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ガーディアンvsグッドベリー

初めての三人称視点です。


お気に召しますかどうか……。

 

「ふっ!」



 煌めく鈍色の光と共に吐かれた気合が、配管から吹き上がった水蒸気を僅かに揺らす。が、女傑の気合の込めたトンファーの一撃は、内部の熱機関で発する水蒸気で動くガーディアンの金属の体にヒビ一つ入れる事さえ叶わなかった。



「くっ、これほど固いとは!」

「退いてぇ」



 右手に走る痺れに眉根を歪ませているグッドベリーの背後から、勢いよく飛び出す影。



「しっ!」



 クライムにしては珍しく意気を込めたサーベルによる一撃。その狙いはガーディアンの肩関節。確かにそこには、構造的な隙間が確認出来る。が──、



 BSYU!

「うわっ!?」



 そんな攻撃は許さないとばかりに、ブシュっと背後にある配管から蒸気を勢いよく吹き出して腕を上げ、クライムの一撃を受けるガーディアン。その動きは、己の弱点をハッキリと認識している動作だった。

 しかもそれだけでは終わらない。攻撃を防がれ、宙で無防備となっているクライム目掛け、振り上げた腕を今度は振り下ろしていく。



「え。ちょっと!?」



 これにはさすがのクライムも、いつもの間延びした言い回しをする余裕は無く、少しでもダメージを押さえる為にサーベルを己の体の前に差し込むだけで、精一杯だった。



「ぐうぅ!?」

「クライム!?」



 重い金属腕の一撃を受け、冗談の様に吹き飛ばされたクライムは、その先にある金属製の配電盤や制御盤を二つ三つ倒して、ようやく止まった。



「……がはっ……」



 屑と化した金属の山に半ば埋もれたクライムがせき込むと、赤い物が口から溢れる。己の体術の限りを尽くして何度か受け身を合わせたが、それでも全ての衝撃を殺す事は無理だった様で、少なくないダメージを負ってしまう。



「クライム! 大事ないか!?」

「……返事、するのも今は、辛いかなぁ?」

「なら黙って、回復に専念しろ! 薬液は持ってきてるな!?」

「はいぃ。でも今は、取り出すのもぉ、飲み込むのもぉ、辛いかなぁ?」

「だから休んでいろと言っている!」



 赤い光を目に宿わせたガーディアンから一切目を離さずに、グッドベリーはクライムへと指示を出す。そして、思いのほか頑丈に出来ていた、部下の中で一番の問題児からの返答に嘆息すると、己が装備していた両のトンファーをかち合わせ、ガーディアンを睨み付けた。その視線の先にあるのは、クライムの狙った肩関節部の隙間──。


(さっきのクライムの狙いは悪くは無い。鋼鉄で出来た外甲殻に生半可な攻撃は効かんだろう。ならば狙いは関節、その隙間にある。が──)


 グッドベリーはそこで、さきほどのガーディアンの動きを思い出す。腕を素早く上げ、己の弱点である関節を庇ったあの動きを。


(あの速さで防がれるのだ。おそらくシステムに組み込まれているのだろう。その速さを超えなければ、ガーディアンの関節には届くまい)


 それは途方もなく難しく感じた。先ほどのクライムの飛び出しからの一撃は、ほぼ完璧なタイミングだったのだ。だが、ガーディアンはそれすら対応してきた。


(自らの技の速さはクライムのそれとそう変わらない。なら、ガーディアンの防御反応を超えるのは無理、か)


 冷静に単純に、己の力量を判断したグッドベリー。その顔に浮かべたのは悲嘆──では無く、肉食獣を彷彿とさせる、獰猛な笑み。


(あぁ、久々だ……。この感情は……)


 挑む──。久しく、名前すらも忘れかけていたその感情が、乾いていた心に火を宿す。ガーディアンの目に浮かぶ赤い光に負けない位の赤き熱を、自分の目から感じる。



「くふっ……。くふふ」

「……憲兵長ぅ?」



 グッドベリーの口から漏れ出る不気味なほどの笑みを聞き留め、訝しむクライム。だが、グッドベリーは気にしない。いま一番大事なのは、目の前に居る相手を壊す事のみ。



「ふふふっ♪」



 まるでぬいぐるみを与えられた少女の様な可愛らしい笑みを吐き、ユラリとガーディアンへと近付く。その姿を見た者は間違いなくたじろいでしまうだろう。──人間ならば──。


 BUSYUUU!!!


 だが機械であり、防御システムに過ぎないガーディアンにそれは無い。迫ってくるモノは──否、この部屋へと入り込んだモノは全て排除する。ただそれのみ。それこそがガーディアンの持つ唯一無二のモノ。



「壊れてくれるなよぉ!」



 蒸気を吹き出す事で、自分を迎え撃つ準備を整えたと判断したグッドベリーが、今から壊そうとしている相手に場違いな要求を口にした。そして、疾走する。


 迎え撃つガーディアンは、腰を落として体勢を下げる。人として、それも女性として考えるのならば明らかに大きい部類に入るグッドベリーだが、5メートル近くあるガーディアンと比べれば、まさに大人と子供だ。


 子供の駄々を受け入れる大人の様に、体勢を低くしたガーディアンだったが、そこには一つ誤りがある。確かに迫る相手は自分よりも小さい。だがソレは子供なんかではなく、己を壊す事を躊躇う事は無い、ただの破壊者だ。



「はぁ!」



 グッドベリーが、疾走の勢いそのままに跳躍する。その高さはクライムのそれと比べても遥かに低い。だが、体勢を低くしたガーディアンに対しては十分な高さだった。



「おらぁ!」



 男勝りな声を上げ、片方のトンファーを狙っていたガーディアンの肩関節の隙間へと振り下ろす。

 だがそれは、さっきのクライムのサーベルと同等か、あるいは少し遅いくらい。であるならば──


 SYUU!


 低い体勢のまま、腕を振り上げるガーディアン。その背後から上がる蒸気は、先ほどのクライムの時よりも少ない。その量の違いが、グッドベリーとクライムの攻撃速度の違いと比例していた。

 簡単に対応するガーディアン。もし鈍色に光る機械人形に感情がプログラムされていたとしたら、吹き出した蒸気には、或いは嘲笑が含まれていたかもしれない。


 腕を上げて、関節の隙間への攻撃を防ぐガーディアン。その後の行動もすでに計算が済んでいる。関節への攻撃を防がれ、為す術もなくなって宙に浮く目の前の侵入者に、まるでコバエを叩き落とす様に腕を振り下ろすだけ。それで終わる。


 ──が、犬歯を剥き出しにして笑う“()の相手”は、コバエでも無ければ先ほど叩き落とした(クラ) (イム)でも無い。純粋な破壊者だ。



「邪魔だ!」



 乱暴に言い放つグッドベリーは、ガーディアンの肩関節へと振り下ろしていたトンファーの軌道をほんの少しだけずらす。その先にあったのは、下から突き上げられた銀色の拳。



「──【罪人堕とし(フォールダウン)】!」



 吠え上げたグッドベリーの放つトンファーが、淡い黄金色に包まれる。魔力を纏わせたトンファーによる振り下ろし。それがグッドベリーの最大スキル、罪人堕としだ。


 バギィイっ!!


 上げかけていたガーディアンの拳と、グッドベリーのフォールダウンが激突する。上がる火花と水蒸気。

 その奥に見えたのは、拮抗する両者の力。それは目を疑う事象だった。2メートル近い人間の女性と、5メートルを超えると思われる機械の力量差を考えれば、あり得ない事なのだ。


 ギリギリと競り合う二人。が、それに苛立った破壊者が、トンファーに込める魔力を上げていく。

 そして──



「堕ちろぉ!」

 BSYUUU!?



 威力を増したフォールダウンを受け、ギシギシと悲鳴を上げるガーディアンの腕。ガーディアンはあくまで機械でありプログラムだ。だからそんな事は無いはずなのだが、その吐き出された水蒸気には、驚きという感情が含まれている気がした。そう思ってしまうほどに、グッドベリーのフォールダウンがガーディアンの拳を圧倒的なまでに叩き堕とす。


 そうして無防備を晒したガーディアンの肩関節。それを見据えたグッドベリーが、もう一方の手に持っていたトンファーに魔力を乗せる。



「──貰うぞ」


 バギィイイ!



 吸い込まれる様にして、ガーディアンの肩関節に出来た隙間へと沈み込むトンファー。そして、そこにあったパーツや機関のことごとくを破壊する。


 BUSYUOOO!!


 機械に断末魔は存在しないが、折られた腕から大量に漏れ出る水蒸気が発する音がそれを感じさせる。それを聞いて、グッドベリーは口端を大きく釣り上げた。



「もう壊れちゃったのか?」



 それに浮かぶ意味は後悔。だが、含まれていたのは愉悦だった。



「……グッドベリー憲兵長、強い~……」



 言われた通り休みながら一人と一体の戦いを見ていたクライムが、ポツリと呟く。その声を聞いて、少しだけ自分を取り戻したグッドベリーは、乱れたままにしていた黒髪を撫でる。



「クライム、もう良いのか?」

「いえ、まだですぅ」

「ならばとっとと治すことだ。ヤツは片腕。私とお前が二人で掛かれば、活動停止させるのも造作も無い──」

『……システム、もしくはプログラムに問題が発生しました』



 すると不意に、部屋全体に響く警告。そして、



『侵入者の排除の為、全てのリミッターを外します。職員、関係者は直ちに退避してください。繰り返します。侵入者の排除の為──』



 ビィ~ビィ~と鳴りやまない警報。それと同時にコアの部屋を照らし始めた赤いパトライトの光。



「なんかぁ、マズくないですかぁ、憲兵長~?」

「良いからお前は早く薬液を飲め」



 不出来な部下に命令するグッドベリーの頬を、一筋の汗が流れて行く。だがそれはおかしいのだ。相手にしていたガーディアンの腕を片方破壊した女傑は、間違いなく有利の立場にいるのだから。

 しかし、グッドベリーの顔には余裕の色は無い。そこにあるのは濃い警戒。


 そしてその目が映しているのは、今までに見た事も無いほどの水蒸気をその背から吐き出している片腕の守護者。そして、さらに濃くした紅い目──。



 だからもう一度、女傑は不出来な部下に命令した。最大の忠告を含めて。



「……死にたくなかったらな──!」


三人称、いかがでしたでしょうか?


ご満足頂けたなら、幸いです。


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