってガーディアンの囮にして、ここから逃げているわよ! ──来たわ!」



 手甲ではなく俺を盾にするシーラに背を押されながら前を向くと、不気味な赤い目で俺たちを見るガーディアンが、その鋼鉄の腕をグルグルと振り回しながら、こちらへと突進してくるところだった。



 BSYUUU!!

「うおっ!?」



 グルグル回していた腕を俺たちの目の前でピタリと止めると、思いっきり腕を横に伸ばし、ラリアットをかましてくるガーディアン。

 食らうどころか、掠っただけで首を持っていかれるだろうその重圧を、これまたすんでの所でしゃがんで躱すとそのまま後ろを向き、立ち上がりざまにシーラを抱きかかえる。



「ちょっ!?」

「良いから離れるぞ!」



 所謂お姫様抱っこという奴でシーラを運ぶと、最初は抵抗していたシーラだったが、プイと顔を逸らして大人しくなる。良く見れば、耳が真っ赤だ。



 そしてある程度距離を取った所でシーラを下ろすと、乱れた髪を耳に掛けながら、



「あ、ありがと……」

「お、おう」

「で、でもなんで逃げるの!? あんな大振り、簡単に躱せるでしょ!?」

「バカ言うんじゃねぇ! 見ろ! 前髪が何本か持っていかれたぞ!?」

「そんな物どうせすぐに生えるわよ! それよりも次、来るわよ!」



 短くなっちまった前髪の数本を指で摘まみながら、シーラへと見せ付ける。が、うざったいとばかりに俺の頭を掴むと、そのままグリッと無理やり振り向かせた。

 懐かしい空気だ。昔はこうしてお互いケンカしながら、どうにかこうにか任務をこなしていたっけな。


 ──だが、それとこれとは話が別だ! 



 俺の頭を掴んでいた両腕を払うとシーラへと向き直り、人差し指を突き付ける。



「うるせぇ! 元はといえば、お前が【両牙】を忘れちまったのが悪いんだろうが!」



 “両牙”とは、俺とシーラが一緒に考えた技の名前だ。”裏”の実働部隊に居た時、俺たちはこの技で数多の任務を成功させ、そのことで組織から一目置かれ、実働部隊の中でも通り名で呼ばれる様になったのだ。


 だが、こともあろうにシーラの奴は、あれほど一緒に繰り出してきた両牙を忘れたと言い放ちやがったのだ。これが問題その二だった。



「だって仕方ないでしょ! 私が”裏”から抜けて何年経ったと思っているのよ! それに、階長をやっていると、色々な事を覚えておかなきゃいけないの! 覚える事がたくさんあるのよ! 二度と使わない技の為に、脳みそのスペースを空けて置くことなんて出来ないのよ!」



 自分に突き付けられた人差し指をギュッと掴むと、こっちに向けるなとばかりに逆関節を決めるシーラ。



「いだだっ!」

「男なんだから、細かい事を気にしないの! 私だって色々と大変だったのよ!」

「だからお前が思い出すまでの間、俺がガーディアンの相手をするって言ったじゃねぇか! だから早く思い出しやがれ!」

「そんな風に焦らされたら、思い出す物も思い出せなくなるでしょ! 良いからアラン一人で倒しなさいよ!」

「それが出来りゃあ苦労はしねぇんだよ!」



 シーラに一通り怒鳴った後、勢い良く振り返る。が、ガーディアンはその背後からゆっくりと蒸気を吹き出すだけで、動いちゃいなかった。なんだ、蒸気でも切れやがったか? まぁ、何だって構わねぇ。ヤルなら今だ!


 魔力で作った黒槍をガーディアンに向けて構えるが、それを見ても動きを見せないガーディアン。良い子だから、そのまま動くなよ?



「待ってろ! いま、どうにかしてやっからよ! なに、ヤツの弱点は分かってんだ! ガーディアンが攻撃してくる時、関節部分に隙間が開く! そこを狙って──」

「いいえ、それは下策よ!」



 足に力を込めガーディアンへと突撃しようとした時、シーラにクイッとジャケットが引っ張られる。



「あぁ? なんでだ?」

「このバクスターのコアを守る守護者たるガーディアンが、弱点をそのままにしておくと思う?」



 頭だけを動かしてシーラに振り返ると、シーラは動かないガーディアンを凝視しながら訊く。



「言われてみれば……」

「でしょう?」

「ちっ! じゃあ、ヤツが動かないのはワザとかよ。ムカつくぜ!」



 俺をおびき寄せ、肩関節を狙わせた所を殺ろうって魂胆だったのか。 ったく、人間様を舐めるんじゃねぇ!



「落ち着きなさい。良い? よく聞きなさい。ガーディアンの弱点は関節部分ではなく、蒸気を放出する為に背中に付いている排気機関よ!」

「排気機関?」



 ガーディアンへと視線を戻す。動きを見せないガーディアンの背後から、不定期に吹き上がる蒸気。ここからじゃあ見えないが、たしかにヤツの後ろにはダクト状に排気孔があったな。あれがシーラの言う排気機関か。



「えぇ。そこを破壊すれば、無駄な蒸気を放出出来なくなって、内部の圧力が上昇。破壊出来るわ」



 背中越しにアドバイスをくれるシーラ。が、一つ疑問が浮かんでくる。



「なんでそんな事を知っている? ……まさか、キャビダルか?」

「焼きもちを焼いてくれるのは嬉しいのだけれども違うわ。階長として勉強した事の中に、ガーディアンに対する資料も存在していたの。それを読んでいただけよ?」

「とんだ偶然もあるもんだな?」

「疑うのは勝手だけれど、それが事実よ。それともキャビダルと肌を重ねて聞き出した方が良かったかしら?」

「……言ってろ」



 何故か嬉しそうに語るシーラにヤレヤレと短く息を吐く。すると、動かない俺たちに痺れを切らしたのか、ブシュウ!と激しく蒸気を吹き上げたガーディアンが、ググっと重心を下げたのが目に入った。



「来るわ!」



 背中越しに見たシーラが警戒の声を上げる。それに無言で頷くと、ニヤッと口許を上げて、



「んじゃ、両牙を背中の排気機関に一発くれてやろうぜ!」

「全く、少しも時間をくれないんだからっ!」



 後ろから響く文句を受け、ガーディアンへと向かって行く。

 が、それよりも早くガーディアンが体勢を低くしたまま、こちらへと駆けてきた!



 SYUU!

「ちぃ!?」



 一気に縮んだ互いの距離。そして、ガーディアンの放つパンチと、俺に突き出した槍が交差する!



 ギィイイン!



「シーラ!」

「人使いが荒いわね!」



 ガーディアンのパンチを黒槍で逸らすと、背後にあった気配に呼びかける。すると、その気配に魔力が重なり──、



「【ペサード】!」


 ガギイィ!


 茶色に染まったシーラの手甲が俺の身体を避ける様に伸び、逸らされたパンチで体が伸び切っていたガーディアンの顔面を強打する! 

 シーラの得意技の一つ、魔力を乗せた手甲による重い一撃によって、鈍い音と共にガーディアンの顔が捻り上がる。よし、イッた!!



 そのままガーディアンの横を駆け抜けると、すぐさま振り向く。そこには、シュ! ブシュ!と短く蒸気を吹き出すガーディアン。その頭は見ていて気持ちが悪いほどに明後日の方を向いていた。

 普通の生き物ならば、これでお終いなんだが……。


 そんな俺の期待を裏切る様に、ガーディアンはその腕を頭に伸ばすと、ギギッギ!と嫌な音を立てながら、頭を正常な位置に戻していく。ちっ! やっぱ、簡単にはいかねぇか。


 俺は一緒に駆け抜けてきた、横に立つシーラに横目をくれる。



「ヤベェ位に首が曲がってたんだがな。それよりどうだ? 少しは昔の勘が戻ってきたかよ!?」

「えぇ。腹立たしいけれどね」



 今だに茶色に染まる手甲を見つめるシーラ。シーラが魔力を使う所を見たのは“裏”以来だろうか。



「……“両牙”、いけそうか?」

「えぇ。今ので感覚が戻って来たわ。殴り壊す感覚が、ね」



 右手でそっと手甲を撫でる。その顔は影になって見えないが、おそらく笑っている。



「そいつは結構だな。んじゃ、俺は右から行く。シーラは左から頼む!」

「えぇ! タイミングは任せるわ!」

「あぁ!」



 返事を返すと、首を戻し切って再び重心を低くしたガーディアンに向けて疾走する!

 俺らの動きを見て、迎え撃とうとするガーディアンは、その両腕を俺とシーラそれぞれに伸ばしてきた。



 が、それを寸前の所で右に跳躍して躱す! 高く飛び上がった俺の目に飛び込んできたのは、少し歪みが出来ていた頭と、熱によって少し赤くなった銀色の二つのダクト。──あれだ!



 首を巡らす。すると、ガーディアンを挟んだ向こう側に、俺と同じようにしてガーディアンの腕を回避したシーラの姿。


 そのシーラと目が合うと、俺は黒槍を思い切り引き込む。空中で足場が無く、踏ん張りが効かねぇが仕方無ぇ!


 引き込んでいた黒槍に魔力を纏わし、思い切り突き出す! 放つは“月牙”! 狙うは左側のダクト!

 対する向こう側から、シーラの気配と魔力が膨らむ。シーラも“ペサード”を放った様だ! よし! タイミングばっちりだぜ!


 ゆっくりとガーディアンの首が上を向く。へっ! 遅ぇんだよ!



「「両牙!!」」



 乗せた魔力で威力を増した月牙による黒槍の矛先が、ガーディアンの背中に張り付いている大きなダクトに突き刺さる! チラリと顔を横に向けると、シーラの手甲がもう一つのダクトをひん曲げていく! 月牙とペサードの同時攻撃! それこそが“両牙”だ!



 SYUBYUUU!!



 穴が開き、ひん曲がったダクトから蒸気を噴き漏らすガーディアン。シーラがダクトを歪ませたせいか、噴き出た蒸気がまるで悲鳴の様な音を上げる。



「やったか!?」



 ガーディアンの背後に着地した俺はバッと顔を上げて、鋼鉄で出来たその背を見る。

 俺の月牙が突き刺さったダクトには穴が開いてはいるが、ガーディアンはその穴から蒸気を噴き出しているのに比べ、シーラがペサードを叩き付けたもう一方のダクトは排気孔は潰れていて、ほんの僅かな蒸気を漏れ出しているだけだ。ちっ! シーラの方が上手くやったって事かよっ!



「アラン! 油断してはダメ! まだよ!」



 少し離れた所に着地したシーラが、同じ様にガーディアンを見ながら警戒する。と、その時──!



『……システム、もしくはプログラムに問題が発生しました』

「うお!? なんだ!?」


 急に鳴り出した警報と警告音に、思わずビクリと肩を震わす。



『侵入者の排除の為、全てのリミッターを外します。職員、関係者は直ちに退避してください。繰り返します。侵入者の排除の為──』

「どうなってんだ、一体!?」

「……最悪だわ……」



 キョロキョロと辺りを窺う俺の元に、青い顔をしたシーラがやってくる。その顔を見るに、良い予感が全くしない。



「どういう事だ、シーラ!?」

「ガーディアンが、本来のスペックの全てを解放するって事よ」

「──おいおい……。って事はアレか?! コイツは──」



 頬に冷たいナニかが流れて行く。否定して欲しいぜと思いながらも、どこかでそれが事実だと認識しちまった。



「──えぇ、その通り。ガーディアンはさらに強くなるわ」


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