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211話

 

「野郎! 生きていやがったか!」



 叫び、アラン兄がその手に持った全体が黒いロングスピアを、残骸から出てきたクライムへと突き出すと、「おわぁ、いきなりかいぃ?」と、掴んでいたノラちゃんの足をパッと離してそれを避け、僕たちから距離を取る様にクルクルと後ろに宙返りをしながら離れていくクライム。



「ちっ! すばしっこい奴だぜ! 下がこんなになってんのに、バク転かよ!」



 それを見たアラン兄がギリッと歯を鳴らすと、距離を取ったクライムを睨み、「待ちやがれ!」とロングスピアを構え向かって行く!



「ノイン様っ! 早くお逃げください! ノエルはノイン様をお守りして!」



 汚いものでも付いているかの様に、クライムに掴まれていた所をパパっと払うと、下げていたバッグからかなり大きめな銃を取り出したノラちゃん。その小さい身体には似つかわしくないのだが、どこか様になっていた。

 黒くてゴツい造りのその銃は、クライムや憲兵が持っていた銃とは違い、両手で持つようになっているみたいで、持ち手の部分が茶色の布地の被せが施されている。その持ち手の間に、持ち手よりも長い部品が付いている形になっていた。



「ノラ、それは?」

「新しい友達です! 本当ならランチャー君を持ってきたかったんですけど、あいにく鞄に入らなくて」

「また新しい武器ですか。あなたって人は……」



 テヘッと舌を出すノラちゃんに、呆れるノインちゃん。おでこに手を当て「はぁ」と溜息を吐くと、金色の前髪がハラリと前に零れた。ノインちゃんが呆れるなんて、初めて見たかも。



「安心してください。これはゴム弾ですから♪ 誰も犠牲者は出ませんっ!」

「……そういう事じゃないのですが。まぁ、良いでしょう。それで? ノラはどうするの?!」



「しょうがないですね」 ノインちゃんが諦めた様に首を振ると、顔を上げる。その様子を見るに、いつもノラちゃんはこんな感じなのかなっていうのが伝わってきた。そのノラちゃんは、ジャキっ!と銃を構えると、ステージまで移動していたクライムとアラン兄を見て、



「私はあの男を相手にします! 足まで掴んでご指名みたいでしたので!」



 笑った。その顔が、その無邪気さの中に意地悪さをたっぷりと乗せたその笑みが、アラン兄によく似ていると思った僕は、ステージで対峙する二人に顔を向ける。



「おい、てめぇ! 逃げんじゃねぇよ!」

「別にぃ。逃げてなんかないよぉ?」



 黒いロングスピアをクライムに向けて構えるアラン兄に、クライムは両手を上げてヒラヒラと振るう。それを挑発と受けたアラン兄が、鋭くに睨んだ。



「テメェ、何をふざけて──」

「──おい、クライム! 大丈夫か!?」

「──!?」



 その声は、ステージの舞台袖、その奥から聞こえた。すると、クライムと同じ憲兵服を着た、縁の丸い、黒い眼鏡を掛けた憲兵さんが、黒の憲兵服を着た仲間を数人連れて大ホールへと入って来た。マズい! 援軍だ!!



「ね? 逃げてないでしょ~?」

「──クソが!」



 そう吐き捨てたアラン兄だったけれど、さすがに分が悪いと判断したのか、ロングスピアを構えたままステージから飛び降り、クライムたちから距離を取った。


 離れたアラン兄を見て、嬉しそうに鼻を鳴らしたクライムが、新たに表れた憲兵に近付いていく。



「遅いよぉ、グラサン」

「副長に向かってグラサン言うな! 俺には、タシロって歴とした名前があんだからよ!」



 何かが塗ってあるのか、割れた窓から入る光を受けてテカテカと光る黒い髪。その黒髪をすべて後方へ流していた独特の髪型をしているそのタシロさんは、クライムに文句を言った後、ステージから離れた所にいるアラン兄。そして、僕たちを見た。



「それで、こいつらが?」 



 タシロさんが黒い眼鏡をクイッと上げると、その黒メガネの奥に淡く覗く目から、圧が発せられた! クライムに副長って言われていたけれど、あのタシロさんって人、強い……! 副長って言っていたから、もしかすると、クライムよりも強いのかも知れない!



「うん、そうだよぉ。それでぇ? グッドベリー憲兵長はぁ?」

「それがよ、所属不明な団体さんが、あろう事かトップタウンの一部の壁を破壊しやがってよぉ。キャビダルの旦那と一緒にそっちを対応しているぜ!」



「ったく! 外からウイルスが入って来たら、どうしてくれるんだって話だぜ! アンダーに居る奴らならともかく、ここの住人に被害が及べば、また五月蠅く言われるってのによ!」 



 ステージに転がっていた、椅子か何かの欠片を蹴っ飛ばすタシロさん。 そのタシロさんの隣に並んだクライムは、頭の後ろで手を組むと、



「そうなのぉ? じゃあ、あいつ等は”裏”じゃないのかなぁ?」

「”裏”? どういう事だ?!」

「壁に穴を開けたのは、あのおかしな恰好をしている女の子たちってことだよぉ」



 そう言うとクライムは、新たな憲兵の登場で、慎重にステージへと向かっていくノラちゃんを、顎で指した。



「”裏”の人間がぁ、壁に穴なんて開けないよねぇ? だから、あいつ等は”裏”の人間じゃないって事だよぉ」

「じゃあ。あいつ等はなんだ?」

「わかんなぁい。でも気を付けてぇ。スタングレネードを持ってるからぁ」

「グレネードだと? んじゃ、”裏”って事は無ぇな。それにしてもグレネードたぁ、戦争でもおっ始めようってんじゃ無いだろうな?」

「う~ん、どうだろう~? それは直接、本人に聞いてみてぇ!」

「あ、おい!?」

「──!?」



 言うなりクライムは、アラン兄の隣で大きな銃を構えるノラちゃんへと向かっていく! そのクライムに銃口を向けようとしたノラちゃんだったが、その前にアラン兄が立ち塞がった!



「ちょっと! アンタ!?」

「アイツの相手は俺がやる! お前は下がってろ!」



 そう言うと、向かってくるクライムに鋭くロングスピアを突き入れる! 



「おらぁ! お前の相手は俺だって言ってんだろ!」

「へぇ? 逃げたくせにぃ、良く言うねぇ?」

「あぁ! 誰が逃げただ、コラぁ!」



 アラン兄の突きを、横に飛んで避けたクライムは受け身を取ると、そのまま上着の中に手を入れ、銃を取り出す! そして、その先をアラン兄へと向けた!



「さてぇ、君は躱せるのかなぁ?」

「くっ!?」

「退きなさい!」



 パァン!と、発砲するクライム! 赤い魔力を発した銃口から飛び出た玉は、アラン兄では無く、そのアラン兄を退かしたノラちゃんのお腹に当たる!



「くぅ?!」

「──!? おい、サラ!?」

「誰がサラよ……! 大丈夫、防弾着を着ているから」



「それでも効いたぁ……」 ケホケホと咳をしながら、痛そうにお腹を擦るノラちゃん。その足元にカランと、ノラちゃんに当たった玉が転がった。え? どうなってるの!?



「お返しよ!」 ノラちゃんが、持っていた大きな銃を、体勢を整えていたクライムに向けると躊躇い無く撃つ! ドン!と重い音を上げたその銃から放たれたのは、黒く丸い、木の実大の玉だった。


「くっ!?」 まっすぐ向かってくるその玉を、あろう事か持っていた銃で受けるクライム! だが、玉が重いのか、顔を苦痛に歪め呻いた。それでも何とか受け止めたクライムは、「あ~、痛かったぁ」と、手をプルプルと揺らす。 すごい! あれを受け止めちゃうのか!



「ノラ!」

「大丈夫です、ノイン様! 私に構わず、お早く!」

「必ず来るのですよ!」

「分かっていますって!」



 ノラちゃんが戦う所を、心配そうに見つめていたノインちゃんが声を掛けると、クライムから目を離さずに、ノインちゃんへと伝えるノラちゃん。どうやらノラちゃんは、ノインちゃんとノエルさんがホワイトピークから逃げたのを確認した後、最後に逃げようって考えている様だ。ならば、僕たちがやるべき事は──!



「アカリ!」

「えぇ、解っているわ!」



 頷くアカリが、二人の元へと駆けて行く。僕は振り返るとしゃがみ込み、ノインちゃんの顔を見て、



「僕たちも行きます! ノインちゃん、ノエルさんをお願いします!」

「分かりました。 本当にユウさんにはとてもお世話になりました」

「そんな事はありませんよ! それに止めましょう、なんかもう会えないみたいな」

「……」

「……ノインちゃん?」

「ユウ、早く!」



 まるで、最後の別れを言うような雰囲気を漂わせるノインちゃん。その隣で、怪我をした腕を押さえるノエルさんも、悲しげに顔を伏せる。その雰囲気に、何かを感じた僕は、金色の長睫毛(まつげ)が生える目を伏せたノインちゃんの肩に触れて、なぜそんなに悲しそうなのかと問おうとした時、アカリが叫ぶ。見れば、タシロさんと一緒に入って来た黒服の憲兵たちが、向かってきている所だった。マズい、アカリ一人じゃ無理だ! 早く行かないと!



「じゃあ、行きます! また後で!」

「……ご武運を」



 向かってくる憲兵を迎え撃とうと、僕もそこへ向かう。途中、後ろを振り向いたが、ノインちゃんの姿もノエルさんの姿も、もうそこには無かった。


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