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208話

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 トップタウンに夜の照明──なんでも月明りを表現しているらしい──が落とされる。

 ミッドタウンやロワータウンは、乱雑に立つビルから漏れ出る光があるから、夜でもかなり明るかったけれど、ビルの無いトップタウンの町並みはとても暗かった。


 そんな暗い町並みを抜けて僕たちは駆ける。その目的は、連れ去られたノインちゃんを連れ戻す為。

 ──そう、『ノインちゃん奪還作戦』だ──!



「……おい、お前ら。手筈は覚えているんだろうな?」



 黒いジャケットをはためかせながら、先頭を走るアラン兄。その後ろには、無言で頷くノエルさん。



「あんたこそ、気を抜いていないでしょうね?」

「んだとコラ!?」

「もう! 騒ぐと周りにバレちゃうよ!」



 ノエルさんの後ろを走るアカリが、アラン兄に噛み付くと、案の定アラン兄が言い返す。もう! 少しは大人しくしようって気は無いの!?


 最後尾を走る僕は、相変わらずの二人を見てがっくりと肩を落とす。こんなのでほんと、作戦は上手く行くのかなぁ……。



「……見えてきたぞ」



 騒ぐ二人を尻目に、ノエルさんが顔を上げる。そこには、僕たちがこれから向かう建物が、月明りの照明に照らされて、ひっそりと佇んでいた。──目指した場所は、ホワイトピーク──。



 ☆



「……よし、開いてるな。さすがシーラだ」



 目立たない様に、なるべく小道(それでも広かったけれど)を走って来た僕たちは、ホワイトピークの側面──ではなく、何と正面玄関の前に向かう。そして、昨日の昼間、二人の憲兵が立っていたガラス張りの扉──自動ドアというらしい──に近付いたアラン兄は、一度周りを警戒した後、そのガラスの扉を横にずらす。すると、スッと音もなく開いて行った。

 アラン兄の考えた作戦に、『正面の自動ドアを開けておく……担当 シーラ』と書かれていた通り、シーラさんが鍵を開けておいてくれたのだ。



「それにしても、なんで側面の扉に行かないのさ? 正面玄関だと目立っちゃうのに」



 アラン兄に続き、ノエルさん、アカリと中に入り、最後に中へと入った僕は、アラン兄に気になっていた事を質問する。すると、



「バカ野郎が。通用口には警備が立ってるって書いてあっただろ!」

「確かに書いてあったけれど、なんで正面玄関じゃなくて、その通用口に警備が立っているのさ?」



 僕としては、ごく当たり前の質問をしたつもりだけど、それを聞いたアラン兄が「はぁ」と頭を押さえて、



「良いか坊主。今日ここで“闇市”っていう人身売買が行われるって説明したよな?」

「うん、聞いたけど?」

「その人身売買ってのは、このバクスター、いや、おそらく他の都市国家でも禁止されている事なんだ。だから“闇市”なんていう呼ばれ方をしている。ならば判るな?」

「……いや?」

「──禁止されている“闇市”。それに参加する人が、堂々と正面から入ると思いますか?」

「……あ」



 段々と呆れ口調になっていったアラン兄の代わりに、最後はノエルさんが答えてくれた。その横では、アカリがウンウンと頷いている。ほんとに分かっていたの、アカリ?



「という事は、その“闇市”の参加者の身元を調べる為に、護衛をその通用口にだけ配備したって事なのか。でも、他にも警備する人は居るのに、どうしてそこだけ?」

「こういう悪いことはな、少ない人数でやるのが良いのさ。それにこんな夜中に、わざわざ正面玄関に警備を配したら、中で何かやってますって言っている様なもんだろ?」

「……確かにね」



 凄く納得してしまった。特に悪い事は少ない人数でって所に。

 小さい頃、教会の神父さんにイタズラしようって事になった時があった。面白そう!って、村中の子供たちが参加したんだけど、イタズラする前にバレてしまった。原因は、誰かが親に話しちゃったかららしい。誰だかは分からないけれど。



「分かったなら、早く行こうぜ」



 大回廊の時みたいなオレンジ色の灯りが所々を照らすだけの、ほぼ真っ暗なホワイトピークの中を、アラン兄が静かに移動していく。その後ろに続く僕たち。広い廊下に設置された案内板には、僕たちの向かう先は、“大ホール”と書かれていた。



 ☆



『皆様! 今日はようこそいらっしゃいました! 年に一度のこのイベント! 本日もお気の済むまで楽しんで頂けたら幸いにございます!!』



 目だけを隠した仮面を付けた小太りな司会者が、手に持つ銀色の筒──マイクに向かって話すと、その声が大ホールに響いていく。すると、それに負けじと、色々な仮面を付けた闇市の参加者たちが盛大に沸いた。


 ここは、忍び込んだホワイトピークの一室だ。と言っても、とても広く、人が300人は入れる広さがある。


 部屋の奥はステージになっていて、黒のスーツに赤い蝶ネクタイを付けた小太りの司会者が、これから行われる“闇市”についての注意事項を話している。

 そのステージの向かい側は階段状の観客席になっていて、どこに座ってもステージが見下ろせる様な造りになっていた。まるで、おとぎ話とかに出て来る闘技場みたいだ。


 この場所で、今夜、闇市”と言う名の人身売買が行われ、ノインちゃんが商品として出品されるのだ。(僕たちの大事な仲間を!)と、考えるだけで怒りが込み上げて来る。



「バカ野郎どもが……」



 ノインちゃんを奪還する為、闇市の会場に忍び込んだ僕たち。すると、僕の左隣に座っていたアラン兄が、闇市の開催に沸く人たちを見て怒りを露にする。その向こうに座るノエルさんも、同じ様に目を鋭くしていた。



「それにしても、この恰好はどうにかならなかったの?」



 そんな中、僕の右隣に座っていたアカリが、穿いていたスカートの裾を摘み、文句を言う。アカリの今の恰好はメイド服では無く、落ち着いた雰囲気の赤いドレス姿だった。


 流石にメイドさんの恰好だと目立ってしまうからと、事前にシーラさんが用意してくれた物だ。

 なんでも私物らしく、前にアラン兄と”裏”の仕事の時、任務で恋人役をやった際に着ていた物らしい。この服をアカリに渡す際に、アラン兄と──



『ん?その服、どこかで見た事がある気がするぞ?』

『──!? そ、そんな事無いわよ! 気のせいでしょ!』

『いや、確かにどこかで見覚えが……』

『どこにでも良くあるドレスだからでしょ!』

『そ、そうか……?』



 ──なんてやり取りをしていた。けどその後、ドレスを受け取ったアカリが、僕の耳元にそっと顔を近付け、



『シーラさんから、この服を貸してあげるって渡された時、とても大事そうに箪笥に仕舞われていたのよ』



 と、コソッと教えてくれたっけ。



「こんなの、動き辛くてしょうがないわよ!」

「我慢しなよ嬢ちゃん。こんな所にメイドが居たら不味いだろ?」

「それはそうだけど……。ノインちゃんの為なら、仕方無いわね」

「……それにしても、これだけ騒げば、周りの人が気付くんじゃ?」



 小太りの司会者が、面白可笑しく闇市の説明をするたびに、盛り上がる会場。これだけの人間が大騒ぎすれば、このホワイトピークの隣近所に建つ建物の住人が気付いてもおかしくないと思うのだけど。



「いや、ここは完全防音だからな。外には音は漏れねぇよ」

「そうなんだ。周りの人が気付いてくれたら、この闇市の事も通報してくれて、ノインちゃんも簡単に取り戻せると思ったんだけど」

「そんな甘い考えは捨てることだな、坊主。……お、始まるぞ」



 アラン兄がステージを顎で指したのでそちらを見ると、司会者がステージの中央から退いた。すると不意に会場内の照明が落とされる。それだけで盛り上がる参加者の人達。いよいよ闇市が始まった。



 ☆



『113番の方、落札です!! おめでとうございま~す!!』



 ステージの端に立つ小太りの司会者がそう宣言すると、会場内が喧騒に包まれた。



「いや~、今の“商品”は落札したかったですなぁ」

「いや、全くです」



 僕たちの前に居る大きな仮面を被った男の人が、ステージ上でぼーっと立つ、白い布切れを羽織っただけの男の子を見ながら、そんな事を口にした。

 ステージ上の男の子は、どこか様子が変だった。ぼうっとした虚ろな目で、ただ立っているだけ。逃げる事も、叫ぶことも、そして泣く事もせずにただ立っているだけだ。アラン兄にどうしてだか聞くと、端的に「クスリだ」と答えてくれた。


 “闇市”。それは人間に対してのセリだ。しかもその実態は、ステージの上に上がる、僕よりもずっと年下の子供たちを、仮面を付けて正体を隠した大人たちが、好きな様に値段を付けては買っていくというものだった……。



「……下衆が……!」



 隣に座るアカリが、歯をギリリと鳴らす。椅子の肘掛けを握り締め、今にも飛び出して行きそうだった。



「アカリ、今は我慢して!」

「ユウは我慢出来るの!? あんな年端もいかない子供たちが売られていく様を見て、何とも思わないの!?」

「そんな事は無い! 僕だって今すぐに止めさせたいよ! でも、今出て行ったら、ノインちゃんを助けてあげられなくなってしまう!」

「なら、あの子たちはどうなっても良いって言うの!?」

「……全員を助けられる余裕があんのか、俺らによ?」



 僕たちの会話を聞いていたアラン兄が、アカリを睨み付けた。その目は、とても深い蒼色をしていた。



「例え余裕が無くても、助けられるのならば助けるのが、善良な市民の義務でしょ!」

「それで焦って動いた結果、あのガキどもはおろか、ノインまで助けられないって寸法か?」

「──あなた、今なんて──」



 アカリがアラン兄を睨み返す。その目は少し紅い色に染まっていた。まるでその瞳に怒りを宿した様に。



「……力の無い正義は無力なんだよ。だったら、例え一人だけだったとしても、そこに全力を使うのが善良な市民ってもんだ」

「……あなたの考えはそうなのね……。 ならば、私たちは一生分かり合う事は無いでしょうよ」



 アカリのその言葉を最後に、無言で睨み合う二人。その二人に挟まれた僕は、いつもならアワアワとしながら止めるのだが、今回は止める事が出来なかった。二人とも言っている事が間違っていないと思ったからだ。


 闇市が始まって、セリに掛けられた子供は15人。そのほとんどがノインちゃんと同じか、ノインちゃんよりも幼い男の子や女の子だ。その子たち全員を助けられるほど、今の僕たちには力が無い。ならば、ノインちゃんだけでもここから救い出したい。

 その一方で、売られていった子供たち全員を助け出したいという気持ちもある。見て見ぬふりなんか出来ないし、例えノインちゃんを助けられたとしても、他の子供たちを助けてあげられなかったという後悔は、この先ずっと抱えてしまうだろう。


(どうするのが最善なんだろ)


 答えが出ない。動けないまま、先ほど買われた男の子が、司会者に手を繋がれ舞台袖へと消えて行った。



 すると突然、会場内の照明がすべて消え、暗闇に包まれる。「なんだ!?」「どうした!?」と周りの参加者が騒ぐ中、一筋の照明がステージ脇に立っている小太りの司会者を照らし出した。



『今年のイベントも、次の商品で最後になります。トリを飾るに相応しい最後の商品は、眉目麗しい、黄金の少女にございます!』

「黄金の少女だって!? まさか──!?」



 スポットライトが、司会者からスウッと移動していく。そして、いつの間にかステージの上に立っていた金髪の少女に当てられた。 間違いない! ノインちゃんだ!



「ノイン様っ!?」

「バカ野郎、まだ動くんじゃねぇよ!」



 他の子供たちと同じ様に虚ろな表情を浮かべるノインちゃんを見て、思わず立ち上がるノエルさんを、アラン兄が何とか抑える。



「これは上玉ですな!」

「えぇ! 今から何をさせようかと想像するだけで、年甲斐も無く心躍りますなぁ」



 前の席に座る仮面の男の人が、ノインちゃんを見るなり声を弾ませる。そんな二人の会話を聞いて、ノエルさんとアカリが殴り掛かろうとするのを何とか押さえた。


 だけど、ノインちゃんを見てそんな気持ちの悪い事を言うのは、何も目の前の二人だけではなかった。

「今すぐ虐めたい!」「あれを壊したい!」「俺はあの子を愛し尽くすぞ!」 口々に自らの欲望を曝け出す仮面の参加者たち。その声に気を良くしたのか、司会者が手に持つマイクを高々と掲げた。



『100万トイからスタートです!!』

「110!」「150!」「200だ!」



 セリの開始とともに、会場内が一気に熱を増していく。それに比例する様に、ノインちゃんに付けられる額が驚異的に上がっていった!



「300!」「500っ!」「750出すぞ!」

『750万が出ましたぁ!! 他にいらっしゃいませんかぁ!?』



 自分の番号を示した丸い札が上がるたびに、どよめきと興奮が渦巻いていく。トイという価値が分からないけれど、ノインちゃんの前の子供が10万トイという値だった事からも、ノインちゃんの値段が桁外れな事が分かる。



「よし、そろそろ行くか……」



 その異常な雰囲気に飲まれつつあった僕。その僕の耳に、アラン兄の声が聞こえた。その事でやっと自分のやるべき事、作戦内容を思い出す。



「──1千万だ」


 ──し、ん……


 アラン兄が、自分の番号札を高く掲げ、値段を提示する。その瞬間、会場が静まった。だがそれも一瞬だった。


 ──ざわっ!?


「い、一千万だと!?」

「おい、聞き間違いでは無いのか!?」



 前に座る仮面の男の人がアラン兄へと振り向く。仮面を付けているというのに、酷く驚いているのが伝わってきた。ざわつく会場が、さらに異様な雰囲気に拍車を掛ける。



『い、1千万が出ました~!! “闇市”史上、最高提示額でございます~!!』



 司会者の人が、アラン兄を指差す。すると、会場内の注目が一気に集まった。

 僕たちも、他の参加者たち同様に顔を覆う大きさの仮面を付けている。ノエルさんがこのトップタウンで買ってきた物だ。仮面を付けているから、僕たちの正体は誰にも分からない、はずだ。でも、これだけ注目されると、誰かにバレてしまうんじゃないかと不安に駆られた。その時、



「──二千万」



 ざわっ──!?



 ステージにほど近い、銀色の仮面を付けた男性が、番号札を掲げてそう口にすると、会場の空気が一変する。 アラン兄に注目していた人たちが、一斉にその人を見た。



『に、二千万が出ました~!!』

「に、二千万ですと~!?」

「たかが、低層の子供にそんな額を付けるとは!?」




 司会者の人が背筋を伸ばし、僕たちの前に居た人がさらに驚く。僕たちも言葉を失った。


 アラン兄の作戦、それは“闇市”の会場に忍び込み、ノインちゃんを買う事だ。といっても、ほんとに買う訳では無い。買う振りをするだけだ。そして、ノインちゃんを落札した後に、お金を払う振りをして責任者を眠らせ、その隙にノインちゃんを連れ去る予定なのだ。

 だから何としてでもノインちゃんを落札しなくては言えない。だから、この“闇市”史上最高額をアラン兄は提示したのだ。なのに、競ってくる人が居るなんて!



「アラン兄!?」

「まさか、競られるとはな……。だが、まだ予算の範囲だぜ! ──三千万だ!」

『さ、三千万!?』

「……四千万」

『よ、四千、万……?』

「……五千万だ!」

『ごしぇん?』

「七千万」

『……』



 アラン兄と銀の仮面の男性が競り合い、値段が跳ね上がっていく。その額に司会者の人はついていけなくなり、会場の人はアラン兄と銀仮面の男性が上げる札を、まるでシーソーの様に黙って追うだけだった。



「な、七千万って、もう予算外じゃないか!」

「……くっ!」



 僕たちの用意したお金は、五千万トイだとアラン兄が言っていた。そのお金は、アラン兄とシーラさんが”裏”の仕事で奪ったお金らしい。僕がアラン兄から渡された銀の鍵は、そのお金が入っていた金庫の鍵だった。



「だからって諦められるかってんだ!」

「……アラン兄!?」



 厳しい顔をしたアラン兄。だけど、フルフルと顔を振るとカッと目を見開き、



「な、七千五百!」

「……八千」

「八千三百!」



 一歩も引かないアラン兄。もはや予算はとうに過ぎている。でもノインちゃんを助けるにはこれしかないのだ! なら、働いてでもそのお金を用意しよう! どの位掛かるか分からないけれど。


 すると、間髪入れずに競ってきた銀仮面の男性が初めて黙った。迷い、悩んでいるみたいだった。もしかすると、あの銀仮面の男性にとっても、予想外の額だったのかもしれない。ならば──!



「アラン兄!」

「おう! ちと予算オーバーだけど、まぁ、何とかなんだろ! それよりノインの方が大切だからな!」

「アラン殿……! 感謝します!」

「何言ってんだ、ノエル! お前も稼ぐんだよ! ここに居る俺たちで稼げば、五年くらいで返せんじゃねぇか?」

「ご、五年!?」



 差額の三千万トイを稼ぐのに、五年は掛かるとアラン兄は言う。ご、五年も元の世界に戻れないの!?



「……九千……」



 そんなやり取りをしていると、銀仮面の男性がゆっくりと札を上げた。その札はかなり震えている。やっぱり、かなり厳しい額なのは明白だった。


 もはやあり得ない金額なのだろう。会場内の誰一人として何も話さない。進行しなくちゃいけない司会者も、だ。



「アラン兄! もうちょっと頑張ってみる!?」

「……どうしてだ? どうして……?」

「アラン兄……?」



 銀仮面んの男性の様子を見て、アラン兄に進言した。だけど、そのアラン兄が、普段絶対に見せない弱気を見せる。その様子がおかしい事に気付いた僕はアラン兄に声を掛けるが、ワナワナと震えているだけだ。



「……どうして助けようとすると邪魔をする? そんなに俺の事が嫌いなのか……?」

「アラン兄、しっかりして!」



 明らかに様子が変だ。袖を掴んで揺らしても、全くこっちを見ようとしない。だというのに、



『そちらのパピヨンのお客様……。九千万ですが、下りられますか?』 司会者が非情にも告げて来る。 ステージに目を向けると、銀仮面の男性がこちらを見ていて、その露出している口許は笑っている。もうこっちが下りると確信した顔だった。



「アラン兄、どうするの!? このままじゃ終わっちゃうよ!?」

「アラン殿! ノイン様が! ノイン様が!!」



 ノエルさんも袖を揺する。だが、アラン兄はブツブツと呟くだけだった。



『ありませんか!? ──では、こちらの商品は、8番のお客様に──』

「アラン兄!!」



 セリの終了を告げる司会者。ダメだ! まだ終わっちゃ──!


 すると、僕の脇からスッと赤い袖が伸びてきて、アラン兄の番号札を奪い取る。そして──、



「一億」



 ~~~~~~!!?



『い、い、一億トイが出ました~!!』



 アカリがそう宣言すると、会場が揺れた。力無く下ろされた銀仮面の男性の札。その瞬間、セリの終了が告げられ──、



「──その札を下ろしてくれるかしら? お嬢さん?」

「え?」



 声がした方を見ると、いつもの灰色のスーツを着たシーラさんが、アラン兄の後頭部に銃口を突き付けていた。



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