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213話

 

 ヴ~! ヴ~!!



 警報が鳴り響くトップタウン。まだ夜だというのに、町並みを照らす照明は、先ほどまでの月明り程度では無くて、昼間の様な明るさだった。

 だけど、その警報の効果なのか、危険な事には近づかないとする、人間としての本能なのかは分からないけれど、人ひとり居なかった。──逃げる僕たちには都合が良かったけれど──



「はぁ、はぁ、はぁっ!」



 赤い光が空をグルグルと回り不気味な雰囲気が漂う中、僕たちはホワイトピークから逃げ出していた。



「ユウ! 早く!」



 僕の前を走るアカリが、後ろを走る僕を気遣う。それに応えたいけれど、今の僕には無理だった。



「ま、待ってよ! アラン兄が重すぎて!」



 ──そう、僕は気を失っているアラン兄を背負って逃げていたのだ──



 ~  ~  ~  ~



 片目に眼帯を付けた憲兵──グッドベリー憲兵長が、その腕にノラちゃんを抱えながら現れた。



「うぐぐっ! は、離しなさいよ……!」



 ジタバタと暴れるノラちゃん。だが、グッドベリー憲兵長は全く動じることなく、ノラちゃんの動きを封じる様に、さらに締め上げる力を強めていく。



「──!? っぐぅ!?」

「ノラちゃん!?」

「動くな!」



 身体を締め付けられる苦しさに呻くノラちゃん。マズい、今すぐ助けなきゃ!と、一歩踏み出す僕とアカリの動きを見てグッドベリー憲兵長は、締め上げていたノラちゃんを僕たちに見える様に突き出す。僕たちが動けば、さらにノラちゃんを締め上げるという牽制だ。



「ノラちゃん!? ユウ!」

「分かってる! けど、動いたらノラちゃんが……!」



 歯嚙みする。さっきのファイアランスで魔力のほとんどを使ってしまった。杖が無い今、魔法が使えても第一位格(シングル)が二回、三回って所だ。それじゃあ、クライムやタシロさんはおろか、グッドベリー憲兵長すら倒せないだろう。考え無しに動いた所で、何も出来ない!



「そうだ、そのまま動くな。……タシロ、クライム、今の内にそいつらを捕縛しろ」

「へいへい」

「分かりましたぁ」



 グッドベリー憲兵長が、ロープを投げつつ二人に指示を出す。その指示を受け、タシロさんとクライムはロープを受け取ると、タシロさんはグッドベリー憲兵長を睨み付けているアラン兄に、ジリジリと近寄っていく。銃を仕舞ったクライムも、僕たちを捕まえようと、近付いてきた。

 このままでは全員捕まっちゃう! どうする!? どうすればっ!?


(魔力が枯渇するけど、無理を承知で、第二位格(ダブル)を放つか──? でも動けなくなったら、意味が無いし──!)



「……を、放せよ……」

「……なんだ?」



 あれこれと考えていると、アラン兄の呟きが聞こえてきた。それは僕だけじゃなく、アラン兄を捕まえようとしていたタシロさんにも聞こえていたようで、足を止めたタシロさんが不審がる。

 すると、次の瞬間──!



「サラを放せって言ってんだろうがっ!!」

「ぬおっ!?」



 アラン兄が吠え、タシロさんを吹き飛ばす! そしてそのまま、ノラちゃんを締め付けていたグッドベリー憲兵長へと迫る!



「むっ!?」

「テメェ! サラを放しやがれ!!」



 黒のロングスピアを突き出すアラン兄! するとグッドベリー憲兵長は、あろう事か捕まえていたノラちゃんをまるで盾にする様に、迫るアラン兄に向けた! 



「うおっ!?」 寸前の所で槍を引っ込めたアラン兄が、ギリリと歯を鳴らす。



「テメェ、汚ねぇぞ! 人質を盾にするなんざ、外道のやるこった!」

「……その外道が何を言う? 良いから大人しく捕まっておけ」

「嫌なこった!」



 言うと、アラン兄がロングスピアを横に薙ぐ! 硬い柄の部分が、グッドベリー憲兵長の脇腹へと吸い込まれ──



「ふん!」

「え? きゃあっ!?」

「サラ!?」



 脇腹に当たる直前、グッドベリー憲兵長は抱えていたノラちゃんの向きを変える! それは、ロングスピアの柄が迫る脇腹──!


 カァン!


 硬い音が響く! アラン兄のロングスピアが、ノラちゃんのお腹へと直撃した音だ! 



「サラ! 大丈夫か!?」

「だから、私はサラじゃないってぇ……」



 文句を言うノラちゃんは、目に涙を浮かべてアラン兄を睨む。良かった、怪我は負っていない見ただ──。



「──なぁに、余所見してるのかなぁ?」

「──クライム!?」



 気付けばクライムが、すぐ傍に居た! その手に握られていたロープをピンと張り、まっすぐ僕へと伸ばす! マズい、捕まる!?



「ユウ! 何ボサっとしているのよ!?」

「アカリ!」

「うわぁ?」



 クライムが伸ばしてきた腕をアカリが取ると、すぐさま投げ飛ばした。投げられたクライムは、空中で回転すると、スタッとキレイに着地する。なんて身軽な奴なんだ!



「オラァ! いい加減、サラを返しやがれ!」



 その声に振り返れば、アラン兄が槍を構え、グッドベリー憲兵長に突進していた。でもその前に立ちはだかる人影──!



「おいおい、俺を忘れんなって!」

「──! テメェ!? うぐぅ!?」



 アラン兄には、タシロさんが見えていなかったのだろう。タシロさんが短剣で槍を受けながら、流れる様にアラン兄の背後へと反転、その首元に手刀を落とす!



「アラン兄!?」



 呻き、崩れ落ちるアラン兄。すると、黒のロングスピアが消え失せた。どうなってるんだ!?


(いや、今はそれどころじゃない!)


 アラン兄に立ち上がる様子は見られない。多分意識を失っているのだろう。そのアラン兄を、ズレた黒メガネをクイッと上げたタシロさんが、手にロープを持って近付いて行く。

 一方で、アカリに投げ飛ばされ離れていたクライムも、再びジワジワと近付いてくる!


(──仕方ない!)

「アカリ!」



 一人決心した僕は、アカリの名を叫ぶ! そして、練っていた魔力に意味を与える為、詠唱を紡ぐ!



「〈世界に命じる! 明かりをともせ! ライティング!!〉」



 スッと手をかざすと、光が生まれ、破裂した! 瞬間、辺りを白が埋め尽くす! 目くらまし様の変化版ライティングだ! しかも残っていた魔力を全乗せした! 目的は、効果時間の延長!



「なんだ!? うわっ!?」

「眩しいぃ?」

「くっ!?」



 タシロさん、クライム、そしてグッドベリー憲兵長が驚く。閃光で、その表情を見る事は出来ないのが残念だけど、そんな事よりもやるべき事がある!



 白い世界の中、アラン兄の元に走った僕は、その身体を持ち上げようとする。僕よりも大きいアラン兄を持ちあげるのはとても大変で、グッと足に力を込めた。だが、その途中でふとアラン兄の身体が軽くなる。アカリが持ち上げてくれたのだ。

 アカリの手助けを借り、そのままアラン兄を背中へと乗せるとアカリに向かって、叫んだ。



「逃げるよ、アカリ!」

「でも、ノラちゃんがっ!」

「今は諦めよう! このままじゃあ全滅だ!」

「──くっ!」



 悔しさを滲ませるアカリ。僕だって悔しい! これじゃあ、大回廊の時と同じだって事も分かっている。でもこのままじゃあ、みんな捕まっちゃう! それはどうしても避けたい!



「行こう!」



 気を失っているアラン兄を担ぎ直すと、部屋の入口、では無く割れた窓を目指す! 閃光が辺りを支配している中、そこだけポッカリと暗かった。まるで、これからの僕たちを示しているかの様だ。


 バッと窓から飛び出す! 大ホールに行くのに、階段を一回上っただけだから、ここが二階だと知っていた。二階からならアカリはともかく、僕も何とか着地出来ると思っていたから、躊躇う事無く飛び出した。



「ぐっ!? 痛ぅ!」



 だけど、アラン兄を背負っている状態での着地は、思った以上に負荷が掛かった。膝と腰がビキッと嫌な音を立てる! でも、気にしちゃいられない! とにかく逃げなきゃ!



「ユウ! 大丈夫!?」

「う、うん! とにかく逃げよう!」



 目の前の、まっすぐ伸びる通り。その通りを逃げ道に決めた僕たちは、ホワイトピークから逃げる! 背後からは、閃光が落ち着いたのか、グッドベリー憲兵長の指示が聞こえてきた!



「逃がすな、追え!」



 ~  ~  ~  ~



「それで、何処に逃げるのよ!?」



 まっすぐ伸びる通りを駆け、追っ手に追い付かれない様に途中で何度か小道に入り、ようやく足を止めた僕とアカリは、ひとまず荒れた息を整える。



「分からない。でも、取り合えずは安全な所まで離れなきゃ! ある程度離れたら、アラン兄を起こして、どこかに身を隠せる場所は無いか聞こう!」



 背中に背負ったアラン兄は、いまだ意識を取り戻す様子は無い。なら今は取り合えず、もっとホワイトピークから離れよう! アラン兄を背負い直して、赤い光と白い照明が交わり合うトップタウンの街中を、僕とアカリは再び走りだした。


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